依藤セナの放浪

@e10ulen

第1話


 朝早く、といっても一般的には日中における活動時間には入るのだけれど、

晶からスマホに対してメッセージが届いた。

――ロンドン市内にまだ滞在しているなら、いつものカフェで話をしないか?

世界的に俳優をしている晶と、一応世界中を放浪している僕は、何処かですれ違うたびにデートをしたりしている。

そのせいで、僕が捕まるであろう場所を予め所属事務所を運営している会社の社長の姉貴経由で入手しては、突然連絡をしてくる。

いつも姉貴にも咲夢にも居場所を伝えてないのに、何故か毎回見つかって、一緒にお茶したりしている。

このメッセージもそうだ。

いつ僕がロンドン市内に入ったのか把握している節まである。

大体何処に滞在しているのかも。

晶はそういう情報の入手の仕方が少し怖いところがあるけど、何処から入手してるのかは分かってない。

……とりあえず、メッセージを返そう。僕も会いたく無いわけじゃないからね。

いつも通りのルーティンを行い、身支度をしてからいつものカフェへ。

いつもの、と言っても姉貴と一緒にロンドン来た時、滞在中に気に入って僕が通ってる小さな街角のカフェだけどね。


一応、告げた時間の10分前にはカフェに着いて一人珈琲を啜ってる。

約束の時間をちょっと過ぎた頃、ようやくお店のドアベルの音と共に晶と僕と同年代ぐらいの女の子の姿が見えた。


「セナ、久しぶり。遅れてごめんね」

「ん、あぁ、大丈夫。で、そちらは?」

「……久しぶり、セナ。元気にしてた?」

「その声、唯?」

「そうだよ。兄貴が無理やり私を連れ出したと思ったらセナに引き合わせる為だったなんてね」

「懐かしき幼馴染との海外で奇跡の再会と言ったところだね。僕は元気に放浪してたよ」

「知ってる。と言っても情報端末越しだけどね」


 何も変わらず、高校時代をそのまま思い出させる姿で彼女は僕に笑ってタブレットを見せてきた。


「懐かしいね、その言い方。変わらずパソコンとかスマホとか纏めて呼称してるんだね。……というか、『知ってる』って?まさかまた唯の監視を受けていたのかい僕は」

「兄貴がちょこちょこ私に『セナは今何処にいる?』って探させるからさ、面倒臭くなって定期的に現在地を知らせる様にしてあるんだよ。セナのスマホは」

「いつのまに……。というか晶?うちの姉貴に頼ってると思ってたけど、実は実の妹に頼って調べさせてたなんてね」


 姉貴経由で調べていたと思っていたけれど、実際の所そうじゃなく、妹に全て調べさせて、監視をつける。こんな事僕がアイドル活動をしていた中学時代のうちのマネージャーですらしなかった。

 時折実験的にだが、唯から監視を受けていたのは事実。ハックテストの手伝いでだけどね。


「セナに会いたい一心のちょっとした出来心さ」

「その出来心のせいで、私未だにインターポールとかから追われそうになってるんだけど」

「それは……ごめん」

「インターポール?なんでまた物騒な」

「それはセナが紛争地域だろうがなんだろうが関わらず放浪をするからだよ。おかげでこっちは国際的テロリストとして指名手配をくらい掛けたことがある」

「……位置情報程度で?」

「位置情報程度で。位置情報を定期発信して、しかもそれは妙なルートを辿って一つの情報端末に送られてるんだよ?政治的或いは兵器的情報かもしれない。と向こうさんは踏む訳で、私が追われるってワケ」

「成程ね。僕も悪いけど、晶も悪いし、唯も悪いじゃないか」


 三者三様で悪いけど、追われるような事…まぁ最近見たアニメとかに惹かれて海を渡る武器商人が居ないかな~って紛争地域に行ったのも事実。


「まぁ、そうなんだけどね」

「一応、逃げてはいるけど、何処まで長続きするか……」

「要は僕の位置情報が定期発信されずに位置がわかれば良いんでしょ?」

「……まぁそうだね。僕が気になるのはセナがちゃんと生きているか。って所からだから」

「一個だけ僕から解決策を提案する。晶と唯がそれを飲むかは任せる」

「なんだい?」

「何?……その言い方だと私の今後に関係有りそうだけど」

「そ、正解。提案としては『今後は唯と行動を共にして暮らす』とかどうかな?」

「僕は有りだと思う。唯の対外的の交渉役とか任せればいいし」

「私は……まぁ良いかな。私の事業の交渉役を任せれるの、私に理解ある人じゃないと難しいし」


なんとなく、唯なら拒否をするかなと思っていたのに、思っていたのとまるで違い、僕と共に居る事を選んだ唯


「事業?なんの事?なんか会社でも起こしたの?」

「んー。まぁね、私のハッカーとしての腕とか、情報収集能力とかを商品として売ってるんだ」

「そういう事するからインターポールから追われるんじゃないの?」

「セキュリティ会社とかに良く買ってもらってるよ。侵入テストとかバグチェックとか」

「成程ね。そういう使い方か」

「おかげで暇つぶしに日本で喫茶店を経営出来るぐらいには儲けさせてもらってる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

依藤セナの放浪 @e10ulen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る