第222話 水操変転
アルス・キマイラの魔石が全滅し、残されたのがジオ・イクシードの魔石一つだけという悲惨な状況を前に、俺は人生の虚しさを理解した。
――って、そうじゃなくて。
「まさか、ここまでスキルを入手できる確率が低いとは思ってなかったな。いや、SPを使わずに獲得できるだけでも規格外だし、これくらいでも不思議じゃないか」
魔石自体は、冒険者として活動していく上で幾らでも入手できる物。
数十個やそこらで新スキルを獲得できるというのは、少し甘い考えだったのかもしれない。
しかしそうなると、今後どうするかを少し悩んでしまう。
魔石はエネルギー源として使われるため、売却すればかなりの金になる。
AランクやSランクの魔物にもなればなおさらだ。
生活のことだけを考えるなら、売ってしまうのが最善に思えるが――
「いや、そんなことないよな」
俺は首を横に振る。
十分に豊かな生活を送れるだけの金なら、これまでの日々で既に手に入れている。
それよりも今、俺が優先すべきは強くなることだった。
ひとまずの目標であるSランクに達成するため。
そして、その先にいる彼女を超えるため。
得られるチャンスは一つたりとも無駄にしたくない。
「そもそも金が欲しいなら、魔石以外の素材を売ればどうとでもなるからな……よし!」
改めて方針を決めた俺は、最後の一つであるジオ・イクシードの魔石を握る。
数ある魔石の中、唯一これだけがSランク。つまり本命だ。
「さあ、頼むぞ」
強く念じた、その直後だった。
『称号【万物を喰らう者】によるスキル獲得判定を行います』
『判定終了。スキル獲得に成功しました』
『スキル【
俺の脳内に鳴り響いたのは、待ちに待った成功を告げるシステム音だった。
「っ、きたか!」
ようやく成功したことに歓喜しながら、俺はスキルの情報を確認する。
――――――――――――――
――――――――――――――
「これは……」
一文目の、『MPを消費することで水を自由自在に操ることが可能』。
これは恐らく、先ほどのジオ・イクシードや、以前に戦ったリヴァイアサンが発動していたものに近い効果だろう。
水魔法の使い手であれば、喉から手が出るほどの性能。
俺は基本的に魔法を戦闘時に使わないが、それでも使いどころはあるはず。
たとえば、敵からの攻撃を防ぐ場合。
現状でも一応、
しかし前者は魔法にしか発動できず、後者には使用制限が存在する。
その点、この水操変転は魔力で生み出されたかどうかにかかわらず、水であれば自由に操ることができるため、状況こそ限られるが役に立ってくれるはずだ。
「それに、事前に
ひとまずの確認は終了。
次に、『より大量のMPを消費することで状態変化を発生させることもできる』という一文に視線を落とす。
「要するに、水を氷や水蒸気に変えられるってわけか。MPはかなり消耗するみたいだが、これも使い方次第ではかなり化けそうだな」
総じて、十分に優秀なスキルだと言えるだろう。
タダで獲得できたことを考慮すればなおさらだ。
「本格的に実戦投入できるかは、今後の攻略で試していくとして……現状で確認できるのはここまでだな」
そう呟きつつ、俺は歩き始める。
予想外の報酬も獲得しつつ、俺の合獣ダンジョン攻略は今度こそ完全に終了するのだった。
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