お前死んでたのかよ!

side ???


「おい!おーい!?起きろ!」


魔法使いの男を揺らすが全く起きない。軟弱な奴め!

仕方ない。こういう時は水だと相場は決まってる。家の中で出すのはダメだ。外へ出よう。

男を引きずりながら玄関に向かう。


「お、おい!」

気のせいか、幾分険の取れた声でこちらに女が声を掛けてくる。あるいは困惑か。


「お構いなくー」


手を振りながら外へ出ると、意外なことに森の傍で、一軒家がポツンとあるだけだった。ダークエルフは割と街中で生活していたはずだが。


もう夜も深けたな


ぼんやりと思いながら男を投げ出し、"倉庫"から出した縄で縛り上げ、次は水をそのまま垂れ流す。おっと、薬を忘れるところだった。


「が!はっ!はっ!は!」


目が覚めた魔法使いはたっぷり息を吸いながら慌てて辺りを見渡している。


「何が!?貴様一体!?」


「まあ、落ち着いてくれ。俺の名前はお節介焼きだ」


以前からちょこちょこ名乗っていたが、この際改名してしまおうか。


「なんだと!?」


自分が足で押さえつけているものだから、魔法使いはもぞもぞと動くだけになっているがこちらを睨みつけてくる。


「はーい。お口開けてくださいねー」


「何!?ぐむっ!?」


先程取り出した薬を無理やり男の口の中へねじ込む。これを流石に悲痛な顔をしていたお嬢さんに、飲ませるわけにはいかなかった。それに、反応を注意深く見るより、こっちのほうが楽だ。

お嬢さんと言えば、女は玄関の陰に隠れてこっちを伺っているな。


「今から言うことに正直に答えるんだ。さもなきゃとんでもない痛さを感じることになるぞ。お前さん、"杯"の一員でいいかい?」


「だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


何か言いそうになった男が辺り一面に響く悲痛な声を出す。


「ほら正直に答えろって。そうすりゃ解除される!」


「ぞう゛だあ゛あ゛!!ああああああああああ……」


正直に答えたから痛みはなくなったはずだが、それどころではないのだろう。


「ここにいる女の子に呪いを掛けたのもお前さん?」


「そ゛う゛だああ。やめてくれえええええ」

可哀そうなくらい顔中から液体を撒き散らしているが、こいつの魔力の濁り具合を感じるに、絶対に碌なことを今までしていないと確信しているため続けて質問する。


「お前さんたちの拠点にリュドヴィックはいるか?」


「それあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!い゛る゛!い゛る゛う゛う゛う゛う゛ううううう……」


ダメ元で聞いてみたが居るのか。今までを考えると地味な事をしていると思ったが、人がいないってのは辛いねえ。

転移魔具とガラス片の触媒を取り出す。


「さあ、お前さんの拠点を思い浮かべるんだ」


虚ろになってきた男に魔具を見せる。浮かび上がった映像には6人のローブを纏った連中が浮かび上がってきた。多分リュドヴィックの姿はない様だが、遠目で一回しか見てないからな…。


「これで全員か?」


「そうだああ。やめてくれええええええええ」


よし。運がいい。リュドヴィックが居ないのは気がかりだが、あのダークエルフ達に関することは根っこ事、終わらせることが出来そうだ。

出来れば計画も知りたかったが、この薬は問いにしか反応しない。細かく質問している間に連中が居なくなるのは困る。

では、終わらせよう。


「おい!」


おっと、別れの挨拶位するべきだった。


「お前は…お前は、本当に私達を助けるために…?だが、何故?」


「言ったろお節介焼きだって」

今日から自分の名前はお節介焼きだ。もう決めた。

転移魔具の起動を準備する。


「お嬢さん。妹さんを大事にな」


姉に隠れて顔を出している妹の方にも。


「お嬢ちゃん。姉ちゃんと仲良くな。」

ひょっとしたら自分よりも年上かもしれんが。

倒れている魔法使いを引っ掴み、転移魔具を起動する。


「お兄ちゃん。ありがとう!!」


「ふふ、じゃあな」


side ルー


「ふふ、じゃあな!」


あの人が転移で行ってしまった。お礼の言葉はちゃんと届いただろうか…。


「そんな…本当に……なにが…私は、私は、どうすれば…」


お姉ちゃんが呆然と座り込んでしまっている。

あの人と何があって私を助ける事になったのか分からない。でも、あの様子を見るに、本当に見返りなしで私達を助けてくれたんだ。

急に表れて、私を助けてくれて、急に去っていたあの人…。何処に行ったのかは分からない。でも、あのやり取りだと、多分あいつ等をやっつけに行ったんだ。

どうしたら…。どうしたら恩を……そうだ!!


