副業

剣の国 ユーゴ


「それじゃあユーゴさん、俺らは失礼します」


「ありがとうございました」


石売りの店から、白い石やらを持ってきてくれた若い衆にお礼を言う。

これで必要な物は全部裏手だ。まあ、月末までには余裕だろう。


「ご主人様!これは何をするんですか?」


「うん、これこそが俺の本業、人形とか置物を作るための材料だ」


フィギュアとも言う。


「ご主人さまお人形作ってたんですか!?」


「そうそう、主な収入はこれ。結構売れてるんだよ。」


断じてトラブル対策じゃない。というか、俺の関わる案件は、もはやトラブルなんてモンじゃないのが多い。平気で万単位の人命が懸かっていたりするし、分けが分からん。

「さあ、入ろう」


「はい!ということは、この部屋は作業場だったんですね」


「そそ」


自分が改築した、大きな扉から作業場へ入る。ちょっと大きな空間なだけで、何も置いてないからルーも作業場とは思わなかったようだ。


「でも、どうやって作るんですか?」


「ふっふっ、見ててくれ」


大きな白石の塊を机の上に置く。集中集中。

カ カ カ


「わっわっわっ」


ルーの目には石が勝手に削られているように見えるだろう。

カ カ カ

ーーーーーーーー

ーーーー

ーー

たった数分で、小さいながらも精巧な人の像が出来た。


「すごいですご主人様!どうやったんですか!?」


「ふっふっ、指で削りとったんだ」


大変楽である。あとは曲線を磨くだけだ。


「指で!?でも、こんな内側とか、指より細いところはどうやったんですか?」


「細かいところは爪だね。距離感とか肉体の制御は鍛えてますとも。内側は…ちょっとした技術さ」


二つ名とか言われたらあっさり崩れるけど…。あと、技術というのは嘘ではない…ちょっとルール違反というか、無視というかをしているだけで…。


「へー、これ闘神ですか?」


「そうそう、闘神マクシム。求道の冒険者とか武人によく売れてね。主力商品の一つさ」


今にもはち切れそうな腕と足、殺意に溢れた視線とそれにぴったりと矛先が合う槍。うむ。いいんじゃないか?伊達に、人形やフィギュアのためなら、死んでもいいという者が多い国に生まれていない。

故郷の感性が、こちらでも受け入れられてよかった。後は頭の中に大量にあるポーズやらの青写真にそって肉体を動かしたらいい。幸い肉体制御は死活問題だったため鍛えまくっており、繊細な作業に応用できた。

ありがとう先人達よ。


「この出来上がったのはどうするんです?」


「月末の青空市で売るのさ。場所代取られないし、手続きも楽だからね」


主要街道からは少し外れているが、大きな街でもある。北部の未開域からの魔物の素材がやってきたり、周辺の行商が集まるので、結構な賑わいになるのだ。物も十分売れる。

しかし、旅の暇つぶしにしていたフィギュア製作が、いつの間にか商品になるとは…。故郷に比べると娯楽何て数える程度のこの世界、野宿なんかの夜にはずっとしてたらなあ。もう何十年もやってる。

さて、木箱を注文したら製作作業だな。


ーーーーーーーー

ーーーーー

ーー

うん、晴れてよかった。やっぱり雨だと売り上げが変わるからな。金に困ってるわけではないが、在庫を抱えると邪魔だ。

準備はよし。家の前が青空市をやっていい範囲でよかった。一々往復するのは面倒だ。


「よし、じゃあ俺は表に行くね」


「はい!」


「はい」


ジネットとルーは家の中で在庫とお金の整理だ。ただでさえ人が多い青空市の2日間、二人目当てで人垣ができるととんでもない騒ぎになる。

よし、働くか。



「ううむ。やはり見事な…」


闘神マクシムの像を熱心に見るこの男。冒険者というより多分、武人と言っていいだろう。結構出来るな、北部の未開域からの帰りかね?

悩んでいるのは値段だろう。大きな白石で作った奴だ、それなりになる。


「こちら、少し小さいほうがお求めやすい金額になっておりますよ?」


「ああ、いや。実家の道場に飾ろうかと悩んでおってな。こちらの大きさの方が見栄えが良い」


「それはそれは、名誉なことです」


「ううむ」


また、悩み始めた。


「店主さん、この二つを」


「ありがとうございます」


その間、行商風の男が選んだ、安全と商売繁盛の神様を模ったお守りを勘定する。お守りは落とした時、割れないよう木にしているからその分安い。だが、出来も結構頑張ってるし、幸運やら恋愛、安全なんて鉄板を作っているから値段も相まって売れまくってる。


「兄者、ここにいたのか」


「む、弟よ、このマグナス像を見てみよ。これを買おうかと悩んでいる」


武人の弟の様だ。随分似ている。


「おお、なんと見事な。実家に飾るのか?値段は、まあ悩むな」


「はい、自慢の商品でして」


割と闘神や戦神系は自信がある。伊達に殺し合いの世界に身を置いていない。逆に、慈愛とか天気とかそういう一般の神は、祈りの国の造形師達の作品と比べると明らかに劣っている。やはり本職は違うな。だが、彼らは彼らで、殺し合いに身を置く立場じゃないから、こちらでは俺の方が多分上回ってる。


「これほどの物だ。さもありなん。どうだ弟よ」


「うーむ。いいのではないか?この像ときたら今にも襲い掛かってきそうだ。俺は気に入ったぞ」


「お前もそうか。うん決めた。店主これをくれ」


「はい、ありがとうございます。箱に詰めるので少々お待ちください」


やったぜ。



「いっぱい売れましたね!」


いやあ、この2日間、売れた売れた。この近辺では、高級指向の白石作りは、自分がほぼ独占状態ということを考えても売れた。

これで"倉庫"の中身に頼らなくても生活できるだろう。

夕飯も終わったし、さて。


「ご主人様?」


「…あっ」


「ここ数日、忙しかったから不足分を足さないとね」


「はい!」


「はい、あなた」


仕事も終わったし3人の時間だ。





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