廃墟で

神崎 ひなた

 夏といえば、肝試しだ。


 当時、高校生だった俺と二人の友人――ここではそれぞれ、MとKとしておこう――は、地元で有名な心霊スポットを探検しようと盛り上がっていた。


 高校二年生の夏休みで、怖いもの知らずだった。ちょうどインターネットも普及し始めた頃で、大抵の怪談は調べれば検索エンジンに正体が引っかかる、というのが当たり前になっていた。


 そんなご時世だから、まさか心霊スポットが怖いだなんて言えない。問答無用で根性なしの烙印を押されることを恐れる程度に、俺は普通の高校生だった。


「お前、そんなんだから彼女が出来ないんだぞ」と、Mが笑う。

「そうだ。ここで男を上げて、彼女でも作って、楽しい夏にしようじゃねぇか」と、Kが茶化す。


 正直、気のりしなかったんだけどな。別に彼女が欲しいとも思わなかったし、心霊スポットを探索した程度で男が上がるとも思えなかった。


 しかし、そんな二人の提案を断ることもできなかった。仲間意識っていうのが妙に強い年代だったからな。俺だけ行かないなんて言ったら、あとで散々いじられるに決まっている。

 それに夏休みが終わった後、クラスメイトたちになんて言いふらされるか分かったものじゃない。


 俺たちはすぐに携帯で連絡を取り合って、心霊スポットの前で集合することになった。


 外に出ると夜空がきれいだった。

 近くの田んぼから、カエルたちの合唱が聞こえた。

 それはどろんとした夏の空気に吸い込まれて、じっとりと肌に絡みつくように思えた。

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