第2話 智明の最大の後悔(編集済)

「お前マジにぶち殺すぞ。この反逆者」


「何でだよ.....俺は被害者だぞ.....お前」


「喧しいわこのリア充。この裏切り者。クソニート」


クソニートは無いだろ。

着替えた次の体育のストレッチ中。

智明(彼女無し)は俺に対してその様に告げながら背中を押しつつ俺を眉を顰めて睨んでくる.....いやいやと言うか。


冗談じゃ無いぞ俺は被害者なんだぞ本気で。

周りの奴らも、何時アイツを殺す?、という感じだが。

身勝手がすぎるだろ。

俺は被害者だ。

あくまで、である。


「俺は嫌だって言ってんだよ。なのにアイツが勝手に.....」


「ハァ?(威圧)美少女と一緒にデートだぞ?殺すぞ」


「.....ハァ.....ったく.....面倒臭い.....」


何でこんな目に.....。

絶対的に被害者だぞ俺は。

俺のそこそこ幸せな学校ライフが片っ端からぶっ壊されていく。


何と言うかこれは非常に困るんだが.....。

取り合えず何とかして七水に諦めてもらうにはどうしたら良いのだろうか。

そう考えていると俺の体を横に曲げた智明が俺に対して言葉を発した。


「で?デートプランはどうするんだよ」


「俺はデートに行かないぞ.....何でデートなんか」


「オイ.....」


「.....アイツが無理矢理デートに誘って来たんだぞ。行く訳が無いだろう」


よし、なら分かった、じゃあ俺が行く。

と智明は嬉しそうに決意した様に.....ってオイ。

そして俺の背中を無理矢理、押して.....イテェな!?


思いながら涙目で智明をキッと睨む。

何するんだこの野郎。

今のスゲェ痛かったぞ。

勘弁してくれ。


「ふふーん。まあこれぐらいは当たり前だよな?な?友人」


「この.....覚えてろ」


涙目で智明を見る。

俺の背中はそんなに曲げれる程に柔く無い。

無理に曲げるんじゃねーよ。

思いながら.....居ると。

まぁ冗談は置いて、と俺の背中を人差し指で押して智明は真剣な顔で俺を見てきた。


「とりま、デートぐらいは行ってやれ。なんせ可哀想だからな」


「.....お前.....」


「俺からの願いだ。行ってやれ。.....あくまで後悔の無い様にな」


「.....それはお前の幼馴染の事か。智明」


まぁそりゃそうだな。

と智明はケタケタ言いながら苦笑いを浮かべる。

それからなんとも言えない顔をした。

俺は少しだけ複雑な顔をする。


実は智明は幼馴染が居る.....じゃ無い、居た、のだ。

だけど智明が全力の告白を冗談半分に断ったせいでそのまま幼馴染に会えなくなってしまったのだ。

智明の幼馴染はそのまま両親の都合でアメリカに転学した。


電話というやり方も有るがそれはお金が掛かる為。

手紙のやり取りという方法を取ろうとしたが手紙のやり取りにも遠すぎてお金が掛かる為にそのまま音信不通になってしまったのだ。

智明はその事を心の底から酷く後悔している。

そして思う顔で自嘲気味に笑った。


「今思えば最低だったよ。女の子の恥ずかしい全力の告白だったのにな。それを軽く聞いて。.....真面目に当時は馬鹿だった。それ相応に傷付いただろうしな。ハハハ」


「.....でもお前。当時は恋愛心とは思えなかったんだろ。それはお前が悪く無いと思うんだが」


「まあ確かにそうだな。でも恋愛心だからとかいう問題じゃ無い。人が真面目に告白しているのによ。あんなからかった巫山戯た返事。マジに当時の俺を殴りたい気分だし.....うん。今となっちゃ本当に恥ずかしい。だからまあ.....お前には後悔してほしく無いから。例えばそれが実らない恋でも、な。青春は本気でエンジョイするべきだ」


