第19話 精霊の国へ

夕飯後、家族会議が始まった。お茶受けに出した「サルルサ」の新作ケーキが美味しそう。

 寛ちゃんが会議の前に「呼び出しがありませんように……」と天に向かって祈っていた。以外と効き目があるそうだ。

 家族にコビトの事と……多分私のマナが原因で、魔法を使ってコビトが体にめり込む人がいる事を話した。コビトが苦しんでいるし魔法を使った人は体調を崩すことから、こちらの世界では魔法は人にあわないのではと話すと男性陣は微妙な顔をした。


「そうか、人は魔法が使えないのか」

「うーん、残念」

「使ってみたかった」


「俺、使えるよ」

「私も」

 カミィと桐ちゃんが嬉しそうに声をあげて、怜も黙って手を挙げた。子ども3人は普通に魔法がつかえるらしい。彼らにはコビトもいないし、魔法を使えても問題はない。


「俺、魔法はないが、小遣いはやるぞ」

 駿の一声に皆が笑い出した。


 ――家族はコビトの事を気にしなかった。視えないから別にいいそうだ。確かに、私も視えなければ気にならないと思う。


「マナの吹き溜まりができていた」

「うん、あの少年Aの話によると神社のうらの窪地が怪しいみたいで、行ってみたらすごかった……」

 カミィ、少年Aって何かに影響されている?


「そんなに?」

「たぶん、カーさまの溢れたマナが何故かそこに集まったのだと思う」


  怜が言うには、異世界ではマナは精霊と樹木によって循環しているけど、こちらの世界では使われない異物になるので、そのまま、なんとなくマナの吹き溜まりができてしまったのだろう、という事だ。そこで偶々順応してマナを吸収した人間に魔法が使えてしまい、でも、こちらの人間は魔法を使うようになってない為、使うと無理がくる。その無理がコビトに顕れているのかもしれない。


「コビトが刺さった少年Aからはかすかに地獄の臭いがした……」

「なにそれ?」

「それって地獄の入口から臭ってくる臭い?」

「そう、何と言うか、例えるとヘドロみたいな臭い。抜いたら臭いは消えたんだ」


 カミィがしかめ面をして言った。彼は昔から臭いに敏感だけど、私たちは誰もその臭いに気づかなかった。地獄の臭いも極、僅かにしか臭わないっみたいだけど……。


「なぜかしら?」

「わからない」

「少年Aのコビトに付いている石は、刺さっている時うすく濁っていたわ」

「えっ」

「え、その石ってなに?」

「えーと、コビトの額には石がはまっているじゃない。蓮さんのコビトの石はダイヤみたいに輝いてキレイ」


 桐ちゃんの言葉に皆が驚いている。私もびっくりした。


  桐ちゃんによると中1のはじめからコビトに付いている石が視えるようになったそうだ。ほとんどのコビトは額に石を付けていて、中には手のひらや手の甲、お腹に付いてるコビトもいて、そのコビトはへそ出しルックだったので良く見えたけど……大き目のピアスみたいな感じだという。


「言わないだけで、カーさまとかカミィには視えているかと思ってた」

「それ、桐ちゃんだけだよ。視えてるの。」

「そうね。コビトに石が付いているなんて、視た事も聞いたこともないわ」


「中1の始めからだよね。見え出したの?」

 怜が考え込みながら言った。


「うん。まぁね」

「で、カミィがコビトを抜いたらどうなったの?」 

「濁りがさぁっと取れたのよ。普通の色にもどったわ」


  どういう事? 

 家族のコビトについている石は宝石のように綺麗だけど、道行く人々のコビトの石は色も輝きも様々ですって。ちなみにコビトが視えるのは私と桐ちゃん、カミィに龍君、京華ちゃんだけど、コビトが踊りを見せようとするのは私と桐ちゃんにだけ……。


  とにかく、これ以上マナが溢れないように、一時しのぎだけど私のまわりに結界を張ることにした。そして、結界の中で凝縮したマナは魔法玉に換えようと思う。

  ただ、問題は私が蓮と日本一周をした事で。もうすでに子どもができてマナを振りまいていたとしたら、日本のあちこちにマナだまりができているかもしれない。どうしよう。


「神社の裏のマナだまりは魔法玉にしてきたよ」

 カミィが結界から魔法玉を出した。魔法玉の大きさは小指の先ぐらいだけどキラキラと四方八方に輝いて宝石のよう。それがたくさん、百個くらいはある……。


「そんなにたくさん……」

「宝石みたいだな」


 寛ちゃんが手にとって眺めた。


「これ、何に使うんだ?」

「向こうの人間の国では、大きな魔法はこれを使うのよ」

「俺たちにはただの石だな」

「綺麗だけどね」

「俺、魔法玉と魔法陣を組み合わせたペンダント作れるよ」


  カミィが得意そうに言ったけど、魔法玉を組み合わせればマナの供給ができて人にも無理なく魔法陣が使えるからいいかもしれない。

  話し合いの結果、各地のマナだまりは直接行って魔法玉に変えてくることになった。

  たぶん、その土地の神域? みたいな場所にマナが集まっていくと思われるので、私と蓮が行った旅行先を子供たちで訪ねて、その地でコビトが刺さった人を見つけたら抜いていくという事になった。子どもたちというのは桐ちゃんとカミィと怜に幼馴染の二人、龍君と京華ちゃん。