「お姉ちゃん」


「あ、ルー。体は大丈夫なのか…?」


呆然としながらも、自分の体の事を心配してくれる姉に、尊敬の念を強くしながら自分の考えを話す。


「あのねお姉ちゃん!ルー考えたの!」


side ???


「ふふ、じゃあな」


景色が変わる。映像で見たどっかの地下らしき場所に転移出来た。掴んでいた魔法使いを投げる。


「ん?」


ヒュ パンッ

全部で7。

どいつもこいつも魔力が嫌に濁っていた。操られていたとかは無いだろう。

ご近所さんが居たら迷惑だからかなり力を抑えたが、そのせいで少々スプラッタな光景になってしまった。隣が事故物件と急な地震…どっちがよかっただろうか…。

変な気を回しながら部屋の奥を見ると、赤い髑髏が特徴的な杖があった。映像で見た時から気になっていたが、多分リュドヴィックが持っていた杖のはずだ。


杖だけ仰々しく飾られてるとかどういうこっちゃ。てか本人は?


そんな疑問を抱いていると、消し飛んだ魔法使い達の体から魔力が杖に流れ込んでいく。


やっぱり居るのか。何処だ


彼の代名詞たる、死体からの魔力吸収にリュドヴィックの存在を確信するも、やはり、姿が見えない。

武器になる杖だけでも破壊してしまおうとするも、突然、赤い髑髏の口が開き喋りだした。


「貴様!貴様!!」


おおっと


この声、聞き覚えがある。グゴ山に付いたときに聞こえたリュドヴィックの声だ。いや、懐かしい。


なんでまた、杖から?


おしゃべり機能もあったのだろうか。


「貴様のせいで!貴様のせいでえええ!」


興奮しすぎているのか、話が進まない。


「やあ、リュドヴィック?だよな。昔、遠目から姿と声を聞いただけだから、それ以外手配書とかの事しか知らんのよ」


「きさまあああああああああああああああ」

だめだこりゃ。


「なんでまた、そんな所から喋ってるんだ?お前さんどこ?」


「あああああああああ!!貴様のせいだ!貴様があそこにいなければ!!」


俺のせいだったのか…。


「貴様が居たせいでグゴのコントロールが外れたのだ!!そのせいで!そのせいで私はあああああ!!」


そこまで聞いてピンときた。グゴと対峙したとき、あの竜が最初に放った熱波を思い出したのだ。


「お前さん、ひょっとしてあの時死んでる?」


「あああああああああああああああああああああ!!!!」


なんてことだ。あの裏社会に名高き"杯"の盟主が、知らないうちに死んでいて、今や杖に取り付いているとは…。通りで最近聞かないはずだ。

竜にとって少し動いた程度の熱波だったろうが、体が蒸発でもしたのだろう。しぶとく悪霊化して杖に憑りついたのは流石、死霊魔法を極めたと言われるだけはあるか。しかし、


(杖残ってたのかよ。頑丈すぎるだろ。"遺物"か?)


「貴様のせいでええええええええ!ユーゴオオオオオオ!!!」


どう考えても冤罪だ。


「死ねえええ"化け物"おおおおおおおおお!!」

バギ

魔力を貯める動作をしたので、即座に杖を破壊する。あまり好きではない二つ名で呼ばれ、威力も少し過剰だった。

昔は煌びやかな二つ名に憧れていた時期もあったが、流石にもうそんな年ではない。しかし、すっかり裏で定着してしまったこの二つ名は、いくらなんでも酷い。これを名乗るくらいなら、今流行りのド派手な物のほうがずっといい。


「しまった。言うの忘れてたな。」

もはや破片となってしまった杖に向けて言おうとしていた言葉を呟く。


「ご愁傷様」



side ユーゴ


魔法の光で明るく照らされた剣の国の大通りを歩く。あの後、出口から出た場所はグゴ山であった。どうも、杖を移動できずあそこに拠点を構えていたらしい。適正でも必要だったのだろう。

それからのんびりと帰ることを決め、ぶらぶら歩いて帰って来たのだ。

何日か掛けて帰って来ると、ちょうど夜だったので、また馴染みの酒場にでも行こうかとしていた。

酒場の扉から相変わらず騒がしい声が漏れてくる。


「あ、お客さんいらっしゃーい。うちのこと忘れないでくださいよー」


「あいよー」


思わず笑いそうになるが、彼女の指に嵌まっている指輪を見てそれどころでは無くなる。慌ててカウンターにいる店主の姿を見ると、明らかにやつれていた。


なんてこった!

