第27話
真柴のキャラクターが起き上がり時に、即座に遠距離用の弾撃ちの必殺技を繰り出す。
だが俺は冷静にブロッキングで受け流す。
そして次の行動を読んだ。
(次に真柴はジャンプしてくると思わせて、ダッシュで接近して必殺技を出すはずだ)
真柴のキャラクターが予想通りダッシュで近づいてきたが、俺は必殺技をピアノでも打つように正確に入力し、ダメージを与えて真柴のキャラがダウンした。
そして起き上がる真柴のキャラににとどめと言わんばかりに素早く弱パンチから強キック、必殺技のアッパーで終わる3段コンボを入力して、真柴のキャラクターに追加ダメージを浴びせた。
それが終わると真柴のキャラクターの体力が0になり、キャラクターがダウンする。
「なん……だと……!?」
真柴の驚く声が聞こえた。
このラウンドも俺が勝つ。
結果は2連勝で終わった。
「はい。一回戦の勝者は苺大将選手です。おめでとうございます。次の方どうぞー」
店員の人がマイクでそう言った。
普通大会って熊倉さんの決勝戦の映像とかでも実況とかしてたし、こういう地域大会でもするはずなんだけど、ここの店はしないんだな。
変わってんな。
まぁ、別にいいか。
とりあえず俺は全国50位に通じるだけの実力があることを実感できた。
実力が通じることに小さな感動を覚えていた。
その後だった。
椅子から立ち上がり、ギャラリーのいる方向に振り向いた時にそれは起きた。
「いやー、むっちゃ強いです!」
「俺もあんな風になりたいっす!」
「最高でした!」
「あのっ! 次の次に始まる俺の試合の為に野試合で勉強させてください!」
「最後のコンボとか命中させた時の超必殺技アルティメットの入力の早さ凄かったです! ヤバかったです!」
「ゲームの掲示板で知ったんですが、アドアーズで平日無敗の苺大将さんですよね? 実力噂以上でした。素晴らしかったです!」
「あのキャラ使ってあんなに仕上がっている人初めて見ました! あの戦い方忘れないです!」
「すげーカッコよかったです!」
「絶対優勝して全国行って世界一になってください! 俺応援してるっす!」
それは俺に向けての大きな拍手と賞賛の声だった。
そう、全て俺に向けての憧れとか尊敬などや何かに認められた言葉だと思った。。
初めて、初めて人に自力でやってきたことが認められた気がした。
あの『遊び』だったものが『本気』になりそうな変化。
その変化で、俺は真柴の試合の最後に『本気』になっていた(?)ことに改めて気づいた気がした。
もしかしたらまだ『本気』ではないかもしれないけど、それに近いものを感じた。
その証拠に感情が暴走しそうで震えていた。
その場で嬉しくもあり、あふれ出る何かの感情が爆発しそうで泣きそうにもなったが堪えた。
認められた。
勉強もスポーツもダメな俺が、社会のはみ出し者かもしれない俺が。
認められた。
嬉しい、嬉しい、嬉しくて泣きそうだ。
叫びそうだ。
認められたんだ。
無駄じゃなかったんだ。
学校で浮いていて、どこかで差別されて孤立さえしているようにも中学のあたりから思っていた。
でも違った。
認められたんだ。
今の気分は感動なんて言葉が陳腐に思える。
感動を越えた何かの感情だった。
俺をそうさせた格闘ゲームの魅力。
今はそういうのに取り込まれているのかもしれない。
余韻に浸っていると、真柴と対戦していた時のあの声を思い出した。
なんとなくだが、真柴の2ラウンド目の最後のあたりの読み合いで何かが一瞬だけ通過した気がする。
あれはなんだったのだろう?
あの時の『声』は?
俺はドラッグなんてやってないが、確かに聞こえた。
誰かが……見えない誰か……まるで俺自身がそう呟いたかのような一瞬の言葉だった。
やっぱり何かを格闘ゲームは持っている!
もしかすると『遊び』だったものが『本気』になりそうな変化へのさらなる本当の答えの一つかもしれない。
続けていけば、また体験できるはずだ。
まだ先端の部分だけかもしれないが、その先を戦いながら体験していきたい。
全国大会に出場すれば、格闘ゲームの魅力の答えにたどり着けると俺は信じ始めていた。
そしてそこにはカルロや熊倉さんなどが早く来いと言わんばかりに全国で世界で待っているようにも思えた。
答えはその先にあるのかもしれない。
永遠に見つからない気もするが、探し続けよう。
この格闘ゲームを続けて行って、探そう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます