第53話 エピローグ
オークジェネラルを討伐し、零を救い出すことができ、一件落着――とはいかなかった。
地上に帰還後、俺と零はダンジョン管理人や宵月の人にこっぴどく叱られることになった。
零は救援の到着を待たず、ラストボスに挑んだことに対してだ。
俺は崩壊間近のダンジョンに突入していったことに対してだ。
とても思春期がどうこう言えるような雰囲気じゃなかった。
ラストボス討伐の経緯については、風見たちと相打ちになったという説明をあっさり信じてもらうことができた。
既に迷宮が消滅し確かめる方法がないという理由が大きいのだろう。
ラストボスに挑んだ行為は愚かだったが、最も実力の劣る零を最後まで守り切ったことだけは称賛に値するという意見が多かった。
自分で考えたこととはいえ、零は少しだけ不満げな表情を浮かべていた。
なんにせよ、とりあえずの事情説明はこれで終わり。
零からはもう少し詳しい説明を聞きたいようだったが、強敵と戦い、仲間が何人も目の前で死んだことから心労を考慮されて、今日のところはひとまず帰宅を許された。
そして今、俺と零、それから由衣の3人で帰路についていた。
残されたのは、由衣にどう説明するかだが、それについては零にいい考えがあるとのことだったので任せてみることにした。
話を切り出したのは由衣からだった。
「ようやく解放されましたね。それで凛さん、後で説明したいことって何だったんですか?」
「なんとなく察しはついてるんじゃないか?」
「えっと……昨日ダンジョンを攻略したはずなのに、ゲートの中に入っていったことですか?」
……まあ、さすがにバレてるよな。
俺は零に視線を向けると、彼女は自信ありげに頷いた。
「由衣は冒険者歴が短いから知らないみたい」
「え? 黒崎さん、それってどういうこと?」
「
「そうだったの!? し、知らなかった……! まったく凛さんったら、そういうことなら先に教えておいてくださいよ!」
おい、そんなに簡単に騙されていいのか?
そう尋ねたくなるぐらいあっさりと、由衣は零の嘘を信じてしまった。
まあ冒険者歴が短いから仕方ない部分があるとは思うが、それでもこの方法には少し問題がある。
俺は零に近付き、小声で話しかける。
「おい零、さすがにこれは無理があるんじゃないか? この場では納得させれたとしても、これから由衣がダンジョンの知識をつけていけば、すぐにバレることになるぞ」
「分かってる。わたしにいい考えがあると言ったのはここからの話」
一呼吸置いた後、零は告げる。
「凛が自分の力を隠したいのは、周囲からの妬みや妨害を避けたいためだと思ってる」
「ああ、それが正しいよ」
「なら話は簡単。凛の力が周囲に知られる前に、凛自身が周囲からどれだけの悪意を向けられても問題ないくらいに強くなってしまえばいい……それこそ、世界で一番になればいいと思う」
「また唐突にとんでもないことを言うな……」
世界最強ときたか。
バカなことを言うなと一蹴したいところだが……確かにダンジョン内転移の力なら、その高みにまで辿り着ける可能性はある。
遠くない未来、自分がそうなっていることを想像した後……俺は一度だけゆっくりと息を吐いた。
「分かったよ。その案に乗ってやる」
「うん、楽しみにしてる」
俺の言葉に対し、零は楽しそうに笑って頷いた。
とまあそんなこんなで、俺が世界最強になるまでと、由衣がダンジョンの知識をつけるまでを競う、異種目レースが開催されるのだった。
……うん、なんだこれ。
その後、帰宅した俺は華の作ってくれた美味しい夕食をいただいた後、自室でステータス画面を開く。
すると、見慣れない称号が追加されていた。
「えっと、終焉を
ラストボスをソロで討伐した者に与えられ、効果はラストボスと戦闘時にステータスが+30%。
なかなかの性能だとは思うが、問題はその後にあった。
「ERROR発生。条件の一部が満たされていないことを確認しました、か。まあそりゃそうだよな。正確にはソロで倒したわけじゃなかったし」
俺が到着するまでは風見たちも戦っていたはずだし、到着後も後ろには零が控えていた。
おそらくボス部屋の扉が閉じられてから、俺がダンジョン内転移を使用して1人で中に入ったため、イレギュラーが発生したのだろう。
「まあ、ラストボスなんて生涯を通して1体と戦うかどうかだからな。この称号を獲得できなくても、ひとまずは問題ないか」
そう結論を出し、この称号については気にしないことにする。
またいつの日か機会があれば、その時に獲得すればいいだろう。
「それよりも今はダンジョン踏破数を増やすことが先だな」
10個目のダンジョンを踏破した時、いったい何が起きるというのか。
そして、それと並行してそろそろダンジョン内転移のスキルレベルも上げていきたいところ。
LV20になった時、どのようにスキルが進化するのか今から楽しみだ。
「そんでもって、それらを重ねて強くなり続けた先にあるのがきっと――世界最強の座なんだろう」
零によって改めて意識させられたが、それは俺が昔、夢見たものでもあった。
その場所を、俺はもう一度追いかけることになる。
かつて、冒険者に――その強さに憧れた。
だけどそんな俺が得たのは、ダンジョン内転移という何の役にも立たない無能スキルで。
それでも諦めずに努力を重ねた結果、ダンジョン内転移が覚醒した。
その力を手に俺は再び世界最強を目指す。
今度は夢じゃなく、現実の目標として。
今日という日を。
いや、冒険者になってからの1年と1ヵ月を心に刻み込むように力強く呟く。
この決意が、未来に続くようにと。
「俺は世界最速で――
【世界最速のレベルアップ】 第一章 完
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