7つ

祈りの国 総長執務室 夕方 ユーゴ


"骸骨"から"7つ"と"蜘蛛"の情報を聞けたのはいいが、その3つ目川というのがどこにあるか分からんから、また総長のお世話になるとしよう。


「3つ目川か。あそこは騎士の国の王都に近いからな…。騎士の国を刺激しないように後回しだったがそこにいたのか」


「行ったことがある、転移出来る者はいますか?」


「いやいない。王都の外れから行ってもらうことになる。地図を出そう」


ちょっと虫が良すぎたか。

総長が後ろにある大きな棚から地図を出すが…。これはこれは。


「すまんが覚えてくれ。地図が表に出たら外交問題になる。それも大事の」


「ええ」


かなり詳細な地図が出て来た。地図なんてどこでも戦略情報で取り扱いは厳しいのにも関わらず、他国である祈りの国がこれほど詳細な物を持っているのだ。騎士の国が知ればどうやって知ったかと、顔を真っ赤にして外交官が飛んでくるだろう。


「なるほど。近いですね」


「ああ。向こうもかなり重点的に調べたのだろうが、分からないとなればかなりの遮蔽だ」


まあ、そこにいると分かればどうとでもなる。

問題は…。


「頼むから川が消えたとかは止めてくれ。これだけ王都に近いとどうしようもない」


「え、ええ勿論です」


ちょっとだけ脳内に浮かんだ心配事を言い当てられてしまった。もう、昔みたいなやらかしはしてないが、それでも脳内に色々とこびり付いてしまっているため、つい心配してしまった。


「本当に頼むぞ」


「勿論ですとも」


多分大丈夫なはずだ。向こうが隠し玉でも持ってない限り。


「では私はこれで」


総長からのお願いビームに耐え切れなくなってしまった。

それに早く凜ちゃんに知らせてあげないとね!


剣の国 ユーゴ邸


「ただいまー」


「お帰りなさい旦那様!」


「お、おかえりなさいませ」


今日もルーと凜ちゃんが迎えてくれたがちょうどいい。


「凜ちゃん。"蜘蛛"、じゃなかった。業魔の居場所が分かったよ」


「業魔が!?で、では支度をしてきます!」


「どうぞー」


顔が赤かった凜ちゃんだが、業魔の事を話すと表情がきりっとしたものに一変。すぐに部屋へ駆け出して行った。


「ご主人様、お夕食はどうします?」


「うーん。いつ帰れるか分からないから皆で先に食べといて。下手すりゃ日を跨ぐし」


「分かりました。なにか作り置きしておきますね」


「お願いします」


ホントに出来たお嫁さん。


「お待たせしました!」


ルーと話をしているとすぐに凜ちゃんが帰って来た。東方特有の東方服で動きやすいよう下は袴、腰には東方刀を差している。準備万端だ。

だが行く前に。


「凜ちゃんこれ持ってて」


「え!?こ、これは指輪!?」


婆さんご自慢の指輪を渡しておく。これなら何かあっても大丈夫。


「こ、こ、これはつまりそういう事ですか!?」


ん?んん!?ひょっとして東方も結婚するとき指輪なのか!?もう欧米化してんの!?和の国じゃねえの!?だから東方の人と話すと噛み合わないんだ!


「よかったですね凜ちゃん!」


「う、うん…」


凜ちゃん赤くなってるがどうしよう…。


「旦那様付けてあげてください。早くしないといけないんでしょ?」


ルーちゃんそれはまずいですよ!


「凜ちゃん、俺なんかでいいの?」


「ぉ。おねがいしますぅ…。ユーゴ様がいいんです…」


蚊の鳴くような声で凜ちゃんが左手を出して来た。これは退けねえ!

凜ちゃんもOkサイン出してるし…えい。薬指にだ。


「あうううぅぅ」


「よかったですね凜ちゃん!」


「だ、大丈夫!?」


付けた瞬間火山が爆発したように顔を赤くしながら俺にもたれかかってくる。

敵討ち明日にする?


