1人1人と…

む、朝か。

夫は…。珍しくリリアーナが乗っかかっていない。ひょっとしてチャンスなのでは?いやしかし、上に乗るなぞ夫を起こしてしまう…。だが、毎日リリアーナが乗っているのだ…。私だってすこしくらい…。

夫の上にゆっくりと体を下ろしていくと、垂れた髪が夫の顔をくすぐっている。

完全に体重を預けたが夫は小動もしない。外見は別に鍛え上げているという感じではないのに不思議だ。

そのまま胸に顔を寄せ、心臓の音を聞いていると安心感がある。そろそろ起きなければならないがもう少しこのまま…。


「もう、起きてたんですか?」


「ふふ、ジネットが可愛らしいのが悪い」


考えを討ち払って起きようとすると、夫の手が自分の体に回されて抱きしめられてしまう。暖かい。


「今日も母子ともに健康。体の調子は悪くない?」


「ええ。強いて言うなら幸せな事くらいです」


「ならもう少しこうしてよう」


夫が言うには、本当に少しずつお腹の子供は大きくなっているそうだ。その時が楽しみでしょうがない。

男の子か女の子か…リリアーナが言うには女の子らしいが、なんでお前が私の子供の性別が分かるのだ!垂れ流した母性のせいで、生まれる子供全員が自分の子と勘違いしてないだろうな!?




さて…こっそり干すか。

夜の営みはお腹の子の事を考えてしてないが、それでも夫はスキンシップと言ってよく分からない服を着るように頼んでくる。ま、まあ私も夫との時間が増えるのは嫌では無いが。

しかし、何故かそのまま服を回収するのを忘れてしまうため、屋敷に散らばったのを回収してこっそりと洗濯をしてる。


「おはようお姉ちゃん!」


「お、おはようございますジネット殿」


なに!?ルーにリンだと!?変なことを考えていたから気配に気が付かなかった!

籠の中身を見られるわけにはいかん!後ろに隠さねば!


「お、おはよう2人とも」


気がつかれて無いはずだ!


「凜ちゃんがお姉ちゃんに聞きたいことがあるみたいなの!」


「私に聞きたいこと?」


はて?

ルー!籠の方に視線を移すな!


「そのう…子供ができるのはどういう感じなのかと…」


なるほど。前にルーが言うには、鬼とのハーフであることが原因で実家で疎まれているらしい。そのせいか母から愛されていた自覚はあるが、少々自分を肯定できていないらしい。


「愛した男との子供なのだ。当然幸せに決まっている。ルーから聞いたがお前の両親もそうなのだろ?」


「は、はい!」


あまり詳しく説明できなかったが、それでも満足だったらしい。顔が笑顔だ。


「お姉ちゃんありがとうね!行こう凜ちゃん!」


去っていく2人だが、それだけでいいのか?


