小大陸編

脱出

本日投稿2話目です。ご注意ください。



???


「陛下!大要塞が陥落しました!」


その声は会議室に雷鳴の様に轟いた。


「ついに…この時が来たか…」


「はっ…」


項垂れる大臣や高位の貴族達。

誰もが分かっていた事だった。恐らく年内で魔物達の攻勢に耐えられないという事は。


「致し方なし。余、マルバン6世の名において。ここに最終避難計画を実行する。異論は?」


「ございませぬ」


すすり泣く声が聞こえる会議場で、最後の計画が実行された。

彼等はこの時の為に備えていた。

大国が滅び、最早押しとどめる事が出来ないと判断された時から。

ただひたすら船を作り。


「行こう。新天地へ」


魔物達の腹に収まるか、一縷の望みをかけて新たな新天地に辿り着くか。

その選択肢を突きつけられた者達は選んだのだ。


土地を捨て国を捨て、新たな地を見つける事を。


小大陸に存在する船の国。

彼等は大船団を結成して旅立つ。


いや、脱出するのだ。

最早魔物達の物となった小大陸を。


老いも若きも、男も女も関係なく。

滅んだ国の難民達すら乗り込んだ船はついに出発する事になった。



海の国 近海


「いやあ、一時はどうなる事かと思ったが、よかったよかった」


「ほんとだよな。俺、赤砂の浜で臨時編入させられたけど、クラーケンが出て来た時は死んだと思った」


「ははは!海神様に栄光あれ!」


大型の漁船に乗り込んだ船員たちが、ついこの前の海の国で発生した騒動で笑いあっていた。

この一件は公式発表では、海神がその力で鎮めたことになっており、とある男が胸を撫で下ろしていた。彼の視点からすると、別の世界であったがかなり派手にやったと思っていたのだ。


「おい!何かデカいのが見えるぞ!」


「なんじゃそりゃ?」


「クラーケンとか言わないよな?」


「よせよ。言った俺が悪いみたいになるだろ」


船の前方から聞こえてきた、曖昧な報告に船員達は困惑するが、一部の者は海で出会うと死を意味する、クラーケンではないかと緊張していた。


「見えたぞ船だ!デカい!何だあのデカさと数は!」


「船?」


「そんな船団の話とか知らないぞ」


物見が詳細を報告し始めるが、やはり船員達は困惑する。海の男達が知らないような大きさと数の船団など、大陸西部の海の覇者である海の国に住んでいて、聞こえてこないはずが無いのだ。

唯一の例外は大陸東部の港の国だが、この国は東方との交易に力を入れており、大船団が大陸を回って来る事はまず無かった。


「どんどん増えてるぞ!城みたいなのが埋め尽くしてる!」


「おいおいどうなってんだ!?」


「見てみよう!」


「おい一気に前に集まるなよ!転覆するぞ!」


次第に判明していく異様。

水平線の向こうから現れ始めたのは、まさに城と言うに値する船だったのだ。しかも一つではない。10や20でもない数の船が次々と現れる。


「どっかの軍艦か!?旗は!?」


「見たことない旗だ!ヤバいぞ船長どうする!?」


「決まってる!ずらかるぞ野郎ども!警告しなければ!」


「おお!」


あまりの異様に、船長はすぐさま海の国へと進路を変える。この大船団の目的が何であれ、すぐに国に連絡を取らなければならなかった。


「戦争とか言わんよな…」


最も恐ろしい予測を呟きながら、船長は指示を出していく。



「船長見えました!報告にあった通り、とんでもないデカさと数です!」


「いったい何処から…」


大型漁船から報告を受け取った街の貴族は、王都に報告を上げながら、調査の為に所持している数隻の船を送り込んでいた。

しかもこの街の貴族、実は大型漁船の船長の親戚筋であり、嘘ではないと判断した彼は、なんと自分の屋敷の保管されていた、貴重な通信魔具まで調査船に貸し出していた程、この件に危機感を持っていた。


もし攻撃を受ければ、即座に通信魔具の情報が王都に伝わり、戦時体制になる事だろう。


「魔法使い。もし攻撃を受ければすぐさま空に飛び立って、一秒でも長く通信魔具に連絡を入れ続けろ」


「はっ」


「船長!もうすぐ声が届くかと!」


「分かった」


念のための手筈を確認しながら、船長は魔道具を使って声を大きくする準備に入った。


『貴船団に問う!こちらは海の国所属の調査船である!貴船団の目的を伝えられたし!現在貴船団は、我が国に接近しつつある!』


調査船の船員達も固唾を飲んで見守っていた。あれだけの船が攻撃して来たなら、調査船などひとたまりも無かった。


『貴船団に問う!こちらは海の国所属の調査船である!貴船団の目的を伝えられたし!現在貴船団は、我が国に接近しつつある!』

(頼むぞー。返事をしてくれ)


城のような大きさにも関わらず、かなりの速度で移動している大船団に緊張しながら、船長はもう一度繰り返した。


『こちらは』


(返事があった!)


「応答があった!」 「静かにしろ!」 「いきなり攻撃は無かったな」


大船団から聞こえてきた声に興奮する船員達であったが、内容はとんでもないものであった。


『こちらは船の国の船団である。貴国と交戦の意思はない。亡国の身である我々をどうか受け入れて欲しい』


「は?」 「何処って言った?」 「船の国?」 「というか亡国って言ったか?」


『しょ、少々お待ちいただきたい!今王都に確認を入れる!』


こうして、大陸史に刻まれる事件の一つ。"小大陸との出会い"が始まったのである。

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