【今頃緊急速報】ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガの件「山形県の場合」



 そのニュースは、福島県からやってきた。山形市にある山形県庁の防災くらし安心部 防災危機管理課 に一報が届いたのは、佐賀県の例の事件が起きてから二週間も経過した頃だった。


「佐賀県が宇宙人さ乗っ取られだ? すかもあぢごぢの自治体で独立運動や、宇宙人どの友和締結する動ぎ、更には福島県では宇宙戦争の準備始まってるでいうのが?」


 福島県庁危機管理室長からの電話を受けていた防災危機管理課長山形のあまりの驚きに、隣に座っていた課長補佐米沢よねざわは、食べていたダシを吹き出しそうになった。


「うん、うん。わがった。——米沢、大変なごどが起ぎだぞ。福島で宇宙戦争の準備進んでるらすい。おらだもこの動ぎになんらがの判断すんなねかも知れねぞ」


 受話器を置いた山形課長は両腕を組んで、どっかりと椅子に腰を下ろした。そして、呆然としている米沢の顔を見てから、真面目な顔で自分の口元を指さした。


「おめ、口元についでるぞ」


 米沢は慌てて口元のキュウリを拭った。


「山形課長、すまねす。んだげんと、どうするでいうのだが。まだおらだのどごろには宇宙人の影響なんて、なにもねんねだが。これはそっとすておいだほうがいいのでは……」


「おめ、悠長なごど言ってられるが。いづなんどぎ、おらだのどごろにも宇宙人の魔の手襲ってくるども限らんのだ。こごは、福島県ど提携結び、宇宙人ば迎え撃づ! それが東北南部県同士の責務んねが。そもそも、福島県どは常さライバルどすて競い合ってぎだ。さぐらんぼ然り、ぶどう然り、米然り。だが、こだな時ごそ、一致団結するのが筋ってものだ」


 山形課長は顎に手を当てて熟考している様子だった。米沢課長補佐はダシご飯をかき込むと、茶碗をテーブルに叩きつけるように置いた。


「よす、やんべ! いも煮の味が醤油だどが、味噌だどが、ほだなものはどうでもいい。いも煮の肉がべごか豚がなんて、ほだなこどもどうでもいい。山形県ど福島県。高速道路も開通すたごどだす。こごで一気さ同盟組むべ! さっそぐ知事さ上申いだすんべ!」


 二人は防災危機管理課長だけが受け継ぐことが出来る金庫の前に立った。それから、神妙にダイヤルを回し、設置されてからこの方、一度も開かれたことのないそれを解錠したのだった。

 米沢課長補佐の喉が鳴った。山形課長も緊張のあまりに手が震えていた。重々しい扉が開かれ、中から真紅のビロード布に包まれたそれは、山形課長の手にずっしりとした重みを与える。


「課長……」


「米沢ぐん。これごそ、我が山形県秘密裏さ開発すてだ——危機の時にすか発動すね、最終兵器、汎用人型決戦兵器YAMAGATAJYO山形城零号機を起動さしぇる鍵だ。福島のTURUGAJYO鶴ヶ城のプロトタイプであるものの、その性能は引げ取るごどはね。むすろ、初号機よりもその実、完成度は高えのだ」


 二人は両手の平に乗るほどの大きな金色の鍵を見つめて感嘆の声を上げた。


「で、その零号機さ搭乗するパイロットはいるんだが?」


 米沢課長補佐の問いに、山形課長はゆっくりと視線を戻して彼を見つめた。


「え! ええ? おれ、だが?」


「そうだ。おめはこの零号機パイロットどすて遺伝子操作されで生まれでぎだ子。ついにおめの価値問われるどぎだぞ。米沢——」


「おれが、パイロット——?」


「零号機が眠っているのは、蔵王山のどっこ沼だ」


「あの美すい沼さ、だが」


 蔵王山の山頂にある沼——どっこ沼。なぜそのような色をしているのか、未だに解明されていない神秘的な沼。そこに零号機が眠っているという話はにわかには信じられないことだったが、米沢課長補佐は、体の奥底でそれを肯定してしまっていた。


「これが遺伝子の力が。そうが。おれは零号機パイロット、米沢シンジスンズだ!」


 米沢課長補佐はそう叫ぶと、防災危機管理室を飛び出していった。それを見送り、山形課長は目を細める。


「ぬおおおお! よす、いっちょやってみっか。コード107裏・コード! ザ・ペロリン!!」


 廊下を駆け抜けて、裏コード「ザ・ペロリン」モードに突入し姿を消す米沢課長補佐。山形市の空は突き抜けるような清々しい紺碧色だ。


「行ぐんだ。米沢。誰がのだめでね。自分自身の願いのだめに」




***


 山形県には素晴らしきものがたくさんあるんです。私は「ダシ」が好き。同僚に山形出身の方がいて、おいしい「ダシ」を作ってくれる。それからもう毎年、夏場は「ダシ」に決まりなんです。きゅうりとなす、オクラ、シソを細かーく切ってめんつゆで混ぜるだけ。

 どんなに食欲がなくても、ごはんが進みます。それにこれを冷ややっこの上にのせると最高なんですよね~。ああ、早く食べたい。

 

 蔵王にあるどっこ沼も素晴らしきかな。どっこ沼に行くには、リフトに乗って、ロープウェイに乗って、本当に大変なんですよ。沼の側にあるロッジに宿泊した時は車で無謀にもチャレンジしたんですけれども、秘境みたいな道なき道を進んでやっと到着するという、行くにはちょっと勇気のいる沼なんです。

 けれども、あの透き通った水、エメラルドグリーンの水面がひっそりとそこにある様は幻想的で素晴らしい。娘たちがもう少し大きくなったらもう一度訪れたい場所でもあります。どっこ沼には水神様のお話があるみたい。うーん。神秘的。


 山形弁はようわからんので、こころさんに以前教えてもらった「恋する方言変換」サイトを活用しました。ごめん! こんななまってないよね。いや、私もこんな感じだよ。ふつうに話しているとね!











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