第42話
いつでも遠くにいても話し合える。
俺は大槍と言う最高の友達と握手した。
※
「じゃあ、俺志穂ちゃんと少し話してから、階段降りる。そこで待っててほしいじゃんか」
「ああ、わかった」
そう言って大槍は椅子から立ち上がり、俺に背中を見せて歩いた。
その背中が小さく見えた。
何か言おうかと思ったが、言うのはいけないような気がした。
大槍はそのままドアの方に行き、志穂と何かを話して階段を降りた。
俺は空を見上げて、こう呟いた。
「必ず優勝してやる。だから安心しろ、大槍。お前はこの俺の一番大事な友達だ」
そう言って、静かに空を眺めていたら、いつからいたのか志穂が来ていて、椅子に座った。
「大槍君の為にも頑張ろう。沖田君」
「当たり前だよ。まかせとけ」
昼休みが終わるチャイムが鳴って、俺達は屋上から教室に戻った。
大槍とは話さずに、俺と志穂は熊倉さんの家に向かった。
※
いよいよ全国大会の日を迎えた。
昨日まで熊倉さんと遅くまで対戦し、感覚をつかみながら、その3日前にアドーアーズに行って店長らしきあの店員の人から場所が書かれた選手カードを貰った。
そして大会が始まる2日前の昼休みにスタッフに電話して、詳しい場所を聞いた。
今日は学校があるが、病欠ということで母さんをだました。
玄関までいつものようにこっそりと行くと、声が聞こえた。
「あんた、行くのかい?」
「えっ?」
後ろを見ると母さんがいた。
まずい、ここでバレたら怒られてカルロとの決着がつかずに終わってしまう。
どうする?
今更病気が治ったから学校に行くと言っても、私服だし。
「前々から気づいていたよ。あんたがゲームに夢中になっているのを」
「えっ? なんで?」
なんで知っているのか言う前に母さんはこう言った。
「あんたが病欠だとか、こっそり玄関に行くのを後ろで見てたりしてたよ」
ああ、なるほど。
かなり前の、そう熊倉さんの挑戦状の時のあの後ろの気配は母さんのものだったのか。
前々から知っていたんだな。
もうこれで終わりかと思うと、あっけなかった。
「さっきタクシー呼んだから待ってな」
「へ?」
「全国大会に行くんだろ?」
「なんでそのこと知っているの?」
「あんたがよく行くアドアーズってゲームセンターで働いているお店の人はね。私の高校の頃の同級生なんだよ。昨日電話で聞いたよ」
「マジかよ」
嘘でしょ?
世の中狭すぎだろ。
母さんの同級生って、たぶん地域大会とかカードくれたあの店長っぽい人だよな?
こんなご都合主義ってあるか?
そんな俺の気持ちとは関係なく、母さんは話を続ける。
「あんたが昔からゲームに夢中だったことや、ゲームセンターに行っていたことは知っていたよ」
「うん」
「地域大会の時にね。あんた優勝したって聞いてね。その後しばらくしてから、志穂ちゃんが休みの日に家に来て、あたしの前で頭を下げて、頼まれたんだよ」
「志穂が?」
俺のいない時に何を頼んだのだろう?
「こう言ったのさ。『私のせいで沖田君がゲームに夢中になったかもしれない。その先には何もないと思うかもしれない。でも一つのことに本気になった沖田君が好きだから、私はそんな彼と一緒にいたいんです。進学までさせます、ちゃんと私が勉強を教えていきますから沖田君をゲームの世界に行かせてくださいっ!』と言ったんだよ」
「そんなことが……志穂、お前は……そこまでしてくれてたのか」
そこまでゲームをする俺のことを真剣に考えていたのか。
今までは顔に見せないで、そんなことを頼んだことを想像するとなんだか申し訳ない気分になった。
「あんたを産んだ時にね。あたしの口の中に何かの光がサッと飛び込んだ」
「えっ? 突然何だよ? 光が飛び込んだ?」
「いいから聞きな。そろそろタクシー来るから、ほれ一万円ありゃ足りるだろ?」
「あ、ああ。ありがとう」
俺は母さんから戸惑いながらも一万円を貰った。
「その光が飛び込んだ時にね。この子は何か一つを成し遂げる子だと思ったよ。あんた勉強は嫌いだろ?」
「ああ、大っ嫌いだ」
母さんは俺を見て笑った。
そしてこう言った。
「そうだろうね。けどね、人生何をやるにしても結局は勉強なんだよ。あんたは人生であんたなりの何かを見つけたんだよ。その何かを見つけたんだろ? だったら諦めずにそれを手に入れて頑張るんだよ」
この時ばかりは母さんがたくましく見えた。
いつもの母さんだけど、そうじゃない優しさみたいなものがあった。
「ほら、タクシー来たよ。お父さんはあたしが説得するから、あんたは今日一日頑張んな!」
タクシーに乗る前に俺は玄関前で母さんに頭を下げた。
「うん。ありがとう母さん。俺行ってくるよ!」
そう言ってタクシーに乗った。
「どこまで行きますか?」
運転手の人が聞いたので、俺は大会の住所が書かれたカードを渡した。
「ここに書いてある住所までお願いします」
「はいっ! 一時間で着きますからゆっくりしてくださいね」
そう言って俺の乗ったタクシーが動いた。
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