&α
「で、さ。あのね」
「ん?」
「聞きたかったんだけど、私の名前、芸名考えてくれた、んだよね。手で伝わるから分かるんだけど、どういう名前なの?」
「ああ。本名のことか」
「うん本名」
「本名」
「え?」
「本名で活動してるなら、本名、っていう芸名にすればいいかなって」
「おお。それは名案ですね」
「ちょっと。先生まで」
「もともと私もあなたの実名での活動は怪しいと思ってました」
「だって実名で活動しろって言ったの先生じゃん」
「いや、それは、あなたが芸能界で似た相手が見つかったとき覚えられやすいようにと」
「でも、釣れたのが最初に歌う人さんじゃん」
「いや、釣れたというか」
「違うんですか?」
「いや、えと、あのときこの子があなたの歌を聴いたのは、あの、単純に私が歌を聴きたくて、この子を放置してて」
「え、うっそ。私放置されてたの」
「だって一日中あなたのマネジメントして心拍数眺めてたのよ。曲ぐらい聴かせなさいよ」
「なんだこれ」
「わたしごはんつくってくる」
「おい」
「あ、あはは」
「俺の曲を、聴いてたんですか」
「ファンでした。マネージャの立場を利用して、あわよくば、って思ってました。ごめんなさい」
「いやいいですけど、もしかして、その」
「なんですか?」
「長い髪と眼鏡って」
「そうですっ。あなたの曲ですっ。なるべく曲の世界観に近い格好のほうが見てもらえるかなって」
「うわあ」
「私も訊きたいことがあります。手を握ってるからわかりますよね?」
「いえ、あの、まあ、はい」
「この、触ると相手のことが分かる能力、触る部位で色々違ったり、しませんか?」
「いや、あの、まあ、はい。なんでわかったんですか」
「私がよろけてあなたに支えてもらったとき、私の、その、胸を」
「いや不可抗力」
「ええ承知しております。あれは事故です」
「ごめんなさい」
「だから、その、ええと、触れると、より深く理解しやすいところって、あるん、ですか」
「あります。もう言い訳できないから先に言います。女性なら口と腹に近い部分、男性なら股間と背中です」
「あ、はい」
「うわあもう恥ずかしいなあ」
「さて、ごはんできました」
「あ、とりあえず食べましょう」
「マネージャの先生、さっきのはこの子には秘密に」
「台所まで全部聞こえてましたあ」
「この子の料理は美味しいんです。食べましょう。食べたら試しましょう。より深く理解するために」
「先生の料理もおいしいよ。いただきます。私が先生よりも先に触るからね。ご飯作ったのわたしだし」
「なんか普通に生活が始まっちまったな」
「逃げられないよ?」
「逃げられませんよ?」
「はあ。いただきます」
「あ、おしょうゆ取って」
握った手、伝わる感情 春嵐 @aiot3110
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます