今日からよろしくお願いします!
剣の国 ジネット
「今日からよろしくお願いします!ご主人様!」
「よろしく…お願い…します…」
「あー、よろしくね?」
必要な家具を買ったあと、ついにこの男の家に来てしまった…。家具の方は、運んでほしいと人間に少しお願いすれば簡単に頷いた。ふん、簡単なものだ。帰り際に、この男を睨んでいたのは、なぜか癪に障ったが…。
しかし、この服だ!なぜこんなフリフリしたメイド服をルーは準備したのだ!?訓練の時に使用した地味な奴があっただろう!この街もこの街だ!なんでこんなものを売っている!!!
「それでお給金のことなんだけど相場調べてね、だいたいこのくらいでいい?」
「そんな!?ご主人様。私達お金には困ってません!」
「いやそれだけは勘弁して。マジで。ヒモってあだ名が追加されたら死んじゃうから。社会的にも。」
「でも…」
「ね?ちゃんと調べたんだしね?物知りのく、婆さんが技能手当もこんくらいだ、って見積もりだしてくれたんだし。お願い。男として俺のことを立てると思ってさ」
「…分かりました!その分たくさん頑張りますね!」
「程々にね?程々に」
ふん。分かっているではないか。この私達姉妹を雇うのに無料なんてありえん。前もって準備して切り出してきたのは評価してやる。というかルーよ、無料でやるつもりだったのか?…………それはいくらなんでもまだ…。
「ジネットの方もこれでいいかい?」
「…あ、ああ…」
「お姉ちゃん!」
「…はい」
「それじゃあ、改めてよろしくね?」
「はい!」
「…はい…」
メイド服め!恥ずかしすぎてさっきから顔もまともに見れん!どうしろというのだ!!
◆
sideルー
「それじゃあ、さっそくお仕事しますね!お掃除します!」
「あ、うんお願いね。…………やっぱ、男の掃除基準じゃダメか…」
なにか、ご主人様が俯いて呟いたみたいだけど。
それにしてもよかった。受け入れてもらえて。
思った通り、ご主人様なんだか寂しそうだったから、思い切って住み込みを提案したけど受け入れてもらえた。それに、メイド服着た姿に結構興奮しているみたい。やったね!やっぱり女の勘はバカにできない。
一番の問題だったお姉ちゃんたけど、これなら大丈夫だ。ご主人様に惚れ切っちゃって、まともに顔も見れてないし、話し方もぎこちない。お姉ちゃんこうなっちゃうんだ。
これなら少し時間が経てば、私がお姉ちゃんをご主人様のベッドへ連れて行ったら、どうとでもなる。本当は今すぐがいいけど、まだまずい。お姉ちゃんが倒れちゃう。機を待とう。ご主人様の反応を見るに、やっぱりメイド服着たままがいいよね。
よし!将来設計が見えたところでお掃除だ。
やっぱり男の人のひとり暮らしだ。掃除しがいがある。
「さあ、頑張ろうお姉ちゃん!」
他の人が増えた時のためにきちんと掃除しなきゃ。皆で幸せになろお姉ちゃん!
side ユーゴ
ついに二人がやってきてしまった。単なる一軒家にメイドが二人っておかしくね?妹ちゃんだけじゃなくて、姉ちゃんの方もすごい丁寧に掃除してくれてるし…。というか、どんどん我が家がきれいになっていく。これが女の視点か。婆さんのいた店の奥の方は、平気でクモの巣とか張ってたんだが。ああ、あの婆さんはカテゴリー婆だからな。しかも、該当は一人の。婆さんと言えばメイドの給料の伝手なんざ全くなかったから、あの後泣く泣く店に戻って、知恵を借りようとしたら、見積もりの紙を渡してきやがった。あの婆さん昔から思ってたがどうなってんだ?
いかん、現実逃避してる場合じゃなかった。
こっちとら、この年になっても、一つ屋根の下で女と生活するなんて、死んだ母ちゃんとだけだぞ?いや、こっちもカテゴリー母ちゃんだわ。いかんちょっとセンチに…。
落ち着け、こういう時はこっちに落っこちて初めて会った、クソッタレの神を思い出すんだ。死ね。ああいや、あの後すぐ俺が殺したわ。あの時は死にそうになってビビった上に、無我夢中だったが、今思えば朽ちかけた神なんざあんなもんだ。いかん、やっぱり混乱しているな。落ち着くんだ。
む、姉ちゃんのほうが俺の近くを掃除しにやってきたぞ。未だに顔真っ赤で、こっちを気にしてるけど分かるよ。そのフリフリ可愛いもんな。クールビューティーな姉ちゃんには恥ずかしいんだろう。だが言わせてほしい、すげえいい感じだよ。やっぱこのギャップだよギャップ。あ、また俯いた。大丈夫だ。俺が保証しよう。すげえイイよ。
ほんとにこの二人俺に惚れてくれてるの?昔の話だが婆さん結構話を盛るからな。出会ってばかりの若いときは、なんかある度に脅かされたせいで、ビビりまくって活動していた覚えがある。まあ、俺も婆さんも、俺の力がよく分かって無かったのもあるんだが。いや、むちゃんこ強くなった今でも、普通に事が起こったらヤバい案件はあったが、婆さん年取りすぎて、表現が分かりにくかったり古いんだよ。古典や古文の授業やってんじゃないんだぞ。なにが、竜を殺すための"遺物"には関わるな。死しか待ち受けていない、だ。そのよく分かって無い状態の俺でも爪楊枝みたいに折れたぞ。今じゃ何か起こったら、だいたい、頼んだよ。あいよ。で終わるからお互い成長したもんだ。
いかんまた現実逃避してた。
しかたない。俺も男だ。腹を括ろう。
あ、夕飯どうしよう。酒場というわけにもいかんでしょ。
掃除が終わったタイミングで晩飯のことを聞いたが、やっぱり二人ともここで食べるそうだ。そうなると家にある物じゃ足りない。というか基本、晩は酒場で過ごしてたからほぼ無い。そのせいで料理の腕はいまいち自信のない自分に代わって、二人が作ってくれるそうだ。悪いな行きつけの店の店主たち、カミさんたちよ。俺は自分の家で手料理だ。
二人とも付いて行くということなので、一緒に露店や商店が並ぶ通りに来たが失念していたことがあった。ジネットへの男共の視線がとんでもないのだ。そして、俺への視線はさらにすごい。お前らほんとに素人?ガチの殺し合いでもこんな視線浴びたことないんだけど。悪いが何故かうちのメイドさんなのだ。失せるがいい。というかジネットの視線は、俺への男共の視線よりも上を言っていた。殺人光線が出る一歩手前だ。というか多分出てる。男共は顔を青くして視線を逸らしながら退散していく。
ルーの方は…露店の女性と談笑しながら買い物をしている。やるな。いい主婦になるだろう。
あ、やべ。人が多かったから普通の気配に紛れて分からんかった。雑貨屋の息子と看板娘だ。ちとまずいか?
「あ、常連のお客さんと話題のダークエルフの人だよトーマス」
「ほんとだ。わ、すごい綺麗な人。目つきがすごいけど」
「ちょっと!」
「え?ああ。綺麗な人とは思ったけど、僕の好きな人はエリーだよ?」
「…もう!」
看板娘との結婚を許そう。成仏しろよ店主。というかそろそろ酒場のかき入れ時だろ。早く帰ってやれ。
「ご主人様!買い物終わりました!帰りましょう!」
周りの男共とバカップルに気を取られてると、ルーが買い物を終えたようだ。すまんな、役に立てなくて。
しかし、ご主人様と言われたとたん、今度は周りの奥様やご婦人からの視線からブリザードが飛び出した。貴方達、ほんとに素人?特級からアホみたいな氷山ぶつけられた時より寒いんだけど。これに対しては、甘んじて受け入れよう…。
しかし、この男達の反応で分かった。貴族が絡まんよう根回ししとくか。はっきり言って絡まれるとめんどくさい。この街の貴族がテイラー伯爵でよかった。無体なことはせんだろう。しかし、興味本位なのを部下が要らん気を回して呼ばれるのもまた、面倒だ。善は急げだ。帰ったらすぐ王城行きだな。世の中コネだね。
あ、お荷物運ばせてもらいます。ダメだって、俺が運ばないと今度はスーパーノヴァだからさ。流石に耐えきる自信がない。
sideジネット
ルーと共に台所で料理を作る。長く二人で暮して来たのだ。料理なぞ造作もない。ルーも鼻歌を歌いながら作っている。よかった、またこんな日を迎えられて。
あの男は、家へ帰るなり、転移魔具でどこかへ行ってしまった。夕飯までには絶対帰るからと言い残して。
しかし、市場の人間種共め、じろじろ私のことを見るな。腹立たしい。ふん。
む、帰ってきたか。あの男、普段は気配を絶ってないのだな。二階から降りてきた。
「ただいまー」
「お帰りなさいご主人様!」
「お、お帰りなさい…」
ええい!またこの恥ずかしい格好を見られた!顔なんて上げられない!
「何かあったんですか?」
「うん、昔の知人に借りを返せって取り立ててた」
「へえ。あ!もうすぐお夕飯出来ますよ!」
「あっぶね。間に合ってよかった」
「えへへ、準備しよお姉ちゃん!」
「あ、ああ」
何故か分からんが内容を聞いておくべきだと思った。いや、私にそんな事は関係ないはずだ!
