見空集

相生薫

春の章(2019)

ビルぐん

彼方、広がる

武蔵野のそけぶるする

杉花粉


解説) 都会の高層ビルからみる遠い武蔵野の山裾に杉花粉がモウモウと沸き立つのを見て春がきたんだなぁ、と思うと同時に嫌な季節が来たものだ。





春雨に

傘を持つ手が震えるも

花粉飛ばずと

笑み見せる君




夜更けて

三日月うつ

川面にも

さくら降らんと

待つ目黒川





桜待ち

朝焼けの中

彷徨ただよううも

もりの木陰に

鶯の声


解説。まだ桜は咲かないのかな、と日の出間近に外に出たら、近所の神社の杜の蔭から鶯の鳴き声が聞こえてきた。



あま飛ぶや

白染まる空

雲雀鳴く

空の彼方に

舞うセスナ




【修正歌です】

天飛ぶや

白染まる空

雲雀鳴く

空の彼方に

空舞うセスナ



春衣はるごろも

着つつ恥ずかし

寒空に

蓮華れんげ恋しや

白妙の花



日の出前

望月もちづき照らす

弥生空

都にあれど

静寂しじま満つりし


解説)まだ日の出前の3月の夜空に満月が登っていて、都会の真中だというのに静かに静まりえっていた。




冬鳥の

去りて寂しき

鶴見川

手を擦り願う

春の曙


解説)鶴が見える川と書いて「鶴見川」というが、(冬の鳥である)鶴もいないし、春の鳥もいなくて寒いばかりだ。(寒いので)手を擦り合わせて暖かい春の日が早くこないかなぁ、と願います。




枝寒し

把留区パークに匂う

沈丁花ちんちょうげ

春待ち仰ぐ

かしら下げらむ


解説)公園の中の木々はどれも花や葉が芽吹かず寂しいが、花壇の沈丁花は良い香りを匂い立たせ、桜の開花を待って木々を仰ぎ見る人々の頭を下げさせているのかな。



水温ぬく

都の果ての

渓谷の

轟けしども

今や黙らん


解説)春が来て水も暖かくなり、都会の外れにある渓谷(東京二十三区にある唯一の渓谷は等々力渓谷)はかつては轟いていたのだろうけど、今はその名の所以もわからないほど静まり返り、春を待っている。



忍び咲き

路傍ろぼう彩る

山桜

あられ降りせば

春や何処へ


解説)気がつけば、なんでもない道端の山桜がひっそり咲いていた。漸く春が来るのかと思っていたら突然寒くなり、霰まで降って来る始末。春は一体何処に行ったのだろうか。



川岸に

色はにほえど

寒桜

冬戻れども

散らず乱れよ


う~ん。ちょっと不調です。


解説)川岸に咲き誇った寒桜だけど、急に冬の寒さに戻ったが、このまま散らずに咲き乱れてくれ。



寒空に

凍てつ登りぬ

朧月おぼろづき

春告ぐる鳥

鳴き飽きるなや


解説)寒くて冷たい寒空の中、雲間に朧月が見える。春を告げる鶯などの声が聞こえているが、その声が寒さで聞こえなくならないように



天の原

春空けぶ

武蔵野の

彼方に見ゆる

大和白富士やまとしらふじ


解説)晴れ渡った春の空は白く煙って水色になっていた。関東平野を超えて遥か彼方にある雪が積もった日本一の富士山が見えた。



駅舎にて

春まだ早き

弥生空

寒さ防ぎつ

襟を正さん



東空あずまそら

藍が白みて

あおが指し

だいだいいづる

春の曙


解説)東の夜空が紺色が段々白くなっていき、わずかに緑色が付いて行き、やがてオレンジ色が地平線から上に広がっていく。この空のグラデーションこそが春の朝の空だよ。


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