第7話 【救世主】
現在の俺の持ちうる限りの最速かつ回避不可能なその一撃ですらこの鋼の魔人には通らない。
「フム珍妙ナリ。何故【賢者】【封印神】ノ貴公ガソノ高ミ二居ル?」
「ならその一撃を無傷で受けきったお前は何者なんだよ!」
高く跳躍し魔人に迫る。その途中で納刀して僅か3mまでの間で鍔を軽く指で弾き火花が現れる。
「奇妙ナ刀。モシヤ貴公がアノ
「如何かな?」
刹那の交差の間でそんなやり取りをしつつも着実に仕留めるために動く。そして首元を過ぎたころに抜刀を始める。高速で抜刀と納刀を繰り返すことで発動する技。
「抜刀術‘桜花’」
天井に着地して納刀すると青白い光がまるで桜のように咲き誇る。俺の師匠が授けてくれた【抜刀神】の奥儀。この刀を授かった時から数々の強敵を切り伏せてきた俺の手札の一角。それは――。
「多芸ナ児戯。サレド【勇者】デナイ貴公ニハ十二分」
多少の傷は与え致命傷ではないだろう。そして俺は今、魔人に首を掴まれている。刀を握れるほどの力しかなく足が地につかない。
「安ラカニ、逝ケ」
バルコニー目掛け投げ下される。
「≪風よ≫」
エリスシア皇女の魔法で彼女の横に降り立つ。
「ナッ!【
「新一さん、それは‘魔族’です!」
「イカニモ。今代【魔帝】ガ
「なっ!」
何故その名前がこの世界にある?
あの一族は確実に終わったはずだ。あの時確実に。
「嘘ですよね…。【勇者】の召喚儀は【魔帝】出現前に行われるはず…」
「コノ場ニ居ル俺ヲ否定スルナラバナ」
せめてあの剣があれば…。
「【魔帝】ハ強イゾ【勇者】?」
「知ってる」
だからこそ俺はアイツらを尊敬している。世界への叛逆に隠した如何しようも無い理不尽にすら抗おうとしたアイツらを。
「ただ…【勇者】も強いぞ?」
俺の知る限りでは盾としては強力無慈悲。普段の優しそうな風貌とは打って変わる荒々しい技を使いこなす才能。
「《
現状見せれる限りでの最高峰の職構成を用いて刀でなく剣を構える。
「ホウ。《武魔鋼将》相手ニ剣ヲ構エルノカ」
「まあ。コッチの方が色々と便利だし」
「そんな…お辞め下さい新一さん!」
「ホウ。狙イヲ知ッテルノカ」
「気にすんなエリスシアさま」
もしコイツがあの一族ならあの剣と今の剣以外では立ち打ちすら叶わないはずだ。
「手始めだ。消えろ」
蒼き聖なる雷が散り一つ残さぬ獄炎が出現し蒼き聖火と化し放たれる。
対【魔帝】用の戦術級魔術である。
「我ガ体ヲ穿ツナド不可能ナリ」
ただ確実なまでに予想した通りに俺の一撃はその心臓部に吸い込まれるも無傷である。
「知ってる」
アイツらにはほぼ何も効かない事は覚えて居る。しかも切り札があるわけでもない。あの時とは何もかもが違う。戦闘経験も戦略性も絶えず成長せざる負えない状況があった。
だからこそずっと錬っていた。
「《グランドクロス》《ナイトメアブロー》」
「【天騎士】に【堕騎士】の奥儀」
「《クロスブロー》」
「【騎士王】ダト。【抜刀神】【封印神】【騎士王】【天騎士】【堕騎士】…五ツノ超級職ツマリハ上級職【聖騎士】【闇騎士】【大騎士】中級職【騎士】【司祭】【呪術士】カ?オカシイナ職数ガアワナイゾ?」
「違うぞ?」
確かに職の数の正当性は取れない。この世界で特殊超級職とも謳われる【勇者】及び【英雄】でも無い限りは確実に辿り着ける訳がない…。
ただ一つの職を除いては。
「【救世主】。それが俺の持つ特殊超級職の1つだ」
「【救世主】カ。聞イタ事モナイ」
「だろうな」
何せ普通なら絶対になれないから。寧ろ成れたヤツの精神がイカれているかソレを引き寄せやすい体質なのかも知れない。その分、職の力は全てを凌駕する。
「《聖別の銀光》《死別の黒幕》」
剣に聖なる銀光と死の黒幕が纏わり渦を巻く。
「《騎士の忠誠》」
そしてその上を一条の光が煌めく。
「《猛き雷神よ・その怒りを奮い・遍く全て穿て》」
その詠唱と共に攻撃を仕掛け極太の雷を背後から打ち出し切先三寸に先程の全てを集中させ袈裟懸けを放つ。
「並行詠唱!しかも【魔術】…」
「貴公何者ダ?職モ技術モ既ニ超一流トイウ域ヲ超エテイル」
「まあ。事情があるんだけど」
そんな刹那の会話の間にも雷を避けられる。まるで魔力そのものを読んでいるかのような回避である。
「愚カナリ」
「《インパクト・カウンター》」
そんな程度折り込み済みだが。
極太の雷に付随する形で3つの付与を打ち出す。それは通常の数倍にも増幅されておりゴーンを吹き飛ばす。
「《我は統べたる者・我は全てを終わらせる者・原始と終焉を知る者》」
体にある莫大な魔力を練り上げその一撃を作り上げる。こればかりは並行詠唱すらできない。
「《全ての魔とともに・還元されたれ幻素よ》」
「貴公ソレハ…マサカ!」
「《追放し・消え失せよ》」
黒魔改 廃頽の光天
光に触れるとなんであろうとも侵食していき始まりと終わりを齎す。
その光は彼の心臓を穿った。
「…見事ナリ。分体トハ言エドモ我ヲ滅スルトハ」
「何がだよ」
俺がかなりの量の職しかも超級職の複数保持及び特殊超級職【救世主】であることが割れている。
「タダ全テガ軽イ。マサカ紛イ物カ?」
「似たようなものだ」
「貴公ニ敬意ヲ表シ一ツ開示シヨウ。既ニ【魔帝】ハ復活シテイル」
「…」
「嘘でしょ…ソレにアレを直接食らって生きているの?」
「【死兵】か…」
死んでも頭部さえ失われければ既定の時間動ける《デス・コマンド》が存在する。この魔人はソレを職選んでいるのだろう。
「ソウダ。デハナ」
そう締めくくると彼はそのままガックリと膝をつき倒れる。
そしてそのまま数分しても起き上がる気配もない。…というかこの周囲に人の気配がエリスシア皇女のものしかない。
「大丈夫ですか?」
「まあな。にしてもアイツ…」
なんでこんなピンポイントで此処に来たんだ。
「それと貴方隠蔽してますよね。自分の職?」
「まあ」
隠さないと死ぬほど拙いから。
「多分卒倒するぞ?」
此処に来る前に聞こえたアレが正しいのならば確実なほどに。多分もう既にこの世界を根本的に変えてしまうほどに。
「ええ。それでも」
「じゃあ…話すぞ…」
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