「あ、あの何かあった…のでしょうか?」
ええい!なぜはっきり喋れない!
「うーん…そうさな。当事者だから知っといた方がいいか。」
「ご主人様?」
「この国の割と偉い手に、二人が迷惑するから、貴族辺りがちょっかい出さないように頼んでた。釘を刺されたら変な事するほど常識知らずはおらんでしょ。いたらちょっとトンずらして代わりにぶっとい杭を刺して貰うな」
「ご主人様!!」
ルーが感極まったように男に抱き着いた。
こ、この男黙ってそんな気を利かさんでも…
「ジネット大丈夫?顔の色がヤバいんだけど」
「お姉ちゃんは大丈夫です!!」
なぜお前が答える、ルーよ。
私は…私は一体…どうなってるんだ。
◆
物品図鑑
遺物:現在、遺物と言われる物の大半は、古代エルフ達が、魔物から世界樹を守るために作った物である、という学説が有力です。この学説を裏付けるかのように、遺物の多くは戦闘目的なものが多く、幾つかは画一的で、ある程度量産されていたと見られています。その他は、歴史上の偉人が希少な素材を元に作らせた物、高度な魔法により製造された物などが遺物として数えられています。分類上の共通点として、現在では製造法や素材が失われ再現できず、極めて高い性能を持ち、破壊が非常に困難な物。また、例外として、全く解析も出来ていない由来不明の物品も含まれます。
最も有名な遺物の一つは、祈りの国に存在する"通知のベル"で、これについては祈りの国が、神が残した奇跡であると大々的に宣伝しており有名で、適正がある者(祈りの国では聖女や巫女と呼ばれる)に予言や世界の危機を警告すると言われています。しかし、いつ頃から存在しているかもはっきりせず、この遺物に対する祈りの国の根拠も"死した神の一柱の遺骸"とだけ書かれた古文の一文であるため、由来については非常に不明慮です。
現状、遺物はその極めて高い戦闘への性能から国家や冒険者、一部好事家が強く求めており、大金で取引されています。しかし、大抵は既に誰かしらの手に渡っているか、その性能故、非常に厳重な対策が取られた遺跡に封印されており、市場に出回ることは滅多にありません。しかし、冒険者にとっては一攫千金の代名詞であり、危険を冒してでも探すものは後を絶ちません。
魔法の国 魔法学院での授業より
「貴殿か、どのような要件ですかな?」
「事前に連絡もせずに申し訳ありません。宰相閣下。今日はお願いがあってやって参りました」
「拝聴しましょう」
「テイラー伯爵が治めるリガの街。そこにダークエルフの姉妹が滞在していることをご存じでしょうか?」
「ええ、珍しいことゆえ聞いております。あなたとご関係が?」
「はい。実は彼女たちは私と生活しておりまして」
「…」
「見目麗しい女性でして、少々手を出してくる者がいないか心配しているのです」
「なるほど、話に聞くダークエルフの美しさが本当であれば、心配することは御尤もでしょう」
「ありがとうございます。そこでお願いなのですが、彼女たちが煩わしさを感じないよう何卒便宜を図って頂きたいのです」
「分かりました。他ならぬ貴殿の頼みだ。こちらで手を回しておきましょう」
「ありがとうございます宰相閣下。これで彼女たちも安心するでしょう」
「お話は以上ですかな?」
「はい、宰相閣下。ありがとうございました。自分はこれで失礼します。夜分に申し訳ありませんでした」
「ええ、では」
ーーー
「私だ。執務室に来てくれ」
ーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーーーーー
「宰相閣下、参上いたしました」
「入れ」
「失礼します」
「先程この部屋に"怪物"がやって来た」
「そんな…異常は感じていません…部下達からの報告も…転移も出来ないはずです」
「気を効かせたのだろうさ」
「そんなことが…」
「本題に入る。報告にあったダークエルフだが、"怪物"の関係者らしい。それで"お願い"されたが、貴族からちょっかいを出されたくないそうだ」
「はっ」
「人を出して釘を刺しまわれ。…そうだな、魔の国から来た要人で、何かあれば王宮を怒らすと、だ」
「はっ」
「テイラー伯爵本人についてはそう心配していない。が、倅の方はどうだ?」
「恐れありかと」
「こちらから言っても膝元にいるのだ、我慢が効かんかもしれんな…伯爵に言って釘をささせろ。街に人を入れ、万が一の時は反省するまで伯爵邸に閉じ込めておけ。私から手紙を書くからその時は伯爵に見せろ」
「はっ」
「よし、では取り掛かれ。もちろん最優先で、だ」
「はっ、直ちに取り組みます」
「敢えて言うが頼んだぞ」
「はっ、必ずや」
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