細々とした物

剣の国 ユーゴ


朝飯も気合が入ってた。酷いときはパンだけで済ましてた自分には、目の前のサラダやスープ、卵を見ただけで涙が出そう。最近涙腺が緩いな。これが年を取るということか…。


姉ちゃんの方は大丈夫なようだが、昨日の俯きに加えて、自分の方をチラチラッと見てまた俯く動きになった。しかも、やっぱり顔が赤い。昔、飛び込む羽目になったマグマより赤いけど大丈夫?いかん、その後、服が燃え尽きたことを思い出して俺も恥ずかしくなってきた。

そんな乙女チックな動きされちゃうと、こっちもドキドキしちゃうんだけど。ひょっとして行けちゃう?あ、また俯いた。無茶苦茶可愛いんだけど、デート誘っちゃう?ちょっとおっさんだけど大丈夫?出会ってまだ数日だから自意識過剰?


いかんいかん。また、現実逃避だ。これも全部あの婆さんが要らん事言うせいだ。もう頼らん!


「今日ご飯作ってくれてありがとね。それじゃあ、食べさせて頂きます。頂きます」


「頂きます!」


「…はい。どうぞ」


ああああああ!!

妹ちゃんの方も、私、幸せです!!ってオーラ全開だ!!

どういうことだ!?これが家庭ってやつなのか!??助けてくれ婆さん!!あんた、何故か結婚できたろ!?


とっとと受け入れてやんな、意気地なしめ。


ついに幻聴まで聞こえてきやがった!くそっ!



住人が増えたから細々とした物買わないとな。昼は外でだな。

どうも、化粧品とか女物は持ってきてるらしい。よかった、そんなものはチンプンカンプンだ。

妹ちゃんの方は付いてきたそうに見えたが、ここは泣く泣く単独行動だ。ちっこいとはいえダークエルフだ、長くなりそうだから目立つとさらに長くなる。家の方は迷惑客対策に色々仕込んだし、気配も追ってる。家から離れそうだったら、それとなく帰ればいい。何かあっても、少し神経を使うがここからでもどうとでも出来る。


「あ、おっさんだ!通行税を払え!」


「おっさんだ!」


「おっさんおっさん」


出たな悪ガキどもめ。棒切れ持ってるが、チャンバラかいな。というか難しい言葉を使ってる。


「おお、がきんちょ達よ。そこを退くのです」


「やだ」


「やだ」


「お菓子頂戴」


ええい。散れ散れ。飴玉はいかんな、こいつら走り回る。

ポケットに手を突っ込んで"倉庫"からちっさいチョコを渡す。


「ほら通行料だ」


通らせてくれたまえ。


「やったぜ!」


「通ってよし!」


「甘い」


「じゃあながきんちょ達よ。棒で目は突くなよ」


眼帯なんざ似合うのは年食ってからだ。


「おう!」


「またね!」


「おいしかった」


去っていくがんきんちょ共。


「俺、次は特級冒険者ね!」


「えー僕がやりたい」


「ぼく、なににしようかな」


こら、がきんちょ共よ!人格破綻者の代名詞を目指すな!目指すなら"勇者"にしとけ!あっちは品行方正じゃないと出来ない公務員だ!


さて、銀行に金を下ろしに来たわけだが、相変わらずここ立派だな。ドワーフが関わっていたと聞いた気がするがそのせいか?床はピッカピカで天井はギッラギラだ。

お、あの警備員も相変わらずだ。デカい体格に筋肉、今さっき3人ほど殺して来たって顔してるけど、やっぱり戦闘の経験を感じん。他の奴はそうでも無いが…。いざという時大丈夫かいな?


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」


おっと。


「お金を下ろしに来ました。お願いします。」


「かしこまりました。お名前と金額を記入し、魔力紙の方に手を置いて下さい」


ほいっと。しかし、便利だわ魔力認証。


「はい、確認が取れました。少々お待ちくださいユーゴ様」


「はい、お願いします。」


うーむ。どうするか考えたけど、何でもかんでも"倉庫"から入れたり取り出したりの生活してると、怪しいんだよな。ただでさえ、髪と目で目立ってるのに、あいつ、一度も銀行行ってないやら、商店で見たことないんだが、普段何やってるんだ?ということになる。便利なもの持ってるのに世間体からは逃げられんとは…。


「ユーゴ様、お待たせしました」


「いえいえ、ありがとうございます」


えーと、ティッシュにトイレットペーパー、ああ、洗面台の鏡も、ちと綺麗なものにする必要があるな。ありがとう、魔法文明。地球と同じマジの中世だったら頭おかしくなってたわ。



最後の難関だ。婆さんは…いるな。


「あ、ユーゴさん。いらっしゃいませ。すごい買い物袋ですね」


「お邪魔するよ。なにかと入用でね。婆さん奥いる?」


「はい」


「ありがと…ごめん、買い物袋置かしといて…絶対引っかかる」


「ふふ、わかりました」


「ありがとね」


さーて。


「婆さん邪魔するよ」


「いらっしゃい。フェッフッェ」


えーい、ニヤニヤするんじゃない。


「注文があるんだけど」


「おや?注文とは珍しいね」


よし、言うぞ!何気なくだ!


