第28話 そういうと、愛はモバイルのFGC(送信)という
そういうと、愛はモバイルのFGC(送信)というアプリをクリックする。
画面には、パソコンやスマホの一覧が表示される。半分以上は、ローズのスマホから盗んだ住所録にあった人物である。
一番上にある達也のタブレットをクリックして、送信ボタンを押す。
今頃、達也が置いてきたタブレットを覗き見ているローズは、タブレットから発生した光子グラビティで、周りが歪められ、世界がぐにゃぐにゃになっていることだろう。
さて、実際に達也のタブレットを調べていたのは、ローズと公安のサイバーセキュリティの担当の牧(まき)だったのだが、二人は、タブレットを前に大混乱していた。
「しまった! ローズさん。タブレットに仕掛けられたセキュリティシステムを踏んでしまった」
「どういうことナノ?」
「たぶん、タブレットを調べると、自動的にFGCが作動するプログラムが仕込まれていたんだ! とてもじゃないけどもうこれ以上は、触れない。ちゃんと地面に立っているかどうかも不安になるぐらい視界が歪められている」
「本当に目の前がグルグル回っている。じゃあ、タブレットを調べられていることもばれてイル?」
「たぶん、持ち主のスマホに送信されているな」
「じゃあ、作戦は失敗ね。とりあえず、電源を落とシテ」
牧は、目を瞑り、手探りでタブレットの電源を探り当てると、やっと電源を切ることに成功する。
「こうなったら、強引に行くべきネ。タブレットを持って帰っても、操作することもできないナンテ」
そういいながらスマホを取り出し、緊急メールを発信する。
一方、ベンチに座っている達也と愛は、愛が仕込んだマルウエアによって、ローズや公安の動きは筒抜けになっている。
「達也。ローズ先生、今度は、私たちに張り付いている公安にメールを送ったみたいよ。内容は、「FGCプログラムのコピー作戦に失敗した。光坂、橘を確保せよ」だって」
「じゃあ、確保に動いたら、公安たちのスマホから、光子グラビティを発生させようか。ローズ先生、俺のタブレットの電源を切ったみたいだし。きっとタブレットから、プログラムを抜き取ることはあきらめたんだろう」
「じゃあ、送信っと」
愛は、モバイルに出ているアドレス一覧から、今自分たちを張っている公安の三人のスマホに向かって、光子グラビティを送信する。
ローズから送信されたメールを確認した三人は、すでに行動を起こしていた。人ごみに紛れ、達也たちが座るベンチまで、あと四、五〇メートルの所で、大きく視界が歪んで、自分のいる所どころか、立っている場所さえどこなのか分からないぐらい視界が大きく歪み、一歩も動けなくなってしまった。
「達也、あそこにいるわよ」
「ほんとだ。傍からみたら、えげつないな。あそこだけ、直径二メートル範囲で空間が裂け、四次元とか五次元の入口がぽっかり空いた感じだ」
「ほんと、あの人たち、あの世界に閉じ込められて一歩も動けないわよ。あの人なんか、交差点の真ん中で、立ち尽くしているんじゃない?」
「まったく、通行の邪魔になるポリさんだ」
達也たちを確保しようとして動いた公安の三人は、その場から動けなくなり、しばらくすると、しゃがみ込んでいるようにみえる。もちろん、傍から見ている達也たちでも、三人の公安の行動は、四次元ホールの中はよく見えなくて、推測しかできないのだ。
おそらく、視界から入る情報が、三半規管を狂わせ、気分が悪くなり、吐き気ももよおしているのだろう。
「じゃあ、戻ろうか、愛」
「そうね。FGCはどうする?」
「そのまま、送信を続けていろよ。面白いじゃないか。あの人たち、スマホの電源を切ったらもとにもどるんだから。さて、そのことに、いつ気が付くかな」
「えへへ、電源を切れないように細工しちゃった。それに、通話やメール、アプリだって使えなくしちゃった。」
「えっ、それって、中から救助要請もできないじゃないか。愛って鬼だな」
「だって、すぐ切られたら面白くないじゃない。でも、手段がないわけじゃないのよ。スマホを捨てるか、壊せばいいんだから」
「その通りなんだけどな。まず、自分のスマホから光子グラビティが出ているとは思ってないだろうしな」
「そういうこと、私たちに手を出そうとしたんだから、廃人にでもなんにでもなっちゃえば、いいのよ」
「愛って怖い」
「何言ってるの。光子ブラックホールのおかげで、ほっかほかよ」
「それって、性感帯だけだろ?」
「なに言ってるのよ。ばか達也!!」
達也にかかと落としを食らわそうとして、ステップした後、パンツを見られることに気が付いた愛は、思い直して正拳突きを達也の溝打ちに決める。
「うぐっ、かかと落としじゃないのか?」
「あんたに見せるパンツはない。それに、最近は予備動作から攻撃を見切られるようになってきたからね」
達也と愛は、秋葉原に出現した四次元ホールに集まってくる野次馬たちをかき分け、演劇部の宿泊先であるホテルに戻ることにしたのだった。
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