第193話 報告

 淡い光に包まれ地上に帰還する直前、俺はふと思い出した。

 このまま地上に戻ってしまえば、ダンジョンの周囲にいる者たちから姿を見られてしまう。

 大量の魔物が地上に出てくる中、どさくさに紛れて突入した先ほどとは違い、かなりの注目を集めてしまうだろう。

 できれば、Aランクダンジョンのラストボスを単独で討伐したなどと知られたくはない。


 となると、どうするべきか。

 隠密を使用して姿を隠した上で、帰還と同時にその場から離れるか?

 しかしそれだと、ダンジョンが消滅したのに誰も地上に戻ってこなかったとして、面倒なことになる気がするが……


 と、そんなことを考えている間にも転移魔法は発動し、俺は地上に帰還する。

 そして周囲を見渡し、その心配が杞憂きゆうだったことを悟った。


「これは……」


 そこにいたのは七海さんただ一人。

 周囲には誰もいなかった。


 その光景を見て不思議に思っている俺に対し、七海さんは言う。


「おかえり、天音くん。想像以上に早かったね」

「そうですか?」

「ああ。どれだけ早くとも1~2時間はかかるものだと思っていたが……君が入ってからまだ20分と経っていない」


 そうか。七海さんはダンジョン内転移のことまでは知らないため、俺が正攻法でダンジョンを進んでいくと考えていたようだ。

 それなら確かに、数時間はかかると予想するのが自然だろう。


 ここで俺は、先ほどから気になっていることを尋ねる。


「それより、この状況は一体? 七海さん以外は誰もいないようですが」

「突然ラストボスが外に出てきた場合、周囲にも被害が及ぶかもしれないと言って避難させておいたのさ。しっかりと結界を張った上でね」


 言われてみると、確かにここら一帯を覆うようにして巨大な結界が張られているようだ。

 おかげで帰還するところを見られずに済んだ。

 俺は心の中で感謝を告げる。


「さて、それじゃさっそくだが、中の様子がどうだったか聞いてもいいかな?」

「はい」



 中の様子――とはいってもラストボスのことがほとんどだが、俺はこの20分間のうちにあったことを話していく。

 ボス部屋にて、オルトロスからケルベロスに進化したラストボスが待ち受けていたこと。

 七海さんの予想通り、討伐推奨レベルが10万に達していたこと。

 死力を尽くし、なんとか討伐することに成功したこと。



 最後まで俺の話を聞いた七海さんは、手をあごに当てながら何かを考え込んでいた。


「ふむ、そうか。もしやとは思ったが本当に10万まで強力化していたとは。そしてそれを単独で討伐してみせた……か。治療時に感じた魔力から考える限り、とてもそれが可能な実力とは思えなかったが、それを含めて彼女に似ているな」

「七海さん? 何か言いましたか?」

「いや、なんでもない」


 何かをブツブツ言っていたので尋ねてみたが、七海さんは首を横に振る。

 そして、


「すまない、天音くん。疲れているところ悪いが、これから少し時間を貰えるかな? 君と話しておきたいことがあるんだ」


 そう告げるのだった。

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