「防御用の魔具をね。それに、万が一あった時用に、俺が飛んでいける転移触媒入れといて」


「フェッフェッフェッフェッ」


笑いすぎだ!これだから来たくなかったが、この婆さん以上の魔具の作り手を俺は知らんのだ。


「メイドの身の安全を守るのは雇用主の義務だ」


「はん?雇用主って、あんた、そいつらと寝てないのかい?」


「まだ、一緒に生活して2日目だよ糞婆!」


「とっとと受け入れてやんな、意気地なしめ」


それはもう聞いたわ!…ん?


「いい年してこの坊やは…」


「話を戻すぞ!魔具を作って下さいお願いします!」


ここは下出の一手だ。


「はいはい、というかそういった類のものはウチにもあるよ」


「はん?そんなのあったの?」


「あるんだよ、ちょっと待ってな」


不思議だ。相手を呪い殺す魔具があると言われたら納得するが。

婆さんが箱を持って戻って来た。


「あったあった。これだよ」


「おや、指輪?」


「そう、防御に関しちゃ飛び切りで、しかも命の危険が迫ると指輪の内に彫った名前のやつを呼び出す。まさにお望み通りさ」


完璧じゃないか。ん?俺の名前を彫る?


「エンゲージリングじゃねえか糞婆!」


「そんな文化が出来るより、これが作られた方が早いよ」


マジかよ


「でもほら、サイズとかさ」


「自動で変わるから心配無用」


なんでそんな機能が…


「お値段は?」


「まあちと高いがその程度でもある」


「聞いてたら古いし、高性能でお高そうなんだけど」


普通に"遺物"だろそれ。


「ふんっ、どうもこれを作った奴は、高い防御とか耐性と、意図せず起こった呼び出しの機能を切り離せなかったのさ」


「ふむ」


「まあ、性能が良かったみたいだから量産されたけど、すぐに廃れて数だけが残った」


「そらまたなんで?」


「誰も、行ったら死ぬところに突然呼ばれたくないのさ、それなら他のを使う」


まあねえ。


「ああ、なるほどね。で、その他のは?」


「うちにはない」


「さよけ」


「というわけで、結構在庫がある。金を置いて持ってきな。あんたの名前はすぐ彫れるよ。善は急げだ」


「ありがとう婆さん」


「お節介焼きでいいね?」


「死ね糞婆」




どうしよう。機会を伺ってたら晩飯が終わってしまった。

いや、単なる装備品を渡すだけだ。これが指輪だから変に緊張しているのだ。

よし、腹を括ろう。


「実は、二人にプレゼントがあるんだ」


「ご主人様!そんなの悪いですよ!」


「…え?プレゼント?」


「二人を守るための大事な物なんだ。受け取ってほしい」


いざ!指輪を出す。


「これなんだけど」


「ゆび、わ?」


「…」


「世話になってる人に貰ってね、二人の身を守る能力と、危ないときは俺が飛んでこれる様に調整されてる。そのせいで俺の名前が内側に彫られてるけど勘弁して?」


「ゆびわ、おなまえ」


「…」


二人とも大丈夫?やっぱ指輪はない?


「ご主人様あああああ!!」


「っっご主人様!」


ぬお!?二人とも飛びついてきた!?避けるわけにはいかん!

あ、ちょっと待って絡みつかないで!助けて婆さん!

気合入れてやんな。甲斐性なし

ちょっとちげえぞ糞婆!

やめて!善意で絡みつかれるとか耐性も経験もないんだって!?そっち寝室!!


「ご主人様!大好きです!」


「…愛してます。」

組織辞典


特級冒険者:この大陸における最強の代名詞の一つ。冒険者ギルドに所属し、国家、または大陸の危機などに対処できる能力有と判断されれば選出される。通常の冒険者にはない、能力や特技を持ち何らかのスペシャリストであることが多い。


冒険者ギルド、及び国家からの非常事態宣言に対して参加義務を負うが、多額の報酬、"遺物"オークションへの参加権、緊急時における、王宮での会議への出席権など特権も多い。


しかしながら選出基準はそれだけであり、出身、人格、協調性、思考などはほぼ考慮されておらず、民間人を殺害しておらず、危機に対処できるならよい、と割り切られている。


「冒険者ってのは高位って呼ばれたらだいたい一流さ。特級は完全に別」

ある冒険者が後輩へ言った言葉




勇者:それぞれ国家に所属し、大体の場合は最高戦力が指名され、1国に1~4人ほど存在する。特級冒険者たちと違い、国家という組織の内部で活動できるか、人格、思想も考慮され、自国出身限定である。


戦闘力ではほぼ特級冒険者と変わりないが、国家の全面的な支援を得られるため、権威や、装備面等で特級冒険者を凌いでいる場合が多い。しかし、あくまで国家に所属しており、貴族や大商人達は必要なら特級冒険者を使うため、広範囲の人脈、有力者の面識では完全に劣っている。


「特級の強さ以外、正反対の奴がいたらそいつが勇者だ。」

ある冒険者が後輩へ言った言葉












































「ふふふふ。ええ、確かに貴方とは種族も寿命も違いますよ?でも、愛してしまったんだから仕方ないじゃないですか。それに、貴方もそうだからその指輪を付けてくれたんでしょ?ふふ。」

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