第28話 キング・オブ・ユニーク
一年前の出来事を思い出す俺の前で、風見は薄っぺらい笑みを浮かべながら話し続ける。
「まさか天音くんとこんなところで再会するなんてね。よかったら、君の今所属しているパーティーのメンバーを紹介してくれないかい?」
「……悪いけど、仲間はいない。俺はソロだからな」
「ソロ……? あはは、天音くん、ふざけるのはやめなよ。ここはソロで攻略するにはレベルが500は必要なんだよ?」
「ふざけてねえよ……ほら」
俺はステータス画面を風見に見せる。
どうせ、この後すぐダンジョン管理人に見せるんだから構わない。
とはいえ、もちろんだが見せるのはレベルだけで、スキルなどについては隠してある。
他人がステータスを閲覧する際、一部のみを表示することが可能なのだ。
風見は俺のステータス画面を見て、目を見開いた。
「レベル、682……? 君が?」
そして、疑うような目で俺を見る。
それもそうだろう。俺が風見のパーティを抜けた時から考えれば、とても一年でここまで成長できるような力はなかった。
さらに俺はソロで活動しているのだ。疑問はひとしおだろう。
とはいえ、動揺を誘うほどの衝撃ではなかったようで、風見はすぐに調子を取り戻す。
「ははっ、これは驚いたよ。まさか君がこれほど成長していただなんて。僕たちのパーティーを抜けてからずっと心配していたんだが、順調に成長しているようで安心したよ!」
「……はっ、よく言う」
「ん? 何か言ったかい?」
「いや、なんでもない。それよりお前たちはレベル2000を超えたらしいな。そんな奴が、どうして剣崎ダンジョンに来ているんだ?」
「ああ、その理由は……彼女だよ!」
風見が指を向ける方に視線を向けると、見慣れない少女が立っていた。
肩まで伸びる
可愛いというよりは綺麗な印象が強い少女だった。
……正直、彼女のことはさっきから少しだけ気になっていた。
風見たちが5人で一緒にいるうち、4人はかつてのパーティーメンバーだったため知っているが、彼女だけは見たことがなかったからだ。
少女はヘッドホンをつけたままそっぽを向いていた。
とてもこれからダンジョンに入るようには見えない。
「彼女の名は
「……お前たちと一緒にいるってことは、もしかして」
「ああ、君の予想通り。スキルの説明は省くが、彼女はユニークスキルの持ち主だ。それも非常に優れた、ね。彼女の才能を見込んだ僕が勧誘して、僕のパーティー【キング・オブ・ユニーク】に入ってもらったんだ。今日は彼女のレベル上げの付き添いってわけさ」
「……寄生は禁じ手だぞ」
「心配はご無用。彼女は冒険者になって2ヵ月だが、既にレベル300を超えている。剣崎ダンジョンでも十分通用するよ。僕たちはあくまで補助さ」
たった2ヵ月で300か。
風見たちの手助けがあったにしても、確かに本人の才能がなければ辿り着けない領域だ。
「っと、無駄話はこのあたりにしておこう。それじゃ、幸運を祈るよ、天音くん」
「ああ、そっちもな」
その言葉を最後に、風見たちは入場待機列の後方に去っていく。
ようやく厄介な相手がどこかに行ったことに、俺は安堵の息をつく。
「……(じーっ)」
「ん? うおっ!」
と思った矢先、妙な視線を感じて顔を上げると、すぐ近くに少女の顔があったため思わずのけぞってしまう。
確か名前は黒崎 零だったか。
いったい何のつもりだろう?
「……貴方が、天音 凛?」
「そ、そうだけど。俺に何か用か? 仲間は先に行ったみたいだけど」
「そういうわけではないけれど。風見さんたちが、貴方の名前を口にしているのを聞いたことがある。かつてこのパーティーにいた無能だって」
「っ、あの野郎……」
まさかパーティーを抜けて以降もネガティブキャンペーンが行われているとは思っていなかったため、思わず悪態つく。
けれど、それを本人の前で伝えるこの子もどうなんだろうか。
学校で空気読めなくてハブられたりしていないか、ちょっと心配になる。
そう、思ったのだが――
「けれど、とてもそんなふうには見えない」
「え?」
――続けて黒崎の口から出てきたのは、予想外の言葉だった。
「えーと、それは何を根拠に?」
「ただの直感。でもあえて理由を言うならば、貴方からは確固たる何かが感じられる。自信を纏っていると言ってもいい。少なくとも、自分を無能だと思っている人の振る舞いじゃない」
「お、おお……」
なかなか観察力に秀でた奴みたいだ。
自分のことを認められたようで、そう悪い気分じゃない。
ほら、お兄ちゃんがおかしをあげよう。
と、それはさておき。
どうしてそれをわざわざ俺に伝えに来たんだろう?
まさか……
「もしかして、お前もパーティー内でなんらかの嫌がらせを受けたりしているのか? それを俺に相談したかったとか?」
「ううん、そんなことはない。しっかりとサポートしてもらってるし、不満はあまりない……一つを除いて」
「……(ごくり)」
黒崎の雰囲気が変わったことを感じて、俺は唾をのみこむ。
嫌がらせを受けてはいないようだが、それ以外に心から許せない何かがあるようだ。
「凛、一つ訊いていい?」
「ああ、なんだ?」
そんな彼女の気持ちに、俺は真正面から応えなければならない気がした。
だから、いきなりファーストネームで呼び捨てにされたことさえ気にならない。
そんな俺に対して、彼女は告げる。
「わたしたちのパーティーの名前について、どう思う?」
「…………」
脳裏に浮かぶのは、一年前の出来事。
風見はパーティーメンバー全員の前でこう言った。
『僕たちは全員がユニークスキルを持った天才だ! やがて僕たちはユニークスキルを持つ者たちの中でも頂点に……すなわち王に到達するだろう! というわけで僕たちのパーティー名はユニークスキルの王、【キング・オブ・ユニーク】だ!』
……うん。
「ぶっちゃけちょーダサいと思ってる」
「……わたしも!」
黒崎はここにきて満面の笑みを浮かべ、俺に手を差し伸べる。
そうか、これまでパーティー名がダサいと思っても、共有する相手がいなかったんだな……確か、風見以外の奴らもノリノリだったしな。
俺は彼女の意思に応えるように、しっかりと握手を交わす。
「この気持ちを共有できたのは貴方が初めて。これからはわたしのことは零と呼んでほしい」
「ああ、分かったよ零」
いまここに、キング・オブ・ユニーク被害者の会が設立された。
俺と零の気持ちが通じ合っていることを、改めて実感するのだった。
……なんだこれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます