最大最強

剣の国 ユーゴ邸


「あ、リリアーナ。こっち座って」


「旦那様?」


「いいからいいから」


お休みのリリアーナを発見。座って貰おう。


「背を向けて」


「?はい」


マッサージ開始!絶対肩が凝ってる確信がある。間違いないね。


「あん」


「変な声出さないの」


「もう。旦那様が急に」


「スキンシップ、スキンシップ」


「ふふ。ではお願いしますね。肩が凝ってて」


でしょうね。揉んでて一発で分かるもの。


「セラ達は馴染めてる?」


「はふ。ええ、セラちゃんったら可愛いんですよ?」


リリアーナの母性に、セラもやられてしまったようだ。この間、お腹の辺りを抱きしめて寝ていたくらいだ。

アリーの方は、倉庫の中で眠っていた予備役達を招集して、再訓練の真っ最中。流石だ…。


「腕の方もしますねー」


「はーい」


ぷにぷにしている。餅肌?

掌もしてたら握ってきた。こいつめ。反撃の恋人繋ぎじゃ。


「うふふ」


「最後に頭を膝に乗せてくださーい」


「はーい」


頭皮マッサージ開始!さらさらしていい匂いがする。


「ねえ旦那様?」


「なんだい?」


「私、幸せです」


「俺もだよ」


そうとも、誰にも憚ることなく大声で言える。


「すう…」


頭皮マッサージした後に頭をなでてると、眠ってしまったようだ。

布団叩き2等兵、なにか薄い布団を。

よし、よくやった。

俺もしばらくこうしていよう。


む?誰か来たな。

リリアーナはまだ寝てるか。慎重に…。

さて誰じゃろか?


「ごめんくださーい」


「はーい」


!?

嫌な予感がするだと!?撤退した方がいい!?

いやそんな馬鹿な…こんな街中で怪物でも現れるわけが…。

いや、心拍数も上がってきたぞ。これはいよいよダメかもしれん。

一体どんな怪物が…。

ええいままよ!


「はーい」


ん?ドアを開けたが、目の前には普通の男…。

ああああああああ!?

そのバッジはあああああ!?


「すいません。私、徴税官のマックと申します」


史上最大最強の存在社会機構だあああああああああ!?


「世帯主のユーゴ様で間違いないでしょうか?」


「は、はい」


こいつ何しにきやがった!?税は今までちゃんと払って…!?げ!?こいつまさか!?


「ご職業は造形師で間違いありませんか?」


俺の本業の稼ぎで、この屋敷はありえんだろうと気が付きやがった!!


「なにか他に副業などは?」


間違いねえ!!しかも脱税か違法行為を疑ってやがる!


「い、いえ特には」


トラブルメーカー、じゃなかったトラブル対処は入るかな…。


「そうですか。材料の石材や木材をどこかに運んだりは?」


転売もしてねえよ!!


「いえ、特には」


「ふむ。奥方は5人でお間違いない?」


「はい」


おい!どうやって食わしてんだ?ひょっとしてヒモかって思っただろ!?


「リリアーナ様以外の奥様は何かお仕事を?」


「いえ、特には」


だめだあああ!?怪しすぎる!!自分でもこいつ怪しいなって思っちゃったもん!

でもほんとの事も言えねえよ!遺跡荒らしまわったり、人に言えない仕事で稼ぎましたなんて言えねえ!

どうする!?宰相に頼むか!?だがみっともなさすぎる!


「そのですな…。まことに言い辛いのですが、おおよその申告された年収と、この土地の税がですな…」


ああああああああ!!聞きたくないいいいいいいいい!!

わし、一応王族じゃし、持参金でということで

ダメだ!幻聴が聞こえて来た!本人を連れてきてそんな話をするとそれこそ終わる!

そうだ!!


「実は、東方からこちらへ渡る前に父母から選別として、遺物を譲られておりまして、それで当分はと」


「はあ、資料には前の住居もそうしたようですが」


しまったああ!!前の家も一括で買って怪しまれたんだ!!忘れてたああ!


「ち、父と母それぞれから譲られまして」


苦しい!


「左様ですか」


「そ、それにここは作業場も大きいですからな。今まで作れなかった、大きな物も作れます。きっといい値が付くでしょう」


「はあ」


こら!ほんとかよって目を止めろ!


「まあ、リリアーナ様がいますからな。祈りの国から何か援助があったとは思っていましたが、急なことで驚いてしまいました。今日はこの辺りで失礼します」


やっぱりヒモ認定しやがった!しかも今日はってなんだよ!今日はって!


「お、お勤めご苦労様です」


「いえそれでは」


バタン


帰ったよな?間違いない帰った。

な、なんとか誤魔化せた。


「わあ。大きな白石ですね!」


今日も元気一杯だねルー。ちょっと今日だけは分けて欲しい。


「でしょ?馬車で持ってきたくらいだからね」


石材屋の兄ちゃんたちは、無理ですって顔をしてたからな。


「でもこんな大きいの作って、青空市場で売れるんですか?」


「大丈夫。知り合いのオークションに出してもらうから」


持つべき者は弱みを握った知人だ。


「じゃあ俺は作業に入るね」


「はい!お夕飯に呼びに来ますね!」


「ありがと」


さて、やるか。完全に物理法則を無視して作るのは久しぶりだな。

よし!ミケランジェロ!レオナルド・ダ・ヴィンチ!俺に力を貸してくれ!

作るのは、祈りの国で長い事勇者だったから人気の、現役時のおっさん2人!


某所 オークション会場


「それでは皆さんお待たせしました!本日の目玉!かつて祈りの国にて名を馳せた勇者!ドナートとベルトルドをモチーフにした白石像です!」


司会の男は、当日に変更された目玉商品を高らかに宣言し、被されていた布を勢いよくはぎとる。


『おお!』

『なんと!若い頃では無く、一番脂の乗っていた時の2人だ!』

『あれが勇者ドナートとベルトルド』

『あの顔を見ろよ。絶対に引かないって顔だ』

『どこの誰の作品だ?』

『今は枢機卿と守護騎士団の総長だっけ?』


眉間に寄せられた皺から、食いしばった歯と口周り、そして、相手を絶対に殺すと覚悟した目。顔だけではなく、鎧と服からでも伝わる筋肉の力強さに、指一本一本に伝わる神経があるような手。

そんな見事な像のモチーフは、現役最長記録を持ち、勇者にしては珍しく他国でも何度か活躍した、祈りの国の現枢機卿ドナートと、守護騎士団総長ベルトルド、そんな最も男として脂の乗っていた時期の2人であった。


『それでは皆さん!準備はよろしいでしょうか!?』


興奮する会場の火ぶたが切って降ろされた。


(ははは!"二つ首に"会って覚悟を決めた2人をモチーフにして正解だったな!この世界にまだ肖像権などない!)


そんな中、いくらで落札されるか気になってユーゴが会場に来ていた。どうやら彼の心配は杞憂に終わりそうだ。


『---!---!で落札です!』


(俺の勝ちだ徴税官!!)

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