有り体に言うと、昔に比べてかなりキレやすくなっている怪物
祈りの国 ベルトルド総長執務室
「む?そうか、今日から休暇明けか。ご苦労だったな騎士マイク。そうだ、世界は広い。そしてそれ故、常に危機を孕んでいるのだ。我々は常にその事を意識して、職務に励まなければならない」
「ん?奴がどうしてあれほど強いのか私にも分からん。しかし、怖さならば少しだけ話せる。もしお前があれほどの力を持っていなたら、単なる市民として生活できるか?社会に埋没する事をよしとするか?そうだろう。普通は無理だ。のし上がる、頂点に立つ、名をあげる。色々考えれるだろう」
「しかし、奴はそれを望んでいない。分かるか?この世界で最も恐ろしい男が、人畜無害な存在を装っているのだ。人に頼まれるのをよしとし、金を払うのをよしとし、子供達と遊ぶのをよしとする。これで一体誰が気づくというのだ?」
「だからこそ恐ろしいのだ。何人も触れてはいけない存在でありながら、社会に溶け込んでいる。社交性を持っている。つまり、何も知らない者にとって、接触しやすいのだ。脅しやすいのだ。害を加えやすいのだ」
「そしてその怪物は、なんと話合いまでしようとする。なるべく穏便にしようとな。だが、もうこうなるとどうしようもない。飲めるはずのない要求を突き付けて、怪物を怒らせ、その力が振るわれてそいつは死ぬ。さっきまで人畜無害だったはずの男の手によって」
「分かるだろう?この恐ろしさが。よし、騎士マイク。お前には非常に期待している。これからも励んでくれ」
◆
「報告します。残念ですが、聞き込みを強化しても目立った成果は上がっておりません…」
「そうですか…」
日が落ちてしばらくたった時間に、今日の報告を受けるウィルソンであったが、聞き込みを強化した甲斐なく、成果はゼロであった。
そして、夜になると酒を飲んだものが多くなり、聞き込みの精度が非常に怪しくなるので、今から出来る事は殆どなかった。
「こうなれば、隣町にも人を入れる必要があるかもしれませんね」
「はっ」
一向に姿を掴めないターゲットに苛立つウィルソンは、もうターゲットは、この街を離れたのではないかと考え始める。
(しかし、子供と老人が我々の網からすり抜けれるものなのか?まさかルーカス派は、見つけれていないふりをして、既に首を別の者が届けているのでは?)
「失礼しますウィルソン様!」
ウィルソンが疑心暗鬼になっている時である。テントの外から自分を呼ぶ声が聞こえてきたため、彼は我に返る。
「入りなさい。何かありましたか?」
「はっ、失礼します!実はテントの外に、ダンという老人が連れた双子なら、覚えがあるという男が来ていまして」
「それはっ!」
(やはり聞き込みを強化して正解だった!)
まさにその老人の名こそ、彼らのターゲットを連れた人物にほかならず、ウィルソンは思わず立ち上がって喜色を顔に浮かべる。
「その男をここに連れて来なさい!今すぐ!」
「はっ!」
思わず声が大きくなり、ルーカス派に洩れる事を気にして、慌てて声を潜めたが、それでもつい声は大きくなってしまう。
「お客様をお連れしました!」
「どうぞお入りください」
(いいぞ、ちゃんと出来る奴だ)
出迎えに行かした部下が、重要な情報を持っている相手を、不快にさせないようしている事に満足しながら、テントへ入る許可を出す。
「失礼します」
「どうぞお掛け下さい」
(未熟者め。今さら興奮してどうする)
入って来たのは、東方風の黒髪黒目と言うこと以外、取り立てて特徴のない中肉中背の男であった。その男を椅子に案内しながら、ウィルソンは音を立てている自分の心臓を煩いと感じていた。
「初めまして。ウィルソンと申します」
「これはご丁寧に。ユーゴと申します」
「なんでもダンさんと、双子のお孫さんの事を知っているとか」
「はい。グレン君と、ジェナちゃんですね」
「おおそうです!今彼等はどこに?」
まさに彼等あ血眼になって探しているターゲットの偽名を聞き、ウィルソンは身を乗り出さんばかりに所在を聞く。
「その件なんですが、ダンさんから色々と聞きましてね。どうか手を引いてくれませんか?」
「何のことでしょうか?」
「子供達の殺害です」
(こいつは馬鹿か?)
ダンから話を聞いているなら、自分達が腕利きの暗殺者という事くらい、見当がつくはずだ。それなのにのこのことやって来て、挙句の果てに自分達に手を引けと来た。正真正銘の愚か者である。
「ユーゴさん。何か誤解があるようです。私が直接会って誤解を解くので、どうか案内してくれませんか?」
「すいませんがお断りします。どうか手を引いてくださいませんか?何も幼い子達を害する事はないでしょう?」
「うるせえんだよ!」
顔を真っ赤にさせて立ち上がるウィルソン。
今にも宝を見つけられそうなのに、目の前の馬鹿のせいで話が進まないのだ。この馬鹿から双子達の場所を聞きだすには、痛めつけるか…
「この糞野郎!目を抉ったら素直に喋ってくれるか!?それとも」
脅しつけるかである。だから言ってしまった。
「てめえの身内を殺せば言ってくれるか!?」
ブチリ
◆
ー気怠さを感じていた怪物は、ある日を境に愛を知り、番を得て子供まで授かり、すっかり体を丸めてしまった。そして、子供達を目を細めて見守り、時には腹を出してあやすまでになっていた。しかし、怪物は怪物であった。少しも衰えるばかりか、むしろ、守るものが出来た怪物は、同時に、今まで存在していなかった逆鱗も出来上がっていた。絶対に触れてはいけない逆鱗が…ー
◆
「馬鹿め」
ー"始まりの1人"ドロテアー
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