第8話 少女の事情
少女の名は
現在は18歳で、春から大学一年生になるらしい。
数か月前に推薦で大学入学を決めた彼女は、今後の生活費を集めるために、冒険者として活動を始めることにした。
俺のように連日ダンジョンに潜るのではなく、休日だけ他の冒険者たちとパーティーを組んでダンジョン攻略を目指すような、バイト感覚で始めたらしい。
そういった冒険者は数多く存在する。
安全に気を遣えば、そう悪くない効率で金銭を稼げるからだ。
しかし今回に限って、彼女は運がなかったらしい。
彼女の話を最後まで聞いた俺は、呆れと同情が入り混じったため息をついた。
「……ってことはなんだ。お前が今日組んだパーティーの奴らは、夢見ダンジョンのボスに同時に挑戦できるのが4人までってことを知らず、5人でやって来たと」
「は、はい。ですが、5人全員で挑戦できないと分かったところで、今から同じ道を引き返す余力はない。ダンジョンボスを倒してしまった方が楽に地上に帰還できるってリーダーが言い始めたんです。とりあえずは4人で攻略して、残る一人は次にやってくるパーティーに入れてもらえばいいって話になって……」
「臨時でパーティーを組んだお前が取り残されたってわけか? ……最悪だな」
冒険者協会に伝えれば、確実に処分が下される内容だ。
ダンジョン内部で何が起こっているか、知っているのは当人たちのみ。
どのような犯罪行為が行われていても、外部からそれを知る手段はない(ごく一部のスキルを除いて)。
だからこそ、そのような行為が判明した際には重い罰が下されるのだ。
さて、ではこれからどうするか。
俺が彼女と一緒にボスを倒すのが最善の選択なんだろうが……俺一人でも十分だし、正直に言って、それはあまり推奨される方法ではない。
というのも、ダンジョン攻略時の報酬におけるレベルアップは、パーティー全員に与えられる。
命を懸けて戦った者も、何もせずにぼーっと眺めているだけの者も、同じだけの報酬が得られるのだ。
後者のように、何の貢献もせずレベルアップの恩恵を受ける行為は【寄生】と呼ばれ、冒険者の間で忌み嫌われている。
だから、俺も本来であれば彼女を無視して一人で先に行くべきなんだろうが……それはあまりにも後味が悪い。
それに寄生が特に嫌われているのは、自分の実力より上のランクのダンジョンについていく場合だからな。
この場にいる以上、彼女は一応Dランクダンジョンに挑戦できるレベルのはずだ。
だったら問題はないだろう。
「えっと……葛西だったか」
「は、はい」
「そろそろボス部屋の扉が開く。すぐに入るから準備しとけ」
「それって、もしかして……」
「一緒に行ってやる。今回だけだぞ」
「っ! は、はい! ありがとうございます!」
葛西はぱあっと表情を輝かせて、勢いよく頭を下げる。
まあ、正直感謝されるのは悪い気分ではない。
などと言っていると、さっそくボス部屋の扉が開いていく。
前のパーティーがボスを倒したのだろう。
「じゃあ行くぞ」
「あっ、その前に、お互いのレベルやスキルなんかを確認しておいた方がいいんじゃ……」
葛西の発言は正しい。
お互いの持つ力のすり合わせは重要だ。
ただ、今この状況においてはそうとも限らないが。
俺は踵(きびす)を返し、彼女に背を向けて堂々と告げた。
「必要ない。いったい俺を誰だと思っている?」
「……誰、なんですか?」
やっべ、まだ自己紹介してなかった。
「天音 凛です」
「天音 凛さん、ですね……その、知り合いに天音って方がいるんで、凛さんとお呼びしてもいいですか?」
「うん」
「ありがとうございます。よかったら私のことも由衣って呼んでください」
「うん」
そんなこんなで、俺と由衣はボス部屋に入り、一撃でハーピーをぶっ殺した。
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