第394話 盗聴作戦開始

「よくわかんないけど、怖かった……」


「だな……。久々に恐ろしいものの片鱗を味わった気がする」


「なんだったんだ今の?」


 莉緒と二人でさっきの出来事を思い返していると、イヴァンだけがよくわかっていないようで純粋に首を傾げていた。


「あれはたぶん、一緒に召喚されたクラスメイト」


「えっ? 今のが?」


 根黒が消えたあたりに視線を向けるとまたこちらに顔を戻すイヴァン。


「めっちゃナイフ構えてたけど、仲間とかじゃねぇんだ」


「いや、クラスメイトはどっちかというと全員敵だから」


「お、おう」


 仲間と言われてちょっとだけイラっとしてしまったが、改めて自分で口にした『全員敵』という言葉を思い返してみる。

 一応クラスメイトという意識はあったけど、確かに考えてみれば敵だ。ぶっ殺すまではいかなくても、ナイフを抜いて向かってきた分の反撃を加えてから放逐してもよかったのかもしれない。


「ところでどこに飛ばしたの?」


「あー、そういえば……」


 莉緒の言葉でさっき使った次元魔法を思い返してみる。とっさに思い付いた場所は、他のクラスメイトが現れたっていう商業都市だ。


「もしかしたら商都のコメッツかも」


「ふーん、ここからだと結構遠いわね」


「そうだな……。でもどうせなら帝国の西側とかに飛ばしておけばよかった」


 各地のヒノマル支部へと扉を設置したときに、大陸のあちこちの街に飛べるようになっているのだ。もっと遠距離にしなかったことが悔やまれる。


「今からでも行って遠くに放り込んでくればよくね?」


「えぇー」


 何気ないイヴァンの言葉だったが、反射的に否定の言葉が出てくる。


「……二度と会いたくないからやめておく」


 反射ではなくよくよく考えなおしてみても、もう一度奴を視界に入れたくもなかった。


「それよりもほら、早く民家の調査に行きましょ」


「そうだな」


 奴の話題もこれ以上続けたくなかったので、莉緒の話に乗っかることにする。

 というわけで、本来の目的を果たすべく移動を再開した。




「ここか」


 スラムとまではいかないが、多少寂れた感のある庶民街へとやってきた。馬車が入れないくらいの細い路地を入ったところにある家が、目的の場所らしい。

 周囲の民家にはそこそこ住人がいる気配がする。そろそろ夕方なので、夕飯の支度をする家も多いようだ。


「出歩く人はいないけど、あんまり隠れる場所はなさそうね」


「……屋根の上にでも行くか」


「ええ?」


 不満を漏らすイヴァンも魔法で持ち上げると、そのまま屋根の上へと上がる。目的の民家は二階建てなので、それほど高くはない。


「人はいそうだな」


 すぐ足元の気配を探ると、三人いるようだ。


「当たりだな」


 なんだか莉緒とイヴァンが嬉しそうである。ずっと目当ての人物が来ないギルドで待ってるだけなのが退屈だったのかもしれない。

 一人だけ離れたところにいるが、夕飯の支度でもしているんだろうか。とりあえず二人いる部屋に小さい次元の穴を開けて、会話でも聞いてみることにした。


「………………」


 どうやら特に会話らしい会話はなさそうである。


「……どうする?」


 思わず顔を見合わせる俺たち三人。


「どうしようか」


 勇んで来てみたはいいが、ここに潜り込んでそれなりに経っているのであれば、普段の会話もこの街の話題が多い可能性が高い。


「いつもみたいになんか便利な道具はねぇの?」


 イヴァンがふと尋ねてくるが、確かにこんな時こそ道具の出番だ。


「虫TYPEは映像だけだな」


「録音機能はつけられないの?」


 莉緒に言われて、頭の中にダンジョンマスターとしてできることを思い浮かべてみる。うん、確かに録音機能は付与できそうだけど、DPが十万ほどかかるみたいだ。


「最近DP使い込んだばっかりだし、ちょっと節約かなぁ」


 それにそういうのは日本にもたくさんあるだろうし。


「じゃああっちで盗聴器でも買う?」


「ありそうだけど、普通に買えるのかな?」


 案外ネット通販なら売ってそうだけど、性能まではよくわからない。というか普通のICレコーダーとかでもいいのかもしれない。こっちの人間に見つかっても、何をするための道具かなんてわからないだろうし。

 あとは……。


「前に用意した監視カメラでもいいかも」


「それもそうね」


「じゃあ今は一旦引き上げようか」


「了解」


 こうして現場からはすぐに撤退することになった。


 自宅に帰れば監視カメラのチェックだ。サタニスガーデンの拠点で使っていた監視カメラを取り出すと、よく観察してみる。


「マイク端子付いてるな」


「へぇ、集音マイクとか接続できるんじゃない?」


「それはそれで目立ちすぎないかな……」


「そうかしら」


 スマホを取り出すと莉緒がなにやら検索を始めたようだ。


「思ったより小さいのもあるわよ」


 見せてもらった画面を見れば、確かにそこまで目立たないものもある。


「このような