第106話 エピローグ
柳との死闘から数日が過ぎたある日、俺はとある場所にまでやってきていた。
「随分と久々に感じるな」
俺は小さくそう呟いた後、眼前に
隔絶の魔塔が出現してからもう一週間以上は経っているためか、調査に来ている人数は以前よりも遥かに少なくなっていた。
そのため、比較的簡単に隔絶の魔塔にまで近付くことができた。
「よし、やるか」
隔絶の魔塔に手を当てた俺は、覚悟を決めて小さく唱える。
「ダンジョン内転移」
しかし、いくら待っても転移が発動する気配はない。
……まあ、予想していたことではあるが。
「やっぱり、普通のダンジョンとはいろいろと仕組みが違うみたいだな」
そう呟いて、俺はステータス画面からダンジョン内転移の説明を読んだ。
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ダンジョン内転移LV20
使用MP:1MP×距離(M)
条 件:発動者が足を踏み入れたことのあるダンジョン内に対してのみ転移可
転移距離:最大で400メートル
発動時間:0.5秒×距離(M)
10メートル以内の場合、0秒で転移可(一律100MP使用)
対象範囲:発動者と発動者が身に纏うもの
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重要なのは、この中にある『転移距離:最大で400メートル』という一文。
隔絶の魔塔の外壁の厚さはどう考えても400メートル以下。
普通だったらダンジョン内転移で中に入れるはず。
にもかかわらず、ダンジョン内転移が発動できないのは何故なのか。
俺はその理由に心当たりがあった。
「よく考えてみたら、そもそもおかしな点は色々とあったからな」
1つの階層を攻略するごとに、ダンジョン内の景色はまるで別世界のように変わっていく。
中には、室内であるにもかかわらず青空が広がる階層さえ存在していた。
そこから1つ、予想ができる。
隔絶の魔塔の内部は、通常のダンジョンとは異なり、
もっと言えば、こことは違う別の空間に存在していると考えるべきだ。
「この世界からは隔絶された空間に存在するダンジョン。故に、隔絶の魔塔か」
この予想が正しければ、距離を条件としているダンジョン内転移が発動できないのも納得できる。
少し考察が長くなったが、まとめると隔絶の魔塔だけは、他のダンジョンのように何回も挑戦することができないということだ。
「……そりゃそうだろうとは思っていたけど、正直かなり困るな」
現実を前にした俺は、ふと隔絶の魔塔における最終日の出来事。
制覇報酬を受け取った時のことを思い出すのだった。
◇◆◇
「おい、これは相当強いんじゃないか?」
2つ目の制覇報酬――魔奪の短剣に鑑定を使用した俺は、その効果を見て歓喜に震えた。
魔法攻撃への対抗策をほとんど持たない俺にとって、かなり役に立つ能力だったからだ。
ただ、魔奪の短剣と呼ぶのは少し長い。
そうだな、
ちなみにグリードは、英語で強欲という意味がある。
なんにせよ、こうなったからには続く報酬への期待が膨らむ。
「1つ目の纏壁に続いて、2つ目の魔奪剣ときた。3つ目はどんな報酬がもらえるんだ?」
わくわくする俺。
だが、そんな俺の頭の中に響いたのは、無情なシステム音だった。
『エラーが発生しました』
『攻略者は、3つ目の報酬を獲得するために必要な条件を満たしていません』
『よって、3つ目の報酬を与えることはできません』
「なっ!」
それはあまりにも予想外な言葉。
受け入れがたい結果だった。
「おいシステム音、まさか途中で馬鹿にしたことを怒ってるのか? 謝るから3つ目もくれないか?」
そんな感じで何度か交渉を試みるも結果は変わらない。
結局、俺は3つ目の報酬をもらえることはなく、ダンジョンの外に放り出されるのだった。
◇◆◇
「改めて思い返してみても、やっぱり理不尽だよな。結局3つ目の報酬をもらうための条件が何だったのかさえ不明だし……やっぱりレベルか?」
俺はダンジョン内転移を使用することで通常の数十倍の速度で10個のダンジョンを踏破した。
主にE、D、Cランクのダンジョンを中心に。
だが、仮に普通の速度で10個のダンジョンを踏破したならば、BランクやAランクのダンジョンに挑戦することになり、さらには様々な強力な魔物と戦うことになっていただろう。
その結果、今の俺とは比較にならないほどの高レベルになっていたはずだ。
隔絶の魔塔は、もともとそういった奴らを対象としていたエクストラダンジョンなのかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は「はあ」とため息を吐いた。
「不満はある……けど、後悔はしていない。隔絶の魔塔で得た
ただ、ちょっとだけ愚痴りたくなっただけだ。
3つ目の報酬が何であったのか、それだけでも知りたいところだが、今となってはもう過ぎた話。
諦めるしかないだろう。
俺は改めて気合を入れることにした。
「さあ、そろそろ戻るとするか。ここで報酬をもらえなくても、強くなる方法は他にもあるんだからな」
踵を返し、俺は隔絶の魔塔に背を向ける。
そして、新しい未来を見据えるためにしっかりと顔を上げ、前に向かって歩き出し――――
――――そして俺は、
輝きを纏う美しい白銀の長髪が、歩を進めるごとに力強く靡く。
雪のように繊細で白い肌に、海を閉じ込めたかのような深い蒼色の瞳。
そんな彼女の姿に、俺は目を奪われた。
踏み出した足は、いつの間にか動きを止めている。
彼女は迷うことなくこちらにやってくる。
そして俺の少し手前で立ち止まると、小さく口を開いた。
「あなたが、天音 凛さんですね?」
「――――」
名を呼ばれたことに驚き、言葉を失ってしまう。
だが、俺の反応など関係ないという風に彼女は続ける。
「こんなところで会えるとは思っていませんでしたが、これは嬉しい誤算ですね」
そんな前置きの後、彼女は小さく笑って――
「私はクレアと申します。天音さん――あなたに会うために、ここまで来ました」
――そう、告げるのだった。
それからずっと先の未来。
俺は何度だって思い返すことになる。
クレアと名乗った、この少女との出会い。
それがどれだけ大きな意味を持っていたのかを。
かくして、長い長いプロローグは幕を閉じる。
そして――――
――――この瞬間から、俺たちの物語は加速する。
【世界最速のレベルアップ】 第二章 完
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