地響き2
本日投稿2話目です。ご注意ください。
◆
騎士の国 山中
凜の件で騎士の国中を走り回ったのが変な所で役立った。移動は転移で出来たが、でけえな!街一つ余裕で入るぞ!しかも周りの山やら岩盤を崩しながら這い出ている。
ああ、やっぱり…竜だ。めんどくせえんだよなあ。硬いから。
しゃあない。ちょっと強めに。
ヒュボッ!
「今忙しいんだよ!寝てろ!」
ガッ!
「硬えな!?」
飛び上がり、割と力を込めて頭を下から突き上げたが、それでも硬い!やはり位階が高いから存在の密度が違う。
ド!!!
大きな足が一歩踏み出したが、それだけで周囲に地響きが起こる。
これはちょっと手間だな。
ギギ
さっきより強めに拳を握る。俺も密度を上げたので、少し周囲が軋んだが仕方ない。あの竜も地響きを起こしているしお相子だ。
「もう一発!」
今度も飛び上があるが、お次は正面からだ。
ヒュ!!!!
ガゴ!!!
これでも潰れんのかい!
オオオオオオおおおおおおお!!!!
うるせえ!!
流石に痛かったのか叫び声が上がるが、体がデカいだけあって声もデカい。
ぬお、下の小石が波打ってる。
ギョロリ
あら、見られてる。さっきは気にしてなかったのに。これは怒ってますねえ。ひょっとして人生初の痛み?竜生?
しかし、大陸で本気で殴るわけにはいかんしなあ。こうなると殴り続けるしかないか。
しゃあない、腹を括ろう。
◆
オオオオオオオオオオオオオオ!!!
光が竜の頭に吸い込まれていく。ほんの一瞬だけの閃光であり、一筋の光の様であったが実際は何百もの光が起こっており、それが全て竜に叩き込まれた。
オオオオオオオ!!!!
竜の頭部に起こった生涯初の激痛。強靭な鱗も剥がれ落ち、至る所で骨が見えていたが、叫び続けるしか出来ない。
「止めだ!」
再び起こった光がついにクイの骨を、脳を破壊し、頭部が爆散した。
「いやあ、大陸で会った中じゃ一番硬かったんじゃないか?」
これまで大陸だけでなく、異なる世界、異なる次元に訪れたユーゴであっても、あまり経験のない硬さに驚きの言葉を漏らす。
「しかし、この死体どうしよう。放置でいいかな…」
頭部を失い血を滝の様に流しながらも、それ以外は残っており処理に困っていた。これだけ硬いとそうそう出来るものではない。
「ん?」
ユーゴは異変に気付く。地面の魔力が急速にクイの足を通って集まりつつあった。
ーーーーー!!
再びピカリと光を起こしながらクイに拳を叩き込み始める。明らかに異常であった。
地面の魔力がどんどんと吸い込まれていく。クイの傷口をよく見ると破壊されながらも徐々に再生をしようとしていた。
魔力を散らそうとするが、吸収する速度と量が多すぎて対処が間に合わない。
「お前マジか」
あまりの魔力の吸い込みに、周囲環境の悪影響を心配したユーゴは一旦攻撃の手を止めると、肉だけではなく骨まで徐々に出来上がっていた。
「地面から魔力を吸い取って再生できるのか…。吸血鬼でも頭が無くなったら死ぬぞ」
どこか呆れながらつぶやくユーゴ。
「足を全部壊して止め?いや、足も再生するかもなあ。しかも四つ足だし、全部同時とか…」
考えを纏めている間にも再生は続いていく。
「しゃあない。地面から浮かそう」
ユーゴは決心するとクイの下に移動し、両足に力を入れるとそのまま飛び上がる。
「んんんん!!」
(よく分かって無いが、オゾン層とかぶち破ったらまずいよな?まず破れるかどうか知らんけど)
ユーゴが恐れていたのは、力を込めすぎた場合、竜どころか大気の層に大穴を開けてしまう事であった。
そのまま空中で、大陸で許される限界を気を付けながら、右手をクイの腹に拳を叩き込む。
■■■■■■!!!!