「ほらね?凜ちゃんも旦那様の赤ちゃん産んでもいいんだよ!」


「う、うん!しかし結納もしてない私では早いんじゃ…」


「大丈夫大丈夫!!その時はあっという間だよ!」


何やら言いながら去っていく2人。

まあいい。私は服を洗濯しようとするか。


ブラウニーを指揮しながら窓を拭いていましたが…。

ジネット様が裏手でこっそりと服を洗濯している…。


騎士の国 某所


"7つ"、"骸骨"、"蜘蛛"が廃教会に集まっていた。


「全く。"切っ先"も"拳死"もだらしないわね。やっぱり誘うの止めとけばよかったかしら?」


「まあそう言うてやるな。元々あの2人は人手が欲しいからと妥協した結果じゃろ?」


「まあそうなんだけど」


計画の発起人である"7つ"と"骸骨"であるが、早々に死が確認された2人の愚痴を言い合う。


「それで2人を殺したのはやっぱり祈りの国?」


「まあそうじゃろう。遺体が祈りの国に運び込まれて検死されているのは確認しておる。なにかしらの神の遺物を使ったんじゃろう。どちらも胸に大穴が空いていた様じゃ」


"骸骨"ですら非常に神経を使いながら使い魔で入手した情報を言う。

神々のお膝元なのだ。ほんの少しのミスでも察知されるため、出来ればもうやりたくないとは思っていたが。


「あーもう最悪。神の遺物とかひょっとしたら私らにも効くんじゃない?」


「まあ断言は出来んが大丈夫じゃとは思う。例えあっても、儂等に害を及ぼせる遺物が祈りの国から出て来るとは思えん」


一応警戒している風な会話であったが、どちらもそんな物はないという自負に溢れていた。


「あんたはどう思う?"蜘蛛"さん?」


「くだらん。俺はただ食うのみ」


「あ、そう」


元々予定にない飛び入りに"7つ"が会話を振るが、変わらず我関せずである。"7つ"が誘った時からこの男は自分が強くなることしか興味がない様だ。


「それじゃあ数合わせが死んだだけだから、予定に変更なし。内乱を起こすで問題ない?それか戦争」


「じゃな」


「ああ」


内乱、または戦争を起こさせ、それに乗じて人を殺害し己の位階を上げる事に賛同が得られたため、"7つ"が解散しようとしたときであった。


「あらあ?見つけるとはやるじゃない」


「面倒じゃが強者の方がずっと位階の上りが早いからのう。ま、痛し痒しじゃな」


「ほら。魔法来るわよ、骸骨お爺ちゃん」


「そこらで悲鳴でも上げておれ」


一行は廃教会へ殺到する魔法攻撃を察知するも、特に呪文も唱えずに魔法障壁を張る。"蜘蛛"に至っては腕を組んだまま壁に背を預けたままである。


「やったか?」


魔法による攻撃が着弾し、崩れ落ちていく廃教会を見やり呟く騎士の国の勇者と暗部の者達。


「隊長!何か飛び出してきました!」


「クソ!攻撃続行!」


廃教会から飛び出して来た影。背から異形の蜘蛛の足を生やした"蜘蛛"が騎士の国の兵達に襲い掛かる。


「させん!」


「ほう?」


今にも兵を貫こうとした蜘蛛の足を勇者が盾で防ぎ、雑魚ばかりでないことが分かった"蜘蛛"の顔に笑みが浮かぶ。


「今だ仕留めろ!」


勇者が2本の足をさばいている隙に、周りの者が一斉に襲い掛かる。


「ぎあ!?」


「蜘蛛なのだぞ?」


背から出る足の数は2本だけではなかった。さらに2本の蜘蛛の足が背から飛び出し、関節を無視したかのような動きで、さらに伸縮して兵が貫かれていく。


「勇者を援護しろ!」


「隊長!教会から人が!」


瞬く間に襲い掛かったものが全滅し、倍となった蜘蛛の足に苦戦する勇者を助けようとする兵達であったが、廃教会から2人が空に飛びあがる。


「あらあら。勇者までいるじゃない。この国いったい何人いるの?」


「さあのう。10より上は居ないと思うが、流石は騎士の国じゃ。"蜘蛛"の国では腐っても鯛と言うらしいぞ?」


「どうでもいいわ。さて私もやろうかしらね!【空よ 地よ 燃え落ちよ 我が 灼熱の 炎が 現れる】!!」


「"7つ"だあああああああ!!」


現在大陸で確認されている、唯一の7つを唱える赤い髪の魔女による炎が炸裂した。

まるで炎の津波と表現できるような赤い波が、廃教会を包囲していた半分以上の面に殺到する。


「ぎゃああああ!!?」 「ぎい!?」 「あああああ!?」


「あははは!燃えなさい!この"7つ"を湛えなさい!」


時刻は夜であったが、まるで昼明かりが地面から出ているような光景を前に魔女は哄笑する。もっともその光景は、火達磨になって転げまわる兵や、既に物言わぬ焼死体が重なり合う地獄であったが。


「おうおう。では儂も【命無き 者達よ 立ち上がり 剣を取れ】」


"骸骨"死霊術によって、"7つ"や"蜘蛛"が生み出した死体がまるで操り人形の様に動き始める。

胸に穴が開き、脊髄も神経も途絶えているにも関わらず動き出す者や、焼死したため筋肉が固まり動かなくなっているはずの者ですら…。


「死霊術だ!首を落とせ!」


「ダメです!死にません!」


「儂の術をそこらのちんけな死霊術師と一緒にせんでくれ」


一般的に知られる、死霊術に操られた死体の対処方である首の切断を試みるも、死体は構わず動き続け、かつての同胞へ剣を突き立てる。


「がはっ!?」


「まあこんなものか」


「勇者殿!?」


一方、"蜘蛛"と勇者の戦いは、ついに"蜘蛛"の足を捌き切れなくなった勇者の胸に、蜘蛛の足が貫くことによって決着がつく。


「撤退だ!撤退しろ!」


「あははは!逃がすわけないじゃない!」


「その魂、貰おうかのう」


「まだ数はいるな」


もはや勝ち目はないと悟った暗部の長は、全員に撤退の指示を出すが"7つ"達はせっかく来てくれた者達を逃すつもりはなかった。


こうして夜遅くに行われた戦いは、一方的な虐殺となって終わりを迎えた。


「ちょっと余興が入ったけど解散。派手にやっちゃったけどまあいいでしょ。誰か来ても返り討ちにしたらいいし」


「じゃの」


「ああ」


派手に暴れ回ってしまったが、裏打ちされた自らへの絶対の自信から、例え追っ手が来たとしても計画を実行しながら対処できると思っている3人であった。




「騎士の国の勇者を含めた有力な部隊が全滅した」


「ははあ。見つけれそうです?」


「守護騎士団を甘く見るなよ?派手に魔法を使ったなら痕跡を探知できる奴だっている。例え転移しようがな」


優れた猟犬に……


「流石ですな」


7つとか特別な死霊術とか異形とか

そんなもの全てを超越した化け物を

知らなかった


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