エピローグ5-2 みはるとなつめ

 なつめさんの家に荷物を運びこんだ。私はほとんど着替えと身の回りのもの以外持ってこなかったから、運び込むと言ってもすぐ終わった。どちらかというと、中身を出してタンスに詰め込んでいくのが時間の大半だった。


 一通り、私とお母さんで服を入れて終えて、最後にお父さんと一緒に銀行通帳や書類の確認をする。仕送りはここ、携帯代は何日に引き落とし、保険証はこれ、マイナンバーカード、年金のこと、保険のこと、役所の手続きなど、必要なことを説明してくれる。その間、なつめさんは手が空いている親のどちらかにお茶を入れて話していた。何を話しているのか気になったけれど、おおむね私をよろしくお願いしますと頼まれているみたいだ。


 一通りのことを終えて、もう少しゆっくりしてくのかと思ったら、二人は早々に帰ると言い出した。


 「あれ、もう少しゆっくりしていかないの?ご飯くらいまでいるのかと思った」


 「ここからは、ここは二人の家だからな。あまり長居しちゃ悪いさ」


 「そうね、私たちはずいぶん水入らずでやらせてもらいましたから」


 「ふうん、ゆっくりしていけばいいのに」


 「ははは、相変わらずみはるは親の心を知らんなあ」


 「ええ、ええ、知っていましたとも。こういう娘だと」


 「ええー・・・・・」


 なんだよそれ、と思っていると二人は早々と帰り支度を済ませると、玄関まで向かう。本当に帰るようだった。


 私となつめさんは、玄関まで二人を見送りにでる。そこまで来て、ああ、私はこれからこちら側なのだとようやく認識する。


 さっきまでは、二人の方。今の私は、なつめさんの方。


 お父さんとお母さんは最後に順番に私を抱きしめた。


 「じゃあ、元気にやりなさい」


 「うん」


 「また帰って来なさいね、連絡もよこしなさいよ」


 「うん」


 「なつめさん、足らない娘ですがよろしくお願いします。また、余裕があるときにでも今度こちらにいらしてください」


 「はい、よろしくされました。また、ゴールデンウィークにでもお伺いします」


 「じゃあね、みはる頑張るのよ」


 「はーい」


 「本当に大丈夫か・・・?」


 「大丈夫、大丈夫、たぶんね」


 「まあ、わかないことなんてそういうものでしょ、じゃ本当に元気でね」


 そうやって、二人はなつめさんにお辞儀をした。なつめさんはうなずくようにしてお辞儀を返す。


 二人がドアを閉めた。5秒ほど待って、二人が戻ってこないことを確認してから、私はカギを締めて、なつめさんに抱き着いた。ぎゅっと多分、なつめさんがちょっと痛いくらい。頭を撫でられる。


 1年半、すべてはここに帰るための1年半だった。得たものも築き上げたものも、すべてはこの時のために。あの日、私が救われたこの場所に帰るために。


 「おかえり、みはる」


 「ただいま、なつめさん」


 ようやく、ようやく、私は帰ってきた。


 でも、まだ宿題は解き終えていない。

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