赤川次郎アーリーデイズ100完全版(仮)

さかえたかし

1977年その1 死者の学園祭

書誌データ…1977年ソノラマ文庫

      1983年角川文庫

      2009年角川文庫(赤川次郎ベストセレクション12)


 赤川次郎処女長編は何か?

 実際は「マリオネットの罠」の方が先に書きあがっていたそうだが、発売されたのはこちらが先なので、本稿ではこちらを赤川次郎のデビュー作とさせていただく。

 ストーリーは主人公・結城真知子が転校先の手塚学園でクラスメイトが次々に怪死する事件に遭遇する。好奇心旺盛な真知子は一連の事件の謎に挑む…と言う展開。

読んでみると多くの読者は、登場する少年少女たちの言葉使いが古いと思うのではないだろうか。「ライトノベル」いう言葉もなかった頃の少年向けレーベルの小説なのだからしょうがないと言えばそこまでだが、赤川次郎作品の多くが時代を超えた会話や文章を持ち合わせている事を考えると、未来のベストセラー作家といえどもデビュー作ではそこまで本領を発揮できなかったのか。

 内容も本格ミステリではなく、角川文庫版の解説で郷原宏が語る通り青春冒険小説というのが正しいと思う。

 ただし、冒険小説と考えれば相当なワクワクと驚きをくれる小説。作中に何度かお手本のように驚きポイントがちりばめられている。中盤にはストーリーには直接関係ないけれど作中人物に関する驚きが仕込まれていてほのぼのと笑える。クリスティの「NかMか」の序盤のあれを連想し、この後優れたクリスティフォロワーとしての才を表していく作者を予感させる。

 ラストの展開はかなり唐突だが、この場合は唐突だからいいのだろう。主人公真知子の視点で語られていたそれまでのほのぼのした世界観が、ある事実をきっかけに不穏になって行き、そして怒涛の「死者の学園祭」へとなだれ込む。

 結末のショックは少年向けと考えれば苦いなどというレベルではない。若竹七海「クール・キャンディー」や宮部みゆき「夢にも思わない」に続く源流はここにある。もっといえば赤川次郎の最大の特徴でもある「作中キャラに容赦しない」作風がすでに萌芽していたのだ。

 「死者の学園祭」はまさに”子供のために書かれたエンタテインメント”である。次々とクラスメイトたちが死ぬ展開の怖さ、最後の真相のショック。ミステリに対してあまりすれてない頃に読めばさぞワクワクゾクゾクできるだろう。その意味で赤川次郎はデビュー長編にしてちゃんとレーベルの需要に応えたのだ。

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