第13話

 アーケードコントローラーを持って、レジに移動して7000円と消費税を払う。


 残ったおこずかいは2000円ちょっとだ。


 店員が袋に入れてアーケードコントローラーを渡す。


 買い物した後は袋を持ったまま、人ごみの中でアドアーズのゲームセンターに入っていった。


 あそこはインターネットの掲示板で格闘ゲーマーの聖地とか言われている。


 大会とかも週に1回やっている。


 対戦の大会動画もインターネットの動画サイトで上げられる。


 俺は大会に参加するのはいつも水曜日昼頃なので、その時間帯は学校の授業を受けているからずっと不参加だった。


 だが負けなしだという自信があるし、参加してもどうせ俺の勝ちで終わると思っていた。


 なので配信される動画も見ていない。


 弱い奴同士の対戦なんて参考にならないと考えているからだ。


 今は10時でそろそろゼルダが来る時間だろう。


 いつもは友達の志穂や大槍とかと放課後にたまに一緒にゲームセンターに行くが、一人で行くことも珍しくはなかった。


 中学時代からアドアーズに一人で通っていた。


 友達も中学時代にはいるにはいたが、ゲームセンターに誘ったことは一度もなかった。


 卒業したら連絡もないので、友達って言うのは怪しい気もした。


 たぶん中学の友達なんて、いたようでいなかったんだろう。


 気分が暗くなるから、考えるのは止めとこう。


 一人だけで行くと、独特の熱気と雰囲気を毎回感じさせるゲームセンターに入った。


 クレーンゲームとプリクラのコーナーにある地下の階段に降りていくスーツを着た黒髪のセミストレートの女性を見つけた。


 同じように下りると、見飽きたが色んなゲームの筐体が野球選手の整列のように綺麗に並んでいる。


 そこで格闘ゲームに熱中している俺と同じようにサボった学生や社会人が筐体に座ってゲームをしている。


 この気持ちは何だろう?


 いつもゲームセンターに来ると、熱気と興奮と轟音と面白いという期待みたいな感情が出てくる。


 やっぱり一人で行くと毎回こういう気持ちを感じるんだよな。


 そしてこの中で、俺が格闘ゲームが一番強いというプライドが生まれる。


 スマホを開くと10時ちょうどになった。


 先ほどの女性がウルフォ4の筐体の前にある椅子に座って、カードを差し込んで100円を入れてゲームを始めた。


 ありえないと思うけど、もしかしてこの人が俺をサブキャラで倒したゼルダなのだろうか?


 まあ、いいや……ゼルダ来るまで暇があるし、せっかくだからこの会社員のいかにも格闘ゲームの初心者っぽいイメージを受ける女性を相手に……容赦なくノーダメで倒してやるか。


 俺は女性の座っている筐体の反対側の筐体にカバンとアーケードコントローラーの入った袋を足元に置いて、ゆっくりと座って100円を入れてカードを差し込んで女性と同じ俺も愛用しているメインの主役キャラを選ぶ。


 女性の座っている筐体と対戦するには、後は1Pボタンを押すだけで対戦が出来る。


 女性が選んだのは先ほども見たが、主役キャラクターだ。


 同キャラ戦だと性能が同じだから、プレイヤースキルが高いか嫌でもはっきりと出てくる。


 ああっ! いるいる! こういう奴!


 最初は主役キャラ選んで初心者らしい優しい必殺技のコマンド入力で、負けちゃってもたかがゲームだからさわやかにやりますーって感じのやつ!


 見た感じでは普通の人っぽいし、主役キャラ選ぶ時点でどうせ始めたばかりのド素人なんだろうな。


 自分が後に同キャラ選んどいて言うのもアレだが、そう思えた。


 どうせランキングの下位の名前なんだろうな。


 名前を今後覚える必要もないか、まぁ慈悲の心ってやつでちゃっかり見てみるか。


 対戦画面に映ると名前が表示され見てみると、ゼルダとそこにしっかりとネームが表示されていた。


 えっ?


 俺はもう一度、対戦相手の相手のネームを見た。


 ええっ!


 間違いない……この女性が……俺とネットで対戦していたゼルダに違いない。


 なぜなら登録したユーザーのネームは、過去に同じ名前がある場合は使用禁止になるから他の名前に変更するしかないからだ。


 そしてキャラクターを変更してもユーザーの名前自体は変わらないが、ランキングのキャラクターごとのポイントは変わる。


 つまりゼルダの名前で5人キャラを別々に使用すれば、例えば2位から6位がゼルダの名前と使用キャラの名前がポイント付きでランキング表示される。


 俺は全国ランキングに興味はないので見ないことにしている。


 そんなもの見ている暇があったら、対戦している方が有意義に思えるからだ。


 最初ゼルダは対戦画面で動きが狸の置物のようにピタリと動かない。


 おそらく動揺しているんだろう。


 俺が苺大将だということに。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る