平穏
リガの街 深夜 sideユーゴ
全く、帰りは随分遅くなってしまった…。これも全部あの魔の国の国王のせいだ。馬鹿め。
いかん落ち着け…。家にイライラした気持ちを持ち込むんじゃない。子供の胎教に悪い。よく分かって無いが、いい事では無いのは間違いない。
あ、血の匂いも持ち帰ったらダメだな。"倉庫"に水の入った樽は…あったあった。水を被ろう。いや、庭で血を洗い流したくないな。勿体ないが、転移して余所の川辺りで洗い流そう。
◆
よし。着替えも済ましたし、後は門から家に入るだけだ。皆、変に気を遣わず、寝ていてくれるといいが…気配は…よかった寝てるようだ。
む。ポチが猛ダッシュでこっちに来る。どうやら外の犬小屋にいた様だ。
⦅ご主人お帰り!お帰り!⦆
「ただいまポチ」
家の皆が起きないようにか、声を出さずにジャンプして俺の顔面に抱きつくポチ。ちょっと喋りにくい。
「俺の留守中異状は無かった?」
⦅無かった!⦆
「よーしよし」
⦅くーん⦆
どうやら警備隊長として立派に勤め上げた様だ。顔にくっ付いたままのポチの全身をなでなでする。
「家の皆はさっきまで起きてたりしなかった?」
⦅してない!リリアーナママが、ご主人が心配するから寝ましょうって!⦆
リリアーナ…。
⦅ご主人!早くお家へ入ろう!⦆
「だね」
思わず感動しながら庭を歩いて家に入る。もちろんポチはそのままだ。
しかし、玄関の中にタマがいるな。
「ただいまタマ」
⦅主人帰宅。現在異状無し⦆
どうやら待っていてくれたらしい。しゃがんでタマを持ち上げる。
「2人ともお風呂入った?」
⦅凛と入った!⦆
⦅同じく⦆
どうやら凜が入れてくれたらしい。家の皆はポチとタマの事を可愛がっているが、その中でも凜は特に構っている。
「よし。では本日の任務は終了だ。ご苦労様。俺は風呂に入るね」
⦅はい!⦆
⦅はっ⦆
ん?解散を告げたが、ポチは俺の顔から下りないし、タマは腕に絡みつき始めた。
⦅ご主人とも入る!⦆
⦅同じく⦆
ええい可愛らしいやっちゃ。よかろう!風呂将軍についてこい!
⦅わーい!⦆
⦅お供します⦆
◆
⦅きゃー⦆
風呂から出て、タオルでポチをわしゃわしゃしているが、そう言えば皆は自室で寝ているだろうから、今日は俺一人だな…。ふむ。
「今日は一緒に寝る?」
⦅ほんと!?ご主人ほんと!?⦆
⦅寝室へ急行⦆
2人を誘うと、ポチはぴょんぴょん飛び出し、先に拭き終わっていたタマは寝室へと消えていった。精霊なため寝る事は無いが、一緒にいられることが嬉しいらしい。
⦅ご主人!はやくはやく!⦆
「よしよし」
⦅準備万端⦆
拭き終わって、尻尾を振りまくっているポチの先導で自室に入ると、ベッドの上にはタマが既にスタンバイしていた。
「それじゃあお休みー」
⦅おやすみなさい!⦆
⦅主就寝⦆
ベッドへ横になると、ポチとタマはそれぞれ俺の左右に丸まった。
スピスピ
ごろごろ
可愛らしかったのでつい頭を撫でると、ポチの鼻はスピスピ、タマはゴロゴロ言い始めた。少しこうしていよう…。
◆
リガの街 朝
む。いつのまにか寝ていたか。もう窓から日の光が入ってくる。
⦅ご主人おはよう!もう起きるの?⦆
⦅睡眠時間少⦆
「おはよう。十分さ」
起きたことを察したタマとポチが、俺の顔を覗き込みながら少し心配そうな思念を飛ばす。まあ、昨日寝たのが遅かったからだろうが、その気になれば一年中戦える…様な気がする俺だ。十分寝たと言えるだろう。絶対にそんな事したくないが。
「風呂沸かしに行くね」
⦅ボクも行く!⦆
⦅同じく⦆
ポチを背に背負い、タマを抱きかかえた完全装備で浴室に向かう。
む。ブラシ1等兵ご苦労
カッ!
⦅ブラシ隊長おはようございます!⦆
⦅おはようございます⦆
ポチとタマにとって、ブラシ1等兵は先輩であるため敬語で話しかけている。
ポチとタマが警備隊長なら、彼にも相応しい役職を与えねば。
「ブラシ1等兵。貴官の日頃の行いを評価し、階級を軍曹に特別昇進させる。また、浴室総責任者の地位を与えるものとする」
カッ!!
上等兵と伍長をすっ飛ばしたが、後輩が出来た以上、やはり軍曹と言う言葉の重みが必要なのだ。
タマを下ろして、ちょっと上等なブルーのリボンをブラシ軍曹に貼り付ける。ぺたりと。
⦅軍曹!おめでとうございます!⦆
⦅おめでとうございます⦆
祝福するタマとポチ。ブラシ軍曹も少し照れている様だ。
さてお湯用の魔石をポチっと。
⦅はい!⦆
違う違う。
◆
「あなたお帰りなさい」
「ただいまジネット」
ある程度お湯が溜まると、勝手に止まる様になっているので、台所へ行こうとする途中にジネットあった。
野暮用といって夜に出かけたから、少し心配そうにしている。
ジネットに伝えるか?…いや、妊娠している彼女に、暗殺者が狙っていましたなんて言えるか。彼女が気を付ける代わりに、俺が今まで以上に頑張って守ればいい。
「あ、あなた」
「いやあ、ちょっとジネットと離れていたから寂しくて」
「うふ。もう」
お腹を圧迫しないように、ジネットの後ろに回って彼女を抱きしめる。表情も柔らかくなった。そうそう。
「さあ、お風呂も溜まり始めているよ」
「ええ。ふふ、ご一緒にどうです?」
むむむ。
ジネットに可笑しそうな笑顔でお誘いされてしまった。
そうだな、ジネットが転ばないようにご一緒せねば。
床材も滑りにくいのに変えて、万が一があっても婆さんの指輪が守ってくれるが、一応…。そう、一応付いていてあげねば。
うむ。安全のため安全のため。
「勿論」
「うふふ」
安全のためとも。
◆
「コレットー。パパですよー」
ー"マイホームパパ"ユーゴ ジネットのお腹に耳を当てながらー
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