例えば夜の帰り道

名が待つ

浅はか縁問答

「誰か僕の渇望を満たしてくれるものはいないか」


「おや、おセンチかね?」


「ふん。そうやってバカにすればいいさ」


「どこぞの塾講に言われなかったか? 孤独に打ち勝てってな。ハハ」


「うるさいうるさい。孤独が辛いんじゃない。ただ、ただどうしようもなく自分がこの世で一人に思えてくるんだ。寂しいんだ。この苦しみは誰にも分かりっこない」


「なんだってたんだ。君には家族も恋人も友達もいるだろうに。それに孤独の苦しみにってのにはお前の言う『この世で一人に思える』ってのも含まれるんじゃないのか?」


「……確かに孤独に含まれるのかもしれない。でも、でもそんな弱っちい言葉で片付けるなよ! まるで僕が弱いみた


「弱いんだよ。お前は弱いんだ。孤独に耐えられないほど心が脆弱なんだ」


「……」


「お前の孤独を感じる心は承認欲求からきているんだ。周りを見てみろ。本当にお前は孤独なのか? 必要とされていないのか? お前の名を呼ぶ声が聞こえないのか? お前はそれに気づいていない。もしかしたら耳を塞いですらいるのかもしれない。それは強欲だ。際限なく欲し続けるのは強欲だ。今ある幸福に目を凝らさない勘違い馬鹿野郎だ。身の程をしれ!」


「強欲? 強欲、なんて汚らわしい言葉だ。しかし僕はいつの間にかそんな身に落ちてしまっていたのか。汚れた言葉の似合う汚れた身だ。ああもうどうしようもない。僕は大変打ちひしがれている。汚い心の持ち主を誰が救ってくれようか。誰が触れようとするだろうか。ああもう駄目だ駄目だ。そもそも誰かに価値をつけてもらう考えが過ちだったのだ。己の価値を決定づけられぬほど弱い者に誰が見向きするだろうか。自分で自分を価値付けることは当たり前なのだ。それが本来の人の営みなのだ。僕はこんなにも弱く汚れている。そんなものが生きれる場所はもう世界のどこにもない」


「ならどうするってんだよ」


「ああいよいよ決心がついたんだ。一歩踏み出す時なんだよ」


「来世は何を願う?」


「願わくば健康な精神」


「おーけー。じゃあそこの縁に立ちな。いっちょ死へのdiveだ」


「……悪魔的だな、ネーミングセンス」

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例えば夜の帰り道 名が待つ @takumiron

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