No Hope
宮本南
彷徨う少年
ずっと探している。
何を?と聞かれると、一言では表し難い気がする。自由?生きる意味?自分の存在価値?・・・どれも間違ってはいない気はするが、しっくりもこない。
薄暗く、鬱蒼とした森の中、彼は道無き道を進んでいた。なんとなく、人が通った形跡のある方へ、一歩一歩と踏み込んでみる。のびのびと自由に生い茂った木の枝や草をかき分けながら、何かがありそうな方角へと向かう。戻ろうにも、どこから来たのか分からなくなってしまったのだ。
この先には何があるのか。この暗がりから抜け出すことはできるのか。いつかどこかに、光は見つかるのだろうか。
聞こえるのは、草木をかき分ける音と、頭上のどこかで鳥が鳴く音だけだった。
その中に重なるようにして、くぐもった「ぐ〜〜〜」という音が響いた。
・・・そんなことより、今探しているのは今日のメシだ。もう丸一日、まともな食事を摂っていない。今は人生について考えている暇なんてない。実のところ、今日明日を生きるので精一杯なのだ。
どうして、こんな森の中をさ迷う羽目になったのか。・・・あの盗賊から聞いた、竜の噂のせいだ。彼はいらいらしながら、およそ2日前の記憶を辿る。
◇◇◇
彼は、とある盗賊の盗みを手伝い、報酬としていくらかの銭を受け取ったあと、路地裏のひっそりとした飯屋で、その日の晩飯を奢ってもらっていた。小さく古めかしい店内に、客は彼と盗賊の他にはいなかった。ビールが注がれたジョッキを片手に、汚らしい身なりをした髭面の盗賊は話す。
「知ってるか?この街の南の森には、竜の巣があるらしいんだけどよ。そこの竜は、怪我だか何だか知らねぇが、たいそう動きが鈍くて、竜の卵が盗み放題らしい。」
「なんだそれ。どこの情報だよ。」
「この間、ドルドの闇市で竜の卵を売り出していた輩がいたからよ、どこで仕入れたかこっそり聞いたんだ。そしたら、この街の南の森だって言ってたんだよ。お前、金ないんだろ?いっちょ盗んできたらどうだ。闇市では相当な額になってたぞぉ。」
ふーん、竜の卵か。彼は飯をかき込みながら考える。
「その、竜の動きが鈍いっていうのは本当なのか?だって竜だろ?そんな簡単に卵が盗めるとも思えないけど。」
「本当かはしらねぇよ。闇市の奴が言ってただけだ。まぁあんなひょろっちいのに盗んでこれるなら、竜の動きが鈍いってのは本当かもな。がっはっは。」
盗賊はビールをぐいっと飲む。彼は話を聞きながら、口の端で微かに笑みを浮かべる。
「・・・面白そうだ。竜の卵か。俺もそれを盗めたら、しばらくはゆっくり暮らせそうだな。」
「しばらく、なんてもんじゃねぇよ。こんな暮らしとはおさらばして、アザハルの城下町に家でも建てられるんじゃねぇか。」
「そうなのか?だったら尚更興味が出てきたよ。明日南の森に行って、様子だけでも見てこようと思うけど、お前も行くか?」
「いや、オレ様はいいよ。実は別に狙ってるお宝があってよ。それはお前にはまだナイショだが、お互い盗みがうまくいかなかったら、また助け合おうぜぇ。」
1人か。・・・まあいい、とりあえず一度様子を見に行って、1人での盗みが厳しそうなら、また仲間を探しに戻ってくるとしようか。
彼は残った麦飯を平らげ、水を飲み干すと、立ち上がった。
「・・・わかったよ。明日は、俺1人で南の森に行ってみる。今日のところはありがとう。お前もうまく行くといいな。」
「おうよ。オレ様はもうしばらくはこの街にいるつもりだからよ、また会うことがあれば、よろしく頼むぜぇ。」
彼は小さな荷物を肩に下げ、飯屋を後にした。
あの盗賊が何者なのか、どこからこの街に来たのかは知らない。数日前、たまたま立ち寄った飯屋で声をかけられ、成り行きで盗みを手伝うことになっただけだ。
どこから来たのか分からないのは彼自身も同じで、物心ついた時から根無し草だった。うまく誰かに雇われた時期もあったが、雇い主との小競り合いや、不況による解雇によって、平穏な日々も長くは続かず、結局各地を転々としながら盗みを働いて生きてきた。彼はかつては兄と行動を共にしていたが、兄は数年前に盗みに失敗し、命を落とした。昔兄に告げられた年齢から何となく数えると、彼は今年で16か17になる。
遠い先のことなんて考えられない。とにかく今日、明日を生きるだけだった。
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