第151話 つかの間の平穏

 俺たちは適当に店を見て回りながら、華たちがいるであろう方向に歩いていく。


 その途中、ファッション系のお店で伊達メガネやネックレスなんかをつけてみたり、店員からカップルと間違えられたので否定したらなぜか由衣が俺をジト目で睨んでくるといった出来事がありつつも、それなりに楽しい時間を過ごしていた。


 通路を歩く中、由衣は自分の家族について教えてくれた。


「そうか、由衣には妹がいるのか」

「はい。妹と私の二人姉妹ですね」


 言われてみると、なるほどという気分だった。

 少し抜けているところはあるが、確かに由衣には面倒見のいいお姉ちゃんといった印象がある。



「妹はどんな子なんだ?」

「物静かな子です。昔から体が弱くて、季節の変わり目なんかは体調を崩して学校に行けないことも多いので、それが関係しているのかもしれませんが……でも、すっごく優しい子なんですよ! それにめちゃくちゃ可愛いんです!」

「由衣にとって自慢の妹ってわけか」

「はい!」



 パアッと顔を輝かせて、由衣は頷く。

 本当に妹が大切なんだろう。その気持ちは俺もよく分かる。

 妹を誇らしげに語る由衣を見るだけで、俺まで心が満たされるようだった。


 そんなことを思っていると、由衣は「あっ」と声を上げる。


「妹の写真があるんですけど見てみますか?」

「いいのか?」

「はい」


 由衣から渡されたスマホの画面には、由衣と並んで座る女の子の姿があった。

 肩口で切りそろえられたセミロングが特徴的な、落ち着いた雰囲気の可愛らしい女の子だった。


「今は中学三年生で、名前は紗衣さえっていいます。可愛いですよね?」

「ああ。さすが、由衣の妹なだけあるな」

「……んへっ!?」

「ん?」


 どうしたんだろうか。由衣は突然奇妙な言葉を零し、その場で飛び跳ねる。

 由衣の顔は真っ赤になっていた。


 どうしてそんな反応をしたのか分からないまま様子を見ていると、由衣はむぅ~と頬を膨らませて言う。


「り、凛先輩! いきなりそういうのは卑怯だと思います! どうせ零ちゃんたちにも同じことをしているに違いありません!」

「いきなりどうしたんだ。流れが見えないが」

「ご自身の言葉を思い返してください!」

「はい」


 必死な様子の由衣に従うようにして、俺は会話の流れを思い出す。

 由衣の妹である紗衣ちゃんの写真を見せられたあと、由衣が可愛いですよねと同意を求めてきたので俺は相槌を返した。

 確かに、由衣の妹なだけはあるなと――。


「――ッ」


 そこで俺はようやく、由衣が顔を赤くしている理由に気付いた。

 今の言い方だと、俺が由衣を可愛いと言ったも同然じゃないか。


「いや、今のはそういう意図じゃない……わけでもないんだが」

「っっっ」


 一瞬否定しようと思ったが、それはそれで少し違う気がする。

 だって、俺が由衣のことを可愛いと思っているのは事実だし。

 さっきのは、実際にそう思っているからこそ出た言葉だ。


 零が綺麗さを含んだ高嶺の花タイプだとすれば、由衣は誰に対しても優しく接してくれる、同級生の男子全員勘違いさせて絶望させる系タイプだといえるだろう。なんだそのタイプ。


 って、そんなことはどうでもよくて。

 俺と由衣の間に不思議な空気が流れ、気まずさを覚え始めた、その時だった。


「……ラブコメの気配を察知」

「私たちがちょっと目を離したすきに……ふーんだ」

「「っ!」」


 いつの間にかやって来ていた零と華が、頬を膨らませて俺たちを見ていた。

 俺と由衣は二人に対して慌てて弁解する。

 その途中、俺は心の中だけで、気まずい空気を断ち切ってくれた二人に感謝を告げるのだった。



 その後、合流した俺たちは今後こそ四人でショッピングモールを見て回った。

 11時を過ぎたタイミングで、少し早めの昼食を食べることにした俺たちは、ショッピングモールの中にあるフードコートに足を運んだ。


 席を確保した後、まずは華と由衣が料理を買いに行き、俺と零の二人が残る。

 すると、


「凛」

「ん?」


 俺の隣に座った零が、ぐいっと距離を詰めてくる。

 そして周りには聞こえないような声で言った。



「凛と二人で話したいことがある」

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