侍女は見た5
ユーゴ邸 sideアレクシア
「ママ!コーがする!コーがする!」
「クーも!クーもする!」
「そうねコレット、クリス。それじゃあ一緒に洗いましょう」
「うん!」
「うん!」
「偉いわね2人とも」
「ママのお手伝いするなんてすごいぞー」
私が食後のお茶を入れている最中、クリス坊ちゃまとコレットお嬢様が、流し台で食器を洗っているジネット様の足元で、自分達が食器を洗うと、少し飛び跳ねながら両手を挙げて訴え、それをリリアーナ様とユーゴ様が誉めているが、私は知っている…。
近頃、色々な事を自分でやりたがり、母親たちがしようにも、いやだと言い始めた坊ちゃま達に、ショックを受けたユーゴ様、ジネット様、リリアーナ様が、3人で家族会議をしていたことを…。
これがイヤイヤ期…!となにやら心当たりがあられる様だったが、そういえばお嬢様にも、そのような時期があったと思い出した。
「よーし乗せるよ。それ!」
「えっへ!」
「きゃあ!」
当然坊ちゃま達の背は流し台に届かないため、このためにユーゴ様が自分でお作りになった台に、坊ちゃま達を抱き上げて乗せられていた。
大きな屋敷だけあり、流し台もそれなりに大きいため、3人が並ぶだけの大きさはあるが、
「あわあわー」
「あわー」
「あら。遊んでると、ママが終わらしちゃうわよ?」
「だめ!」
「クーがする!」
「ふふ」
「じゃー」
「じゃーじゃー」
洗剤の泡が面白かったらしく、両手を叩いたりして泡を飛ばしていたお二人だが、ジネット様の言葉にすることを思い出したようで、水の魔石から流れ出している水に、泡が付いている食器を持って行って、泡を洗い流している。
その家族会議での結論は、子供達の自立心の表れだから、最大限尊重しようというものになったようだ。
幸いと言うべきか、長命種はその寿命ゆえか、気の長いものが多いので、坊ちゃま達の気が逸れて遊び半分になっても、当家の皆様は気にすることなくお手伝いをさせていた。
「ありがとうコレット、クリス」
「えっへえっへ!」
「えへへ!」
何と愛らしい坊ちゃまとお嬢様の笑みだろう。
当家の未来は明るい。
◆
「もふもふ-」
「もふもふ…もふもふ…」
「きゅーん」
⦅もっと撫でて!⦆
「にゃー」
⦅首筋希望⦆
屋敷の外で日向ぼっこしていたポチとタマを、ルー様とリン様が撫でていたが、リン様の方は一心不乱にもふもふと呟いている。少し怖い。
そんなリン様だが私は知っている…。
可愛い物好きな彼女は、ソフィア様がユーゴ様に買って貰った、熊のぬいぐるみが自分も欲しくなったようで、後日一人で買いに行き、自分の部屋に飾っているのだ。
そう言えばソフィア様と言えば、ドロテア様が、この歳ならエルフの簡単な薬の勉強をしないとと言って、御自分の薬屋に連れて行き、現在はお勉強中だ。
どうやらエルフの薬は、家庭の親から学ぶのが一般的なようで、今だお忙しいソフィア様の母親に代わり、ドロテア様が教える事となったようだ。
リリアーナ様も覚えがあるようで、エルフの外交官で忙しかった両親との、貴重な触れ合いの時間だったらしく、とても懐かしそうにしていた。それもあって、御自分がクリス御坊ちゃまに教える事を、楽しみにしている様だ。
問題なのはジネット様とコレットお嬢様で、どうやらエルフと同じように、薬を両親が教える所までは一緒なのだが、その上にかなり強力な毒薬も教えるらしく、それを聞いたときのユーゴ様の表情が引き攣っていたのだ。
そのため、リリアーナ様と同じく、コレットお嬢様との勉強の時間を楽しみにしているジネット様に、一体どうしたらと悩なんでおられたが、最終的にはコレットお嬢様の自衛のためと、御自分を納得させたようだ。
「ポチ!タマ!」
「あそぼ!」
⦅クリス!コレット!⦆
⦅千客万来⦆
外用の服と靴を履いた坊ちゃまとお嬢様に、ポチとタマがぴょんと跳ねて喜ぶが、この2人にも秘密がある…。
ソフィア様通訳のもと、サーカスで熊が玉乗りをしたことを坊ちゃま達から聞いた2人は、対抗心をメラメラと燃やして、ユーゴ様に玉を買ってもらい、密かに練習中なのだ。
しかもそれだけではなく、何故か最後の演目であった、空中飛行にまで習得しようと躍起になっており、ポチは4足から炎を噴き出して、タマの方は空気中の水分を凍らしてそれを本体とし、それを連続で行う事で、疑似的に空中に浮き続けているように見せようとしている。
尤も2人とも、精霊体になれば飛行呪文を唱えて一瞬で行えるのだが、自分の精霊体の姿が怖い事を自覚しているようで、あくまで今のままの、炎と氷を出す能力で何とかしようとしている。
2人の頑張りが実る事を祈ろう。
「あ、絨毯が来ましたよ、コレットちゃんクリスくんー」
「む。最近よく来るな」
こちらにふわふわと漂いながらやって来る、絨毯に宿ったブラウニー。ユーゴ様曰く、ブラシ中尉にも秘密がある…。
「ちゅーい!えへへ!」
「ちゅい!えっへ!」
シュルリと器用にお坊ちゃま達を自分に乗せた中尉だが、実は最近、坊ちゃま達の遊び相手ナンバーワンの座を狙っている様だ。
それにはポチとタマを含め、この屋敷の誰も気づいていないが、ブラウニーの総指揮を執るシルキーの私には分かる。
今現在も、中尉の野望は水面下でヒッソリと進められている。
「えへへ!」
「えっへえっへ!」
しかしその事は言うまい。坊ちゃま達が笑顔で遊んでいることに変わりないのだ。
今日も私は、秘密を抱いて生きている。
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