「は、はい…。不束者ですがよろしくお願いしますぅ」


そのまま俺に抱き着いて顔を擦りつけてをぐりぐりしてくる。すげえ可愛い。


「これからよろしくね」


「はい…ぐす」


目にたまった涙を拭きながら太陽の様な笑顔だ。

しかし、大事な用はまだ残っている。


「じゃあ行こうか。お父さんとお母さんのために」


「はい!」


目指すは騎士の国王都。ごたごたしているとはいえ、流石に王都は結界張ってるみたいだから外れにだけど。





騎士の国 王都外れ 夜


「これが…転移」


「初めてだった?」


「は、はい」


いきなり景色が変わって凜ちゃんが驚いている。まあ、転移の触媒高いからね。俺も婆さんからの頼み事の報酬は、金じゃなくて触媒を作ってくれって頼んでるし。


「それじゃあ行こうか!走って」


「はい!え?」


そのまま凜ちゃんを抱きかかえる。混乱しているがこっちの方が早いのだ、勘弁してくれたまえ。


「それでは出発します。行先は三つ目川となっております」


「え?ちょっとユーゴ様!?このまま!?」


大丈夫、リリアーナなら喜んでくれるとも。



走る走る走る

時速何キロ出てるかな?凜ちゃんはぎゅっと目を瞑って俺の服を握りしめている。可愛い。


見えた。川だ。ああ、大きい中洲が3つあるのね。それで3つ目川か。

さて、この上流にいるという事らしいが…。


おやおやおや?気配が2つとも一緒だぞ?


ははは


みーつけた


side 凜


ユーゴ様に抱えられて森の中を移動しているが、なんという速さ!風のせいで目が開けていられない。聞こえてくるのは風切り音だけだ。

しかし、私、こんなにユーゴ様に抱き着いて…ふしだらな娘と思われていないだろうか…。いや夫婦になったのだ!このくらい普通だとも!


「凜ちゃん。ちょっと先に気配が2つある。多分どっちかが業魔だ」


「はい!分かりました!」


今日こそ父の仇と母の無念を晴らすとき!それが終わったら…。終わったら…。しょ、初夜…!?。いや、今はその事を考えている場合ではない!業魔を討つことだけを考えねば!


「到着っと」


「あんた誰!?」


「何者だ?」


少し浮遊感を感じたが、ひょっとして崖から飛び降りたのだろうか?だが、衝撃は殆ど感じなかった。

知らない声がしたので目を開くと、赤い髪をした肉付きのいい女と、あの男!間違いない!怨敵業魔!


「ここであったが百年目!業魔!貴様を討つ!」


「ふん。その髪と言い、貴様ら国元から俺を追って来たのか?ご苦労なことだ」


「…あんたの関係者?なら早く始末してよ。私の魔法の感知を全部すり抜けてきたんだけど」


刀を構えて向こうを見るが、嘲笑うような業魔とは対照的に女の方は警戒した目でこちらを見ている。

しかし、魔法による探知があったのか。ユーゴ様は全てすり抜けたようだが。


「一応確認なのですが、業魔と"7つ"で間違いないですかね?」


「…そいうアンタは誰よ?」


「ふん」


「ああ、申し遅れました。私、ユーゴと申しまして、彼女の夫で、妻の敵討ちの助太刀と考えて頂ければ」


ユーゴ様が一歩前に出て、わざわざ頭も軽く下げて自己紹介をしているがそのような事…。

いや、それよりもさっき私をつ、妻と!


「ご苦労なことだ」


「それで?どうしたいわけ?」


「いえ、両方とも死んでいただければと」


普段のユーゴ様を知っているから、何でもないようにサラリと放たれた言葉に驚いてしまう。


「ふ」


「あんた…私の事舐めてない?」


「という事は"7つ"でお間違いない?」


業魔は依然こちらを気に留めていないが、魔法をすり抜けて来たらしいユーゴ様を警戒していた女は、徐々に苛ついた表情を見せ始める。


「【ほパアンッ


呪文だ!まず!?え!??


「流石に間違えるのはマズいからね」


「なんだと!?」


「え!?」


魔力を高めていた女が足だけ残して消えてしまった!?一体何が!?


「貴様何をした!?」


「殺しました。正直に言うと、部外者でちょっと邪魔でしたしね」


「何をしたかと言ってるんだ!!」


業魔が表情を一変させてユーゴ様に問うが、私も聞きたいくらいだ!何もわからなかった!ほんの一瞬で女の上半身が消え去ったのだ!


「さあ凜ちゃん。頑張って!危なくなったら絶対に助けるから!」


「は、はい!」


そうだ!今は仇を討つことを考えねば!


「水草凜、参る!」


夫が後ろにいるのだ!負けはしない!



ーそれでは7つ数えてやろう。いー、なんだもう死んでいるではないかー

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