今日最も強く撃ち込まれた拳は、形容しがたい音を立てながら、そして信じられないことに街一つはあろうかというクイの巨体を僅かに浮かび上がらせた。
「もういっぱあつ!」
■■■■■■■■■!!!!!
右手で感触を確かめたユーゴは、続けざまに左手を殴りつける!
今度ははっきりとクイが浮かび上がり、先程よりさらに強いその衝撃は、辺り一帯の山々を削り取りながら広がっていく。
オオオオオオオオオオ!!!??
早くも頭部の再生が終わったクイであったが、激痛と混乱の叫び声を上げる。クイにとって激痛どころか、宙に浮くことが理解不能の現象だった。
既に腹は大きく裂けていたが、ほとんど岩石のような内臓は、衝撃と共に粉々になっていた。
「最後だ!行くぞ!」
ピキリ
ミシ
そのまま落ちてきたクイに対して、ユーゴは空を蹴り上げ飛翔し迎え撃つ。そして握りこみ存在の密度を上げ過ぎたため、周囲の空間をひしゃげさせながらその右手を叩き込んだ。
最早音と言うには大きすぎる衝撃を伴ったその破滅の一撃は、何とか星の大気を穿つことなく、クイの胴体を消し飛ばす。
轟音と土煙を上げながら落下してくる頭と足であったが、最後の一撃によって空中で絶命していたクイは、その能力を発揮することなく大地にその頭を横たえた。
「ふう。大穴は出来なかったけど…」
着地したユーゴは辺りを見回してため息をつく。
山地の真ん中での戦闘であったのに、山々は丘と言う程度の高さしかなかった。余波で荒れ地の禿山は全て吹き飛んでいたのだ。
「この死体もどうするかなあ。死んでるから"倉庫"には押し込めるけど…。最高魔導士の爺さんにまた売りつけるか?」
バラバラになったクイの処理にも悩むユーゴ。彼の"倉庫"は無機物か、死体であれば収納できるが、これほど大きな物を収納するのは躊躇われた。
「しゃあない、とりあえずしまっとくか」
またため息をつきながらクイの手足を回収していくが、理由は子供用品と同じところに収納したくなかったのだ。
荒れ地の方は考えないように目を逸らしながら、リガの街に帰るユーゴであった。
◆
種族辞典
リザードマン
神々と竜との戦争後に発生した種族であり、外見は二足歩行の蜥蜴で、全身が鱗で覆われており、生半可な武器や魔法では傷つくことはない。
誕生した当時はまだ竜がそれなりの数いたため目にする機会も多く、圧倒的な力を持ち同じ鱗を持つ種族であると共通点を見出したリザードマンは、竜達を崇拝するようになる。
しかし、竜達を信仰したためエルフと対立。その後に起こった戦争において、エルフの手によって絶滅させられたと考えられているが、実は少数ながら生きながらえており、各地の地下でヒッソリと暮らしている。
ー彼等は地上へ帰る日を待ちわびている。地上の人種を根絶やしにしてー
竜辞典
"大陸竜"クイ
足が太く四足で、まるで亀の様な姿をしていた竜。まず目を引くのがその巨体さで、街を一つ上に建てれるほどの大きさを誇り、ただ歩くだけで地震を起こす生きた災害。
特殊な能力として、足から大地の魔力を吸い込み肉体を再生することができ、頭部が破壊されても元に戻るほどで、クイの頑強さと合わせて殆ど不死身の存在であった。
神々との戦争時においては、ゆっくりであったが要所に進軍し、反撃を無視して周囲の全てを踏み潰していった。
最終目標である世界樹への行軍中に、大陸中央部で最終決戦が発生。結果は痛み分けに終わったが、同胞との連絡がつかない事態に陥ったクイは、現在の騎士の国山中で眠りにつくことを選択。リザードマンが発見するまで忘れられていた。
その最期は空中で胴体が消失し、魔力を吸収することが出来ないまま息絶えた。
「決めた。クイは無視する」
闘神マクシム
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