「皆で旅行って楽しそう」

「色々、計画たてようぜ」


 桐ちゃんとカミィが楽しそう。


「ハクと京ちゃんに連絡しなくっちゃ」

 怜が言うと


「ハクは海外だよ」

「そうそう、珍しく二人ともいないんだよ」


 幼馴染のうちの一人、龍君はハクというあだ名で呼ばれている。このあだ名には由来があって、桐ちゃんが名づけ親だけど本人は覚えてないみたい。龍君の両親は忙しく海外を飛び回るお仕事をしているので、いつも乙女小路家で過ごしていた。同じく、京華ちゃんも我が家にいる事が多い。二人は幼馴染というよりも、むしろ家族みたいになっている。


  この幼馴染の二人、まだ話をしてないのにメンバーに入れてしまって大丈夫かしら? ……夏休みなのでいいかもしれないけど。

  引率は弟の駿。大学で研究者をしているので夏休みは時間が取れるみたい。大人が付いて行くし、いざという時はカミィもいるし? 後のことは任せて私たちは精霊の国に行くことになった。その前にとりあえず結界で私自身を覆う。


「カーさま、どれぐらいできた?」

 翌朝、桐ちゃんが聞いてきた。


「それがね……」

 私が結界から取りだした魔法玉は、なんと一日で10個になっていた。


「これ、きれいだから宝石箱に入れていい?」


 桐ちゃんがそういうので、魔法玉は宝石箱に入るだけ詰め込んで、残りは「なんでもしまえる結界」の中に入れておくことにした。 


 そして、ご近所のカモフラージュのために海外へ行き、諸々の手続きはすべて両親におまかせして私たちは精霊の国へ移動した。

 精霊の国へ着いてから家族や元勇者の渡会君、事情を知っている元勇者と巫女のお友達も精霊の国に迎え入れる。

 宮殿でお別れ会をすることにした。京華ちゃんと龍君も来ている。


  その前にこれからこちらに住むということで、家族や最長老のリヨン、精霊の長老たちの前で『始まりの木』に挨拶をする事にした。


『始まりの木』に蓮と二人で手を当てて、

『私たちとお腹の子供と一緒にこれから精霊の国に暮らしたいと思います。よろしくお願いいたします』と祈る。

  すると『始まりの木』がふわりと光を帯び、緑の葉がキラキラとひかり、その間から芽がでたかと思うとあっという間に白い花が咲いた。緑の間に咲く白い花は桜の花に似ている。その花はヒラヒラと小さな花ごと辺りに漂いまわりはとても良い真紀りに包まれた。

 

  そして、タキシードを着た蓮のコビトは私たちの間に浮かびあがると、私に向って一礼してから蓮に向って一礼した。人には視えないはずのコビトが皆の前にハッキリと姿を現した。

  とてもきれいな礼だった。蓮はびっくりして目を見張っている。これまで、蓮はコビトを視た事がなかったのだから……。


  他の皆も「おぉー」「小さな人、コビトだ~」といっている。人間には視えないコビトだけど、蓮のコビトは実体化して、はっきりと見る事ができた。相変わらず、彼のコビトはカッコいい。そして、蓮のコビトは優雅に蓮の頭の上にあがると、そのままスルスルと足の先から蓮に吸い込まれていった。


「えっ」

「えぇ、えー、コビトが体の中に!」

「うわー、大丈夫なの?」


 皆のおどろく声をよそに蓮は穏やかな笑みを浮かべている。そう、コビトが蓮と一体になると同時に、蓮は精霊になった。


「なるほど、そういう事でしたか」

 最長老のリヨンが納得したように肯いた。


「人は精霊になれるのですね」

 精霊たちも感心したようにささやきあっている。


「コビトに認められると精霊化するということかな……」


  ボソッと怜がつぶやいた。多分、彼はこれまであったことや得た知識を組み合わせて、京華ちゃんと共にコビトと世界の成り立ちについて解明していくような気がする。


  ともあれ蓮は精霊になったので、私たちはこれから一生添い遂げることができる。現実世界の事は桐ちゃんとカミィ、怜、京華ちゃん、龍君にまかせて私たちは精霊の国からサポートをしたいと思う。


  精霊の言い伝え『来るべき災厄の時、世界と人々は宝玉の乙女に救われる』

『宝玉の乙女がすべてを許し、最後の審判がおこなわれる』この災厄の予兆が近づいているかもしれない。


 宝玉の乙女である桐ちゃん、大変な役目を任せてしまう事……ごめんなさい。

 でも、あなたの仲間がきっと助けてくれると思います。母さまは心からあなた達の無事を祈ります。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る