ちょっとしたサプライズ3

sideジネット


「クーだっこ!」


「コーも!」


「自分に抱っこしてって言われるなんて…」


「おーよしよし。私は可愛いねー」


パシャリ パシャリ パシャリ


コレットもクリスも、分かっているのかいないのか、未来の自分に抱っこを要求しているが、未来のコレットは慣れた様に、クリスは困惑気にだが、やはり慣れた手付きで抱き上げていた。ひょっとしたら未来の我が家に、娘たちの弟か妹がいるのかもしれない。最有力はリリアーナの子だな……。


「うふふー。クリスが2人ー。コレットちゃんも2人ー。うふふー」


「ちょっとママ!? 苦しい!」


「埋もれてる埋もれてる。ふごふご」


パシャパシャパシャ


そのリリアーナは、子供達が倍になったことが嬉しくてたまらないといった表情で、無駄にデカイ胸で子供達を埋めていた。

だからお前の胸は人を窒息死させられるんだ!私の娘を離さんか!


そして夫の方は写真を撮りまくっている。


「ねえクリスくん。みらいのわたしはなにしてるの?」


「え!? ……ごめんソフィアお姉ちゃん、お姉ちゃん? 言えないみたい」


「えー。不便だねー」


「あ、あはは…」


パシャリ


「コレット、私に子供は生まれてるか?」


「大丈夫だよリンお姉ちゃん。100人いる」


「な、なぬ!? 100!?」


「そう、毎年10つ子。あいだだだだママストップ、ストップ。ごめんなさい嘘つきました。本当は……言えないや」


「嘘なのか!?」


「うん。でもどうせ将来的にはそうなだだだだだストップストップ」


「全く…」


パシャリ


リンに変なことを言い出したので、コレットのこめかみを指の関節で挟み込んだが、どうもこの子は揶揄い癖があるようだ。あまり表情を変えないままだから分かりにくいが、さっきもリンの反応を見て楽しんでいた。


しかし夫は、この子達が来てから本当に写真をよく撮っている。一挙一動に撮るものだから、恐らく今日一日でアルバムが1つか2つは出来るだろう。


「ほらクリスこっち向いて。さっきからずっと写真に写らないようにしてるでしょ。ソフィアちゃんとコレットもこっちこっちー」


「パパ!恥ずかしいんだってば!」


「クリスは照れ屋さん」


「そうなのコレットちゃん?」


「うん。そしてパパは今も昔も写真魔」


「例え子供が嫌がろうと、成長と思い出を撮るのがパパの義務なのです!」


「えへへ!クーもっと!」


パシャリ


出来るだけ写真に撮られまいと、顔を背けていたクリスに業を煮やしたのだろう。無言で写真を撮っていた夫がついに口を開いた。

だがクリスはそれでも嫌がり、今抱き上げている幼い自分で顔を隠して、決して写真に写るまいと守りの態勢に入り、撮れたのは何かの遊びと思った幼いクリスの笑顔だけだろう。


「リリアーナ!? クリスが照れ屋さんに!」


「あらあらうふふ」


「大声でそんなこと言わないでよ!」


「年頃の男の子にあれは恥ずかしいのじゃ」


「坊ちゃま、お嬢様……。ご立派になられて」


「ひょっとして泣いとる?アレクシアの鼻先が赤いとか初めて見るんじゃが」


「いえ、決してそのようなことは。ぐす」


「やっぱり泣いとるのじゃ…」


私も年頃の子がどういったものか詳しくは無いが、確かに自分が照れ屋だと大声で言われると、クリスも恥ずかしいだろう。クリスは顔を真っ赤にして話を終わらそうと必死だ。


赤いと言えばアレクシアの鼻先もだ。

いつもは鉄面皮そのものといっていいアレクシアの鼻先が、今はほんのりと赤く染まり、よく見ると目まで潤ませている。どうやらコレット達の成長に感極まっているらしい。

まあ、深夜に子供達の母親だったのはアレクシアだ。なんというか、奇妙な共感を覚える。


「お姉ちゃん嬉しそうですね!」


「ん? そうか?」


「とっても!」


「ママも照れ屋さん」


「そうですねコレットちゃん!」


「ママ!コーだっこして!」


あまり表情に出していないと思っていたが、どうやら妹と娘にはよく分かるらしい。ルーはニコニコと、コレットは私の隣に座ってそんな事を言っている。

変な話だが、未来でも娘がちゃんと元気でいる事が分かって確かに嬉しかった。それに未来でも人と触れ合うのが好きなところは変わって無いらしく、私にくっ付いて座っている。


「ほら後ろを向きなさい。髪を梳く続きをしないと」


「ありがとママ」


どうも夫に似たのか、ある程度は綺麗にしているが、女の髪としてはまだまだ手入れが甘い。未来の自分もなんとかしようと苦労しているだろう。

そう言えばあの人は?



パシャパシャパシャ


「んで窓に張り付いて何しとるん?」


「そりゃ勿論写真だ」


「さよけ」


「んだ」


「自分の事、客観的に見れてる?」


「……まあ」


「というかさっき俺が撮った写真あるよな?」


「それはそれ、これはこれ」


「さよけ」


「んだ」


「んでどうやって来たん? その場にいた?」


「そりゃあ気配が急に消えたんだ。慌ててよう分からん壁をぶち破って追っかけてきた」


「どうやってだよ……」


「なに、その時になったら出来る出来る。俺も同じことを思ったけど、何とかなるもんだ」


「ははあ。あ、ということは遺物で来てないってことだろ? 婆さんどうなってるか話せるか? 世界樹から帰って来て、妙に儚いというか、一息ついたというか」


「ピンピンしてるよ。ありゃあ下手すりゃ俺より長生きするな」


「なら一安心だな」


「ほかに聞く事はないのか?」


「ない。俺でもこういうことは、あんまりよくないって事くらい分かる」


「だな」


「そんでどうすんの?」


「あの子達が家に帰るのとは訳が違うからな。混乱するだけだ。元の時代に帰るのを見届けるまで隠れてる」


「はいよ」


「じゃあな」


「ああ」

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