新たな日常2


sideルー


お姉ちゃんと今日も朝ごはんを作る。

計画はほぼ順調だ。リガの街に自分達は溶け込みつつある。まあ、お姉ちゃんはそういうこと全く向いてないから主に頑張っているのは自分だが。


最近のお姉ちゃんならと思ったけど。やっぱりだめ。外で他の男が自分のことを見ると一気に殺気立つ。あれじゃあ、悪目立ちしちゃうよ。私だって我慢してるのに。

大体のお店にはご主人様と行って、何気なく指輪を見せている。ご主人様も、あの夜の次の日には、指輪をしてくれてた!しかも薬指だ!やったね!


お店の人たちはいい人ばっかりなんだけど、ご主人様へのあの視線は止めてほしい…自分のことを心配してくれてるのを分かるから、何とも言えないんだけど…。

お姉ちゃんと道を歩いてる時の、男共のご主人様への視線は、嫉妬そのものだから、何も知らないくせに!ってイライラするけど…うーん。


あ、お姉ちゃんが鼻歌歌いだした。最近、寝室では素直にイチャイチャして欲求を溜め込んでいないから、ご機嫌そのものだ。よかったよかった。呼び方の方もたまに、寝室限定で"あなた"になる。今度私も言ってみよう。それとも、お兄ちゃんの方がいいかな?


あ、ご主人様が浴室からこっちへ来た。

この家のお風呂は結構立派だ。珍しいことに浴槽もあり、3人で入れるくらい立派なのだ。ご主人様曰く、風呂には拘る、徹底的にだ。だそうだ。あと、シャワーだけは論外、なのだそうだ。


「ジネット。ルー。今日もありがとね。それじゃあ頂きます!」

「頂きます!」


「…はい、どうぞ召し上がって下さい!」


さあ、今日もがんばるぞ!


朝食後の仕事は、買い物か掃除なのだが、今日の買い物はご主人様とお姉ちゃんだ。

最初の掃除はご主人様の寝室から。湿気がすごいから早いめにやっておかなくてはならない。ベッドの方はご主人様が大きいのを新しく買い替えたが、自分の身長じゃ持ち上げるのに苦労する。種族的に筋力は問題ないが、バランスが取りにくいのだ。


あ、お姉ちゃんの下着だ。無い無い言ってたがこんなとこにあった。

私達の寝室は寝るのに使ってないから、少し掃除をするだけでいい。今度少し大きな鏡を買おうかな。どういう風に、ご主人様に見られているかの姿とポーズをチェックしなければ。


sideジネット


今日は私がご主人様との買い物だ。ほぼ、毎日の事ではあるが、二人きりなのだ。これはデートと言えるだろう。手だって繋いでいるのだ、間違いない。…もう少しだけ近づこう。あ、手の力が強くなった。


「そこのダークエルフのお嬢さん!どうか私の話をお聞きください!」


もう少し…もう少しだけ…いやいっそ抱き着くのも…。


「お待ちください!」


む、なんだ人が悩んでいるときにこの男は。

見るとなにやら、派手に着飾っている男が跪いていた。いったい何者だ?姿といい、腰に下げているリュートを見るに吟遊詩人か?


「私の名前は吟遊詩人、"蒼い空の美声"アラン!貴方に心奪われたものにございます!」

やはりそうだ、声が吟遊詩人特有の、魔力を含んだ声の張りだ。

しかし、今何と言った?


「美しい御方!何卒お名前をお聞かせてください!そして、どうか私の手をお取りください!」


「今すぐ消えろ」


うっとおしい。最近じろじろ見る輩が少し減ってきたと思ったらこれだ。


「ああ、やはり美しい御声。このアランですら敵いませぬ!」


「あー、吟遊詩人殿?彼女は私の妻でして、どうかご遠慮ください」


ご主人様…いま私のことを妻と…。


「すまない、少し待っていてくれ。美しい御方よ!貴方のために"歌"をお作りしました!どうかお聞きください!」


ええい!今いいところなのだ!邪魔をするな!!


「うーむ。あ、そうだジネット、ちょいと失礼」


あ、ご主人様が腰に手を回して顔を近づけてくる。

キスされた…。長い長い…。

…ああ…あなた…あなたぁ……


「き、君!!この往来で何と破廉恥な!?」


旦那様が私を抱きかかえる。


「すまんね。俺のお姫様なんだ。お引き取り願おう」


「な、な、な!?」


「あなたぁ…愛しています」


「ああ、俺もだよ、ジネット」


そこからどうやって買い物を済まして帰ったか、よく覚えていない。



sideルー


お昼ご飯が終われば、今日はソファーでおしゃべりだ。ご主人様を私達で挟み込んで座る。


「ああ、そろそろ聖女の交代があるのか」


「はい!今の聖女さんはハイエルフでしたよね?」


「確かそのはず…長命種が役職付いても、ポストの都合でそんなに長い間勤めてないはずだけど」


「へー」


「…出世も原動力ですからね」


こういう時お姉ちゃんは、いつもは隣に座っているけど、今日は、ご主人様にしなだれかかっている。何かあったのだろう。私は抱き着いてお話しする。

夜が更けるまでのご主人様成分をここで補給するのだ。

でも、寝室とはまた違う、私達の大切な愛の時間。


職業辞典


吟遊詩人:魔力を含んだ特殊な声と楽器からの音で、歌や詩を歌いあげる。俗にいう支援職であり、筋力や魔法の強化、また特殊な膜を生成し、支援対象の防御を補助、その他多数の支援ができる。感覚の強化は、慣れないものは振り回されるので、出来合いのメンバーには忌避され掛けない傾向にある。


本人が作った歌や詩の出来合いによって、効果の強さが変わるため、魔力や楽器の腕前以外に、創作力も必要な難しい職業でもある。


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