大人学校のすぐれた大人たち

ちびまるフォイ

義務教育を越えた先の学び

「どうして大人学校があるか考えたことはありますか?」


大人講師は教室に集まる大人に言い聞かせた。


「大人は常に子供のお手本となるべき存在。

 ですから、いい子供のために大人がまず良くなる必要があるのです!」


「「「 子供に勝つぞーー! 」」」


大人たちは子供に見下されるような大人ではなく、

子供をしっかり教育し規範となれるような存在になるべく大人勉強をはじめた。


「なんですかその服装は!? DJですか!!」


「え? この服装がそんなに問題ですか」


「問題です! 大人たるもの、最低限の大人らしさが必須!

 今のあなたは自分が大人である自覚がない!

 痛いストリートラッパーですよ!」


「す、すみません……こういうファッションが好きで……」

「自分の好きかどうかではなく、どう見えるかを意識してください!」


大人学校は誰に対しても容赦はなかった。


「大人なんだからいつまでもゲームに興じるなんていけません!」


「大人たるもの、遊園地ではしゃぐなんて言語道断!」


「そんな髪型は大人としてふさわしくありません!!」


「「「 はい先生!! 」」」


大人学校で学んだ大人たちはしっかり教育を受けた後、社会へと解き放たれた。

ダメ大人卒業式ではこれまでの厳しい指導もあってか誰もが号泣した。


「この卒業でみなさんはもうどこへ出しても恥ずかしくない立派な大人ですっ……!」


「先生ありがとうございました!」

「私達は子供のお手本となれるようにがんばります!」

「そして子どもたちをしっかり教育します!」


「頼みますよ。未来の良い大人たちを作るのには

 子供を良い大人が導き、管理し、規範となるのです」


大人学校を卒業してからも大人たちの意識は高く、

お互いの子供っぽい部分を注意しては大人の品質を保ち続けた。


「コラ! そのような言葉遣いは大人としてふさわしくない!

 大人学校ではなくとも、私達は大人として子供より上位でなくてはならない!」


「す、すみません!」

「これも子供のためだ。子供のお手本になるのが大人だ」


いつしか自然にできあがった「大人警察」は子供っぽいことや

大人としてふさわしくないことを厳しく取り締まっていた。


大人警察が浸透していくにつれ、子供たちのあいつぐ成功が取り沙汰されるようになった。


「子供なのに会社を立ち上げて大成功するなんてすごい!」


「子供でも大人を負かすスーパー選手の登場です!」


「大人以上に勉強ができる天才小学生です!」


本来は拍手喝采で喜ぶべきことなのに、

大人たちはけしてよく思わなかった。


大人たちは同じスーツを来て、広く豪華な大人会議室へと集まった。


「大人のみなさん、今日はお集まりいただきありがとうございます」


「やはり、子供の成功の件……ですか」


「ええ、最近どうも子供の成功がめざましい。

 これでは大人として規範になっていないんです」


「このままいくと大人はポンコツだとして子供に見下される!」

「そんなの許されるか! 大人が教えてやらねばならぬ!」

「子供が図に乗るとろくな大人に育たなくなるぞ!」


「その通り! ということで、今回はどうすれば大人が子供に負けないかを考えましょう!」


会議は何十時間にも及んだ。

そうして大量の時間を費やした結果に出た結論としては「大人学校のカリキュラム強化」へと落ち着いた。


「大人になるために学ぶ場をもっと手厚く、徹底しよう!

 大人らしい立ち振る舞いだけでなく大人としての知識もいれるんだ!」


「それはいい! 大人は常に子供よりも多くの知識がなくては!」


「そうすれば子供はきっと大人を尊敬しあがめるはずだ!」


大人学校の授業はますます内容が濃くなり、時間も長くなった。

子供に見下されないために大人たちは必死に勉強した。


「ようし完璧だ! これだけ子供よりも優れたことを学べば、

 子供よりも大人の方が成果を出せるはず!!」


大人学校を卒業する大人たちは自分たちがいかに子供よりも優れた存在であるかを示そうと息巻いていた。

けれど実情は子供たちの成功が取り沙汰されるばかり。


せっかく学校でしっかりみっちり勉強したはずの大人たちはなんの結果も残せていなかった。


「ちくしょう! なぜだ! なぜ大人はダメなんだ!!」


「このままでは子供に負けてしまうぞ! いやもう負けている!」


「子供のお手本となり、子供の上位であるはずの大人なのに!」


大人たちは自分たちの立ち位置と実情とのギャップに悩んだ。

何度も何度も有識者会議を開いても解決の糸口はつかめない。


「大人のみなさん、ここはもう子供に学びましょう」


「なっ……なにを言っているんですか!?」


「子供のほうが優れていることはもう明白。

 現実から目をそむけるのはやめましょう。

 子供にも大人学校に来てもらうのです」


「バカな! それじゃ子供に屈服したみたいじゃないか!」

「そんなことすれば子供に見下されるぞ!」

「お手本として大人が信用されなくなる!」


反対意見は銃弾のように飛び交っていたが、ひとことで黙ることになる。


「大人なら! 大人なら負けを認められるはずです!」


大人たちはその一言で気付かされた。


「そうだ……なにをメンツばかり気にしていたんだ」

「こんな姿はとても大人らしくない。子供の手本じゃない……」

「子供にも学ぶところはある。それを認めるだけじゃないか」


「そうとも! 私達、大人がどうして子供に勝てないのか。

 それを学ぶために子供を大人学校に呼びましょう!!」


「「「 異議なし! 」」」


これまで子供が入れなかった大人学校に子供が呼ばれるようになった。

そこで大人ともども子供をしっかりと教育しつつ、

大人たちも子供から学ぼうとしていった。


やがて大人学校の大幅な改良の結果は多くの国と地域で称賛された。


「いやぁ、この国の大人と子供は実に素晴らしいですね。

 誰もが大人同然の立ち振舞で品位があって最高です」


「そうでしょう、そうでしょう」


「大人学校というやつが本当に結果を出しているんでしょうね」


「その通りです。子供は早いうちから大人らしさを学び、

 大人はさらに大人品質を高めていくことができるのです」


「いやはや素晴らしい」


「しかし、まだ問題はあるんですよ」

「問題?」


「どういうわけか、以前にあった子供による大成功が

 このところめっきりなくなってしまったんですよ」


「そういえば……そうですね。以前には子供で宇宙を解析したりと

 あなたの国では子供が非常に優秀だったはずなのに。

 なにか原因はあるんでしょうか」


「原因はわかっていません。ですが対策は講じる予定です」


「それは素晴らしい!」


大人は大人らしく立派に言い放った。


「大人学校をさらに強化させます!

 もっと自由な時間を削って大人になる勉強をさせていきます!

 勉強時間を増やせばかならず成果を出してくれるでしょう!!」

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