第27話 一年前の経緯

 一年前、高校を卒業してすぐに冒険者資格を取りダンジョンに挑戦した俺は、獲得率50%の壁を越えて無事にステータスを得ることができた。


 その時に目覚めたのが、ユニークスキル【ダンジョン内転移】だった。

 転移系のスキルはこれまでに確認されたことがない。

 しいて挙げるならばダンジョンから帰還する際の転移魔法だが、あれは厳密にはスキルではなく、人が発動できるものではない。

 そんな事情もあり、俺のスキルには注目が集まった。


 冒険者たちからの注目はおろか、様々なギルドからの勧誘があった。

 その中の一人が、彼――風見 信だった。


 風見は俺と同じようにユニークスキルに目覚め、様々なギルドから勧誘されていた。

 しかし、彼はどのギルドにも所属するつもりはないとのことだった。

 彼から聞いた理由が以下だ。



『僕は自分のギルドを作りたいと思っているんだ。ここ数年、国内上位に名を連ねるギルドはほとんど変わり映えしない。そんな現状に嘆いていてね。そこで、僕たちのような特別な力を持った人間が協力して、上位のやつらを追い抜こうじゃないか』



 そんな理由から、彼は自分と同じユニークスキルに目覚めた人間を集めているらしかった。

 まずはパーティーとして名を上げていこうというわけだ。


 正直、この時の俺は風見と同様、ユニークスキルに目覚めた自分のことを特別だと信じていた。

 そのため、風見の理想にも同意できる点があった。

 上位ギルドを追い抜くというのはあまり興味がなかったが、誰の手を借りるでもなく自分自身の力で成り上がっていく未来を想像すると、胸が躍った。

 結果として俺は風見のパーティーに所属することになった。



 そしてその直後、俺は現実を知ることになる。



 俺のユニークスキル【ダンジョン内転移】は、以前にも言ったように戦闘はおろか、サポートにすら使えないような性能だった。

 そんな中、風見たちかれらは違った。


 当時、パーティーには俺を除いて4人のユニークスキル持ちがいた。

 まず、リーダーである風見 信が保有していたユニークスキルの名は【雷撃(らいげき)】。

 その名の通り雷を自由自在に操れる力なのだが、その性能は常軌を逸していた。


 まずスキルレベルが1の時点で、初級魔法LV10に匹敵する威力を有していたこと。

 そしてそれ以上にとんでもなかったのは、雷撃の発動時に使ということだ。


 これがどれだけ常軌を逸しているかは、少し考えればわかってもらえると思う。

 風見は同レベル帯の冒険者の数倍の威力を誇る攻撃を、回数制限を気にすることなくいくらでも使えたのだ。

 使用時に多少の疲労感があるとは言っていたが、それは他の魔法を使う時も同じで、デメリットになりえない。


 パーティーメンバーのうち、他の3人――

 佐藤さとう 裕也ゆうや田中たなか 幸助こうすけ高石たかいし さくらも、【雷撃】ほどではないにしろそれに続く強さのユニークスキルを保有していた。

 その中にいて、俺だけが明らかに場違いだった。


 というより、足手まといだったと言ってもいい。

 だって俺がユニークスキル以外に持っているスキルは身体強化のみで、戦闘ではほとんど役に立てなかったのだから。


 その証拠に、パーティーを組んで一週間も経たないうちに、どこから広がったのか冒険者の間で噂が流れ始めた。

 俺の持つユニークスキルは何の役にも立たない無能スキルで、他の4人のおこぼれをもらっているだけの足手まといだと。

 それもおまけとして、事実より大げさな脚色付きで。


 実際のところ合っている部分も多かったので、俺は反論する気にもなれなかった。

 周囲の声なんて気にすることはないと言ってくれる風見たちの言葉には助けられたが、その時点で俺は心に決めていた。


 ダンジョン内転移をLV1からLV2に上げても何の成長も見られないようだったら、パーティーから抜けようと。

 それが風見たちや、何より自分のためになると信じて。


 結果は知っての通り。

 発動時間が1メートルにつき10秒→8秒になるだけで、ほとんど意味をなさないものだった。

 俺は覚悟を決めて、パーティー脱退を伝えるために風見のもとに向かった。


 しかし、そこで俺は意図せず風見と高石の会話を聞いてしまった。



『ねえ信、なんで天音に直接パーティーから抜けろって言わないの? わざわざアイツが役立たずなことを周囲に広めて、それを聞いたアイツが自分から辞めるように仕組む意味なんてあるの?』

『もちろんだよ桜。僕らはこれから強力なパーティーとして有名になっていく。その過程で、イメージが重要になってくるんだ。仲間になって一週間やそこらの相手を無慈悲に切るのと、相手が自分から限界を認めて脱退を申し込んでくるのでは、周囲が抱くイメージがまったく違う。それは桜にだってわかるだろう?』

『……まあ、そうね。後者なら、並大抵の冒険者では敵わないと思うほどの実力者ぞろいだっていう印象がつけられるかもしれないわ。まあ、別に私はアイツさえいなくなればそれでいいの。今回の件は全面的に信に任せるわ』

『うん、任せてくれ』



 ……結局、そういうことだったのだ。

 俺が実際に役に立っていないことは、パーティーメンバーしか知らないはず。

 それを他の冒険者たちが知っていたのは、彼らが広めたから。

 どうしてそんな簡単な答えに辿り着けなかったんだろう。


 けれど、それを聞いても俺は、特に風見を責める気にはなれなかった。

 だって、俺が彼らのパーティーに不要なのは事実だから。

 そりゃ少しは、俺が同じパーティーで活躍するのは難しいと言ってくれれば自己都合脱退したのに! と思わなくもないが、まあ些細な問題だ。


 結果的に、俺はその翌日、風見にパーティーを脱退すると伝えた。

 俺が昨日の会話を聞いていたとは思ってもいないのだろう。風見は白々しい態度で引き留める素振りを見せたが、それに嫌気がさしてすぐに彼らのもとを去った。


 それから、俺はソロで活動するようになった。

 ソロになったことを知ったとあるギルドのスカウトが、スキルの将来性を見込んで勧誘してくれたこともあった。

 名前は忘れたが、それなりに有名なところだったはずだ。

 けれど仲間というのものに拒否感があった俺は、当然その勧誘を断った。


 それからしばらく、俺はEランクやDランクのダンジョンで活動するようになった。

 周囲から注がれるのは、無能に対する蔑みの視線。

 面と向かって無能と言われたことも一度や二度じゃない。

 三度目あたりからは録音しているので、お金に困ったタイミングで訴訟してやろうと思っている。


 そうは言っても、一年も経つうちに同レベル帯の冒険者の多くがCランクダンジョンに上がるなどもあり、徐々に俺が無能であると言われることはなくなっていったんだけどな。

 それもまた、些細な問題だ。

 


 とまあそんな経緯で、今に至るというわけだ。

 目の前にいる風見 信は、俺が無能と呼ばれるようになったきっかけの相手で。

 できれば、もう二度と会いたくはなかった。

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