大通りで見かけた雑貨屋の息子が妙に浮かれてるとは思ったが、これか!ついでに、二人の年齢を思い出し、あんな年頃に先を越されたかと絶望しながら、店主の不憫さに涙した。恐らく厨房のカミさんと娘のタッグに敗北したのだろう。哀れな…。


「やあ、何か強いやつを」


「ああ…あんたか。待ってろ、最近とびっきり強い奴を買ったんだ…」

まるで生気がない。


「ああ…そうか。そういえば何か…面白い話はないかい?」

話題を変えよう。慎重に言葉を選ばなければ、間違っても変わった話などと言ったら心臓が止まって逝ってしまうだろう。いや、もう止まっててゾンビかな?


「ああ、あるぞ」

よかった。少し生気が戻ってきたぞ。本当に何か面白いことがあったんだろう。


「前に、あんたにダークエルフの話をしたよな?どうも本物だったらしくてな、よく街で見かけるようになったんだ。それも二人。おかげで街の男どもはえらい騒ぎさ。俺も見てな。ちっこい方は可愛らしいだけだったが、もう片方はとんでもねえ別嬪だ。ありゃあ女神さ、女神。」


そうか、厨房から死神の殺気が飛んでいるのに気が付かんとは、迂闊な。

現実逃避はよそう…。まさかダークエルフが人間種の国に堂々と来るとは。


「何しに来たんだろうな」


「そう、それであんたに聞きたいことがあったんだ。黒髪黒目の自称お節介焼きを探してるみたいなんだが、あんた何か関係あるのか?」


ある。この間からお節介焼きに改名してるんだ。

そう言えたらな…

というかこの気配は…


「お姉ちゃん!このお店だよきっと!早く!」


「あ、ああ…だがルー本当にあの呼び方をするのか…?」


「もう!お姉ちゃんがお名前も聞いてないのが悪いんだよ!」


「そ、それはそうなんだが…」


「入るよ!」


「あっ」


何気なしに開いた扉を見た人間全員が固まっている。

小さなほうはまだいい、まだ子供で元気一杯というような表情のダークエルフだ。いや、ダークエルフということを考えるとよくないのだが、問題は妙齢の女性の方だ。月の光で編んだような髪、艶めかしい肌、濡れたような唇、マントを羽織っているにもかかわらず分かる男の欲を詰め込んだような体、そして、どんな名画でも及ぶことはないであろう美貌。

固まってしまった者たちを訝しんで、同じ方を向いた誰もがまた、同じように固まってしまった。


題材、うっかりゴルゴンを見てしまった男たち。

いや、看板娘も固まってたか。しんとした酒場でいまだにユーゴは現実逃避気味だった。


「居たよお姉ちゃん!」


「!あ、ああ…」

速足でこちらに近づいてくる二人。


「やあ、お嬢さん方。元気そうで何より」


そう挨拶すると、方や満面の笑みで、片方は真っ赤にしながら伏せたか顔で、しかもやけくそ気味に口を開いた。


「私はルーっていいます!私達を助けてくれてありがとうございます!ご主人様!!」


「ジネットです…ありがとうございます!ご、ごご主人様!!!」


マントの下はなんとメイド服だった。

今日は店主と飲もう。いや、店主は今日死ぬんだったな。



組織図鑑

ゴブレット:人類種の暗黒期、モンスターに種の存続を脅かされていた時代に結成された組織。目的は人間種の存続及び生存圏の維持拡大。最終的には人間種の位階を物理的、霊的に上げることを目標にしていた。

過去の特級冒険者、"勇者"、には"杯"と関係を持ったものが複数おり、生存圏の拡大、国家の拡大に貢献している。

しかし、しだいに組織は変貌、自分達のみが位階を上げて、大陸に君臨するという妄想に取り付かれる。このころには大陸中で危険視され、闇組織として認識される。

「人間種を滅ばせるわけなはいかない!」 "杯"結成時における演説


人物事典

"月の短剣"ジネット:ダークエルフの美しい女性で、氏族どころかダークエルフ全体から、月の女神アレクシアの愛し子と言われている。しかし、それゆえ腫物を扱うのような対応をされることが多く、両親と死別してからは妹と魔の国の外れでひっそりと暮らしていた。

実際に加護があるのか、短剣術と闇魔法を極めており、暗殺者としての腕は大陸でも3指に入る。

普段はクールビューティーと言っていいが、唯一の肉親である妹を溺愛しており、我儘も言わないため、彼女の願いを出来るだけ叶えようとする傾向がある。

ー"短剣"の銘は愛と死ー


"純真"ルー:人間種の換算ではまだ少女のダークエルフで、姉のジネットを敬愛している元気娘。

幼い時から姉の影響で共に腫物を扱う対応をされており、そのせいか考え方が少し………

普段は元気一杯の少女だが、姉を道具にする"杯"の姦計のため呪いを受け、どんどん衰弱していき、姉に対する申し訳なさを感じていた。しかし、命は助かり現在爆進中。

「きっと増えるだろうけどあの人なら大丈夫、女の勘。恩を返す。私達も幸せになる。誰にも邪魔はさせない。絶対に。」

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