智明は和かに笑みを浮かべる。

そうしていると.....先生から集合の合図が有った。

俺はもう一度、複雑な顔をしながら.....智明を見る。


それから.....先生の元に集合した。

智明の言葉を受けよう。

そう思いながら、だ。



智明と幼馴染はとても仲が良かった。

俺と友人になる前の話だけど。

噂ではとても可愛い幼馴染みだったそうだ。

だけどさっき言った理由で智明に告白したが受け取ってもらえず、幼馴染はアメリカにそのまま引っ越して行ったそうだ。


智明の幼馴染の居る場所はアメリカだがアメリカの何処に居るかは分からないらしいそうだ。

幼かった為に智明は、まあ二度は会えないだろう、と後悔気味に語る。

俺はその事を共に生きてきた何年間。

心配しながら見ていた。


俺にとっては大切な女性ってのが何なのか分からない。

だけど現実、智明は本気で落ち込んでいる。

この何年間かずっと、だ。


ジジイになってもそれがずっと心残りなのはそれかもな、とも言うぐらいに、あの時俺は.....、と後悔しながら。

何時も智明はその事になると自分を嘲る様に笑う。


もしもあの時の鞠さん全力の告白を受け入れれば何かが変わったのだろうか、と。

その事も有り智明は二度と他人に同じ後悔をして欲しくない。

俺はそんな智明の背中をその時に、押してやりたかった、って心から思う。

智明が.....目の前の光に歩ける様に、だ。

だけど叶わない。


俺はそんな智明に説得された為に.....一年生の居る三階へ放課後、智明に断りを入れて向かってみた。

それから.....七水を探していると。

背後からその手を掴まれた。

満面の笑みでニコニコしている.....七水に、だ。


「せーんぱい♡どうしたんですか?私に会いに来てくれたんですか?」


「そうだな。お前に会いに来た。丁度良かった」


「え?そうなんですか?.....あ、もしかして告白しに?あはは」


「違うわ。アホ」


何だー、残念。

と少しだけ不満げに頬を膨らませる七水。

俺はその姿を見ながら.....目線を横にずらす。

そして.....頬を掻きながら手を差し出した。


「.....でもな。お前のデートは付き合うと言いに来た」


「..........え?.....え.....それって本当.....?」


まさかの言葉だったのだろう。

目を丸くする七水。

冗談で済ませる気だったのかコイツは?


俺は苦笑しながら.....七水を見る。

七水は涙を浮かべてきた。

いやいや、大げさな。


「ちょうど俺の友人に背中を押されたからな。だから行くよ。何処に行きたい」


「あはは.....あはは。.....優しいですね。.....やっぱり。冗談で言ったのに.....」


「優しいかどうかは分からないけどな」


俺は.....苦笑する。

って言うかさっきから一年坊主の男子の目線が痛いんだが。

俺は盛大に溜息を吐きながら、七水、と呟く。

そして続けて言葉を発した。


「.....離れて良いか。この場所から。かなり視線が痛い」


「あ、そうですね。.....いっその事、帰りませんか?このまま一緒に」


「そう言えばお前何処に住んでいるんだ?」


「.....え?.....あ。えっと.....私の家ですか?それは.....」


少しだけ言い辛そうな感じで俺を見てくる。

何だ一体.....と思って隠している鞄を見る。

よく見ると.....それは正式な学生鞄じゃ無い。

学生鞄に似ている様に作られた.....手作り鞄だ。

俺は?!と思いながら.....七水を直ぐに見る。


「.....お前.....もしかして.....家が貧乏なのか?聞いて悪いけど」


「.....そ、そうですね.....はい.....恥ずかしいです」


「.....」


周りが少しだけ小馬鹿にする目になった。

俺は少しだけ複雑な目をしながら.....頭に手を添える。

そして.....フラッシュバック。

親父に殴られた際に.....出来た頭の傷が疼く。

俺は.....目を閉じて開けた。


「七水。.....それは隠す事じゃ無い」


「.....え?.....それって」


「.....貧乏なりにお前は頑張っているんだろ?.....それは隠すんじゃ無い。.....誇って良いと思うぞ。お前は本当に頑張り屋だったからな。昔から」


「.....先輩.....」


そうですね。

やっぱり先輩。

その様に言うから大好きです、と笑顔を見せた七水。

様子を見ながらその手を握ってから俺は歩き出す。


この世界には.....色々有るな。


その様に思いながら、だ。

有難う、智明、とも思った。

取り敢えずは.....デートに行こう。

話はそれから、だ。

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