崖の上から

盛田雄介

男の選択

 今の俺に選択の余地はない。

ネズミにさえ、どこへ向かうかを決める権利があると言うのに。


あぁ、あの頃が懐かしい。


 息子が初めて立った日。嫁がケーキを焦がして大騒ぎした日。2人が出会った日。

目を閉じれば鮮明に思い出す。


これは少し早めの走馬灯だろうか?


 高さ25mの崖の端に立つ俺。

下を覗くと尖った岩達が荒波と共に待っている。


 昨日まで金貨1枚の価値すら無かった俺だが、たった1枚の紙にサインをしただけで一気に5000万円の値打ちがついた。


しかし、ここに立っていられる間や、こうやって何かを考えられてる間は、その価値を付けてもらう事は出来ない。


ここから一歩を踏み出した時にそれを受け取る事が出来る。


 家族が待つ家を心の中で背負って、ゆっくりと前に進む俺は、まるでカタツムリの様。


 決断の遅さは俺の欠点。それでいくつもの失敗を繰り返し、今に至る。

『最期くらいは、高級スポーツカー並みの男になりたい』

そう願う男は一粒の涙を流す。


 男の涙は、どの星よりも輝く悲しい流れ星となって愛する者達の元へ届くのであった。

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崖の上から 盛田雄介 @moritayu

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