ちょっとしたサプライズ9
sideユーゴ
「ああ、思ったよりもずっと時神の遺物は弱いらしい。多分今日の夕方頃には帰れるんじゃないかね」
「よかったー」
「帰ったら、うっかり教授をとっちめないと」
ちょうど朝食が出来た頃にやって来た婆さんが、未来のクリスとコレットを見るとそう言いだし、その言葉に安堵する子供達だがちょっと待って欲しい。最初は2,3日とか言ってたから、3日目の予定を決めようと悩んでいたのにそれはないだろう!しかも夕方かよ!予定では川で釣りが終わった頃だぞ!
「予定を細かに決め過ぎなんだよ」
俺にそんな呆れた顔を向けても無駄だ!なんせ俺だけじゃないからな!
「なんてことだ……。コレットの化粧品を買いに行こうかと……」
「そんな……。クリスとお洋服を一緒に買いに行こうと……!」
ほらな!ジネットとリリアーナも予定を考えてた!
「全くあんたらは……」
「危ないところだった」
「ママ。2,3日で帰るんだから、服はいらないよ」
頭が痛そうな婆さんとクリス。何と言うかそっくりだ。この婆、さては未来で本格的にウチのお婆ちゃんに収まってやがるな?
そして対照的にコレットの方はホッとしている。短い髪といい、ズボンを履いている事といい、さっぱりした感じが好きなのか、それとも、自分の手入れを面倒だと思う、俺の悪いところを受け継いでしまったのか……。髪は長くなったら短く切ればいい、服も2、3日使いまわせるだけあればいい。男の俺だからそれでいいんだけど、コレットは女の子なんだから、もうちょっとおしゃれしても……。それを考えるとクリスも……。
決めたぞ!
「婆さん!服は未来に持って帰れる!?」
「ああ。それくらいなら大丈夫だろうさ」
よし!
「では朝食後、コレットとクリスの服を買いに行きます!」
「えー」
「帰ったら服は結構あるんだけど」
「そうそう」
それなら服を買いに行こうと言うと、案の定、クリスとコレットは面倒そうに拒否の構えだが、こっちは親なのだ。その構えなど粉砕してくれる。
「寮には?」
「……」
「……」
やっぱりな。
どうせ休日の服もお決まりのローテーションでいいやと思って、碌に寮に持ち込んでいないのだろう。黙って目を反らす子供達に確信する。そのくらいお見通しだ。なにせ俺ならそうするからだ。
勝ったな。服屋行ってくる。
◆
「うーん。こっちはどうです?」
「待てルー。こっちの服が先だ」
「ちょっとヒラヒラし過ぎだよリンお姉ちゃん。こっちのズボンでいい」
「うーむ。似合ってはいるが……。可愛いのは好かないか?」
「うん。クリスの方が似合ってる」
「ちょ!?」
「クリスくんにはこっちのズボンですかねー」
大人しくナイスミドルの服屋に連行されたコレットとクリスは、ルーと凜の着せ替え人形と化していた。もう少しお洒落してもいいのにとは思っても、そこらへんはさっぱり分からんから彼女達に丸投げだ。流石に迷彩やら髑髏はないが、俺が選んだら変なスタイルが出来上がるだろう。しかし、子供達からすれば余計なお世話かもしれないが、とりあえず服を買ってあげたいのは親の本能みたいなものだ。甘んじて受け入れて欲しい。うむ。
「やあユーゴ君。あの子達は奥さん達の親戚かい?ユーゴ君にもどことなく似ているけど」
「どうも。いやあ、少し遠くからやって来た大事な子達ですよ」
「ははあ」
付き合いのあるナイスミドルが、未来の子供達について聞いて来たが、これ以上具体的には話せんな。
「こおにちわ!」
「ちわ!」
「はいこんにちは。偉いねえ。」
店の中で走り回らない様に俺の肩に乗せられて、お利口に挨拶している未来の子供達ですと言っても、はてなマークしか頭に浮かばんだろう。
「クリスー。このお洋服はどうかしら?ママとお揃いの色で買いましょう」
「僕未来に帰るから、お揃いって言われても……。今の僕とパパに買ってあげなよ」
「もうここにあるわ」
「ええ……」
未来に帰るのにリリアーナにお揃いと言われてもと困惑するクリスが、俺と今のクリスに買ってあげたらと提案するが、既にリリアーナの腕の中には何着か同じ色の服があり、最後は貴方の分よと言わんばかりに迫られていた。まだまだ甘いな息子よ。
「パパ、パパ。ママは?」
「ママはお化粧品のとこかな」
「おけしょ?」
「そうそう。お化粧」
肩に乗ったコレットが、自分の母であるジネットの姿が無いとキョロキョロして聞いて来たので、ジネットのいるちょっとした化粧品を置いてある一角に足を向ける。しかし化粧品まで置いてあるとは、あのダンディーやるな。
「こちらの商品でしたら派手ではなく、薄っすらとしたものになります」
「ふむ……。これならよさそうだ。1つ貰おう」
「ありがとうございます」
どうやらコレット用の化粧品を見繕っていた様だ。薄いものならばコレットも使うだろうと選んでいたが、俺も濃いものは使わないと見ている。
「一番赤い口紅はこれかの?」
「はいそうなります」
「わし用に買っておこうかの。なんせアダルティじゃからな。アレクシアは何か買うかの?」
「いえ、私は最低限しか使っておりませんので」
「勿体ないのう。それだけ整っておるのに」
一方で、一番赤い口紅を購入しているセラは、店員さんに背伸びしている女の子の様に見られながら、アリーに化粧品を勧めていたが断られていた。しかし、セラの気持ちも分かる。普段献身的に皆を支えているアリーが、少しくらいお洒落してもいいじゃないかと思っているのだろう。
「ママ。おけしょ?」
「そうよコレット。お化粧」
「おけしょ!コーも!」
「ふふ、ちょっと早いわね。全く、今はこんなに興味津々なのに……」
「えっへ!」
化粧品を見て興奮しているコレットの頬を撫でながら、どうして未来ではと嘆息しているジネット。ごめんなさい。ちょっと俺に似た可能性が高いです。へっへっへっへ。
む!? ギンギラなアクセサリーが!クリスにこれを……ないな。俺がガキの頃なら買ってたかもしれん……。
「おばあちゃん!にあうかな?」
「似合ってるよ。買おうかね」
「わーい!」
ちょっとした小物コーナで昔を懐かしんでいると、ソフィアちゃんが子供用の麦わら帽子を被ってはしゃいでいるところだった。婆さんの言う通りよく似合っている。こうやってみると、孫娘を可愛がっているお婆ちゃんにしか見えないから不思議だ。
「それ以外に何に見えるってんだい?」
普段の言動を思い出して胸に聞いてみろ。
「パパ!あれ!」
「ねーね!クーも!」
「クリスくんとコレットちゃんのもあるよ!」
は!? 婆さんの事は後だ!コレットとクリスが、今日一番の興奮具合で何かを指さしている。その指先にあるのはソフィアちゃんの被っている麦わら帽子で、気を効かせてくれたソフィアちゃんが、後ろにあったもう一回り小さい麦わら帽子を取ってくれた。
これが欲しいんだね子供達!
「被せてあげて」
「うん!」
「えへへ!」
「えっへ!」
手は子供達を支えているから、しゃがんでソフィアちゃんに帽子を被せてもらうと、子供達は大喜びで笑っている。両方から笑い声が聞こえてパパも嬉しい!
ナイスミドル!これ購入で!
「あ、その麦わら帽子ここで買ったんだ」
「昔の私がご機嫌」
皆も決め終わったらしく集まると、お揃い服を持たされたクリスと、化粧品を持たされているコレットが、懐かしそうな顔で麦わら帽子を被って笑っている自分を見ていた。
「思い出の品なの?」
「うんパパ。今も家の机に置いてある」
「被ってる写真もかなり残ってたり」
なるほどね!じゃあ、写真も撮りまくらないと齟齬が出るってもんだ!店の中じゃ迷惑かけるから、家に帰ったら早速撮ろう。そうしよう。
「お会計お願いしまーす!」
「はいただいま」
ナイスミドル!相変わらずいい商品ばかりだったぞ!だが俺のアイデアの商品を見えやすい所に置くのは止めるんだ!ジネットが倒れそうになったぞ!
◆
「そろそろ帰れる頃合いだね」
楽しい時間はどんどんと早く過ぎ、少し日が傾き始めた頃に婆さんがそう言って、未来の子供達との別れの時を告げた。
「パパ泣きすぎだよ……」
「学園に行った時もこんな感じだった」
「ぐす!ぐす!」
「あなた、この子達は元の私達の所へ帰るだけですから」
「あらあらまあまあ」
未来の子供達がやって来た、ちょっとしたサプライズみたいなもんだと分かっていても、子供達に呆れられようと、奥さん達に困った顔をさせようと、涙と鼻水が止まらないのだ。歳を取ると涙もろくなるという言葉を、最近痛感するようになってしまった。
「ぐすん。坊ちゃま、お嬢様」
「ほれ、ハンカチじゃアレクシア。元気でやるのじゃぞ2人とも」
「何かあったら、ルーに相談するんですよ!」
「それではな。クリス、コレット」
「化粧品は持ったわね? 達者でね2人とも」
「クリス、コレットちゃん。帰っても、いつでもママに甘えていいのよ」
「わん!」
「にゃー」
「またね!クリスくんコレットちゃん!」
「コー!クー!」
「ばいばい!」
段々とコレットとクリスの気配が薄れ始め、その時がやって来たと皆が別れの言葉を送っている。
「達者でやんな。ほら、しゃきっとしな」
「コレットおおおお!クリスううううう!帰ったらパパに顔を見せるんだよおおお!愛してるよおおおおお!ちーん!」
婆さんに杖で小突かれて、ようやく絞り出した言葉を我が子達に伝える。
「えへへ。帰ったらちゃんと顔見せに行くよ。じゃあね」
「私も。バイバイ。皆大好きだよ」
次第に消えていきながら、クリスとコレットは照れたように笑い手を振り、元の時代へと帰ったのであった……。
パシャパシャ
てめえこら!子供達の帰省が決まったからって、嬉しそうに写真撮ってんじゃねえ!ぶん殴るぞ!さっさと帰れ!
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