こどもたち

ユーゴ邸 side凜


「ふん!ふん!ふん!」


煩悩退散!煩悩退散!


ジネット殿とリリアーナ殿がお子さん達を自室で寝かしたから、昨夜は久しぶりに夜の営みがあったが、いくら久しぶりとはいえ、昨夜はあんなに甘えてしまうなんて!

いや、思い出すな新島凜!今はひたすら木刀を振るのだ!


煩悩退散!


だいたいルーが朝の浴室で、昨夜の私の事をむっつりさんだなんて表現したから、余計に気になってしまうのだ!私だって甘えたい時くらいあるし、可愛らしい服を着たい時もある!

いかんまた余計なことを考えた!


煩悩退散!


とにかく素振りだ!


「凛。買い物行かない?」


「行きます!」


玄関前で素振りしていたが、外に出てこられた勇吾様に買い物に誘われたら仕方ない。素振りは中止だ!



商店街に来たが、勇吾様が八百屋の方をじっと見ている。


「あらまあかわいい子だこと。男の子?女の子?」


「女の子です!」


「まあまあエリーちゃんに似て可愛い女の子だねえ。そうでしょうお爺ちゃん?」


「いやあ、あっはっはっは!」


若いご婦人が赤ん坊を抱いているが、会話を聞くに隣の男性は彼女の父で赤ん坊の祖父なのだろう。赤ん坊を見る顔が笑みに崩れている。


「そんな馬鹿な…死んでいたはず…。長い事見てなかったし」


「お亡くなりになってた?」


あの男性の事だろうか?どう見ても生気に溢れていて、ゾンビという訳でも無さそうだが。


「いや、あの娘さんが結婚した時に、ショックで死んでた筈なんだ」


「はあ」


この前浴室で聞いたが、実はジネット殿が、コレットが嫁入りする際に、勇吾様が倒れるのではないかと心配している事は黙っておこう。多分それと同じことが、あの男性に起こっていたのだろう。


「いや、俺達は同士なんだ。孫娘が結婚すると聞いたら、また墓場に逆戻りするに違いない。俺だってそうだ」


そう呟きながらその場を後にしたが、どうやら勇吾様にとってあの男性は同士らしい。まあ、娘がいる男性は皆同士なのかもしれないが。


「やあリンちゃんにユーゴ。いらっしゃい」


「ども魚屋さん」


「お邪魔します」


魚屋に来ているが、今日の魚もなかなかの良さだ。一昔前は氷の魔石で冷凍する手段が確立されてなかったため、内陸部の剣の国に魚が並ぶことはあまりなかったようだ。


「これとこれと、あとこの魚も」


「はっは相変わらずだね。いや参った。どれも一押しの奴だったんだけど。いい奥さんだね」


「自慢の妻ですとも」


「ゆ、勇吾様…」


「はいはいご馳走様」


東方出身なのだ。いくら私が実家から余り出なかっても、魚の良し悪しは自然と分かる。

しかし、勇吾様が私の事を自慢の妻と!か、顔が赤くなる!


「はいどうぞ。またよろしくね」


「ありがとうございます」


魚屋から離れても、まだ顔が赤い…。


「ふふ。本当に自慢の奥さんだよ」


「ゆ、ゆうごさまあぁ…」


街中なのですよ…。りんは…りんは。


「さ、返ろうか」


「はいぃ…」



家に帰る前になんとか落ち着く事が出来た。

しかし、家の前にいるのは…。


「おお。がきんちょ達よ。そこは人の家でお前さん達の家ではないのです」


「あ、なんだ。買い物行ってたのかよおっさん。凜の姉ちゃんこんちわ!」


「凜の姉ちゃん顔赤くね?」


「お邪魔します」


やはり商店街の少年達か。今にも門を開けて入ろうとしていた。

しかし、まだ私の顔は赤かったのか!?


「しかし家に来るのは久しぶりだな」


「赤ちゃんが泣いたらダメだからな!」


「顔見て泣かれるのは勘弁!」


「これでも遠慮してた」


門に入りながら聞いていると、どうやら気を使っていたらしい。


「それにしても凜の姉ちゃん顔真っ赤だけどどうしたんだ?」


「熱でもあんの?」


「リンゴより真っ赤」


「な、何でもない!気にするな!」


「ははは」


ゆ、勇吾様も笑ってないで助けてください!


「折角来たんだ。子供の顔も見ていけ」


「たしかジネットさんの子供がコレットで、聖女様の子供がクリスだったよな?」


「泣かれないよな?」


「まだ赤い」


「私の顔の色から離れろ!」


そう言いながらリビングへ入ると、赤ん坊たちはちょうど起きている所だった。


「久しぶりだな」


「あら。うふふ、いらっしゃい」


「お邪魔します」


「こんちわ」


「小声で遠慮」


少年達は、赤ん坊を抱いているジネット殿とリリアーナ殿に小声で挨拶していた。普段は大声で挨拶していたから、かなり赤ん坊の事を気にしている。

幸いなことに赤ん坊たちは、少年達を不思議そうに見ていたが、泣き出す事はなかった。


「コレットー、クリスー。ただいまー。今日は3人衆の兄ちゃんたちが来てくれたぞー」


「おおー可愛い。後、3人衆は名前じゃねえ」


「お、手が動いた。まあ間違っても無いけどな」


「お菓子が欲しくなったらウチに来るんだよ」


勇吾様が帰って来て興奮した様子の赤ん坊を見て、少年達もどこか興奮したように見ていた。


「ほら。ちょっと抱っこしてみろ」


「え?でもよお」


「ケガとかしないよな?」


「男は度胸。ボク抱っこしてみたい」


「うふふ。クリスー。お兄ちゃんですよー」


普段のやんちゃぶりが嘘の様な反応を見せているが、お菓子屋の子がクリスをリリアーナ様指導の下で抱き上げた。


「おお笑った」


「手足がすげえ動いてる」


「プニプニしてる」


どうやらクリスの方も少年達を気に入ったらしい。笑顔を見せながら手足をばたつかせている。

しかし、お菓子屋の子もなかなか様になっている。堂々としていて危なげが無い。


「ほら、コレットの方も」


「お、おお」


「き、気を付けろよ」


「お兄ちゃんですよー」


コレットの方は初対面の相手をじっと見ている。まあ笑顔を見せるクリスの方が珍しい反応だろう。


「おお!あったかい!」


「お、落ち着け!」


「ウチに来たら割引もしくはタダ」


「はっはっは」


「ふふ」


「あらあら。うふふ」


赤ん坊が泣きださなかったからか、段々と普段の地が出始めた様だ。興奮しながら話をしている少年達を見て、勇吾様達も笑っている。


「凜の姉ちゃんの子供はいつなんだ?」


「わ、私の事はいいだろう!?」


「おおほんとだ!あったけえ!」


「将来はきっと男前」


地が出過ぎだ!私の事はいいだろう!


「はっはっは」


ゆ、勇吾様も笑ってないで何か言ってやってください!

もう!

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