第20話 別腹が2個
「変なこと言っちゃって、ごめんなさい!」
由衣と遭遇後、俺たちはせっかくということで近場のファミレスに入った。
由衣は深く頭を下げて、俺と華に謝っている。
「顔を上げてくれ、別に被害を被ったわけじゃないし、怒ってないから」
「そうですよ、由衣先輩。それに先輩があたふたしてるところ、見てて楽しかったので何の問題もありません!」
「それは私に問題大アリだよぉ……」
自分の行いを思い出したのか、由衣は恥ずかしそうにテーブルに突っ伏す。
その様子を見ながら、俺は追い打ちをかけた華のS気質に戦々恐々としていた。
そんなことを話していると、パフェが二つ運ばれてくる。
華と由衣の分だ。
「いっただきまーす!」
嬉しそうにスプーンを手に食べ進める華。
そんな彼女とは対照的に、由衣は申し訳なさそうに俺を見る。
「あの、凛さん。本当にご馳走になってもいいんですか? ただでさえご迷惑をおかけしたのに」
「もちろん。高校の時は華もずいぶんお世話になっていたみたいだからな、そのお礼だと思ってくれ」
「わ、分かりました。それじゃあ、いただきます」
美味しそうにパフェを食べる二人を見ながら、俺はブラックコーヒーを持ち上げる。
さっきクレープを食べたから、ドリンクだけで十分だ。
しかしながら、俺と同じ立場なはずの華は、余裕でパフェを食べていた。
「華、お前よくそんなに食えるな。さっきので腹が膨れなかったのか?」
「ふっふっふ、知らないの、お兄ちゃん? 女の子にとって、デザートは別腹なんだよ!」
お前さっき食ってたのもクレープだっただろうが。
別腹が二つあるのかもしれない。
呆れながらも、手に持つブラックコーヒーをすする。
うん、女の子がいる手前かっこつけてブラックを頼んでみたが、何だこれ苦っ!
俺は二人にバレないようにそそくさと、コーヒーにミルクを入れるのだった。
ファミレスの後は、3人で一緒にウィンドウショッピングを楽しんだ(楽しんでいる2人に付き合わされたとも言う)。
それでも、いいリフレッシュにはなった。
誘ってくれた華に感謝しないとな。
自宅に帰った俺は、明日のダンジョン攻略に備えて準備をすることにした。
準備といっても、溜まったSPを割り振るだけだが。
明日行くのは紫音ダンジョンだからな。特別な準備は必要ない。
「えーっと、今あるSPは1310。そんでもって、ダンジョン内転移のLVを12に上げるのに必要なSPはっと……マジか」
ステータス画面に書かれていたのは、1000SPの文字だった。
まさに規格外の数値だ。
「とはいえ、選ばないわけにはいかないよな。俺が特別であれる理由は、このスキルがあるおかげなんだから」
覚悟を決めて、俺はダンジョン内転移のスキルレベルアップに1000SPを使用した。
『ダンジョン内転移のスキルレベルが12に上がりました』
『発動時間が変更されます』
『3秒×距離(M)→2秒×距離(M)』
「今回は発動時間が変わったのか」
そう大きな変化ではないが、発動時間が3分の2になるのはかなり助かる。
ただそれでも、1000SPを使用しただけの価値があるかは不明だが。
ついでにスキルレベルを13にするのに必要なSPを見てみると、1500と書かれていた。
1つレベルを上げるごとに、必要なSPが500ずつ上がっていくのだと推測できる。
「次に大きな変化がくるとしたらLV20と考えてるけど、やっぱり先はまだまだ長いな……それでもやるしかないか!」
今さら、目の前の壁の大きさにうろたえる俺じゃない。
心の中で、俺は力強い決意を抱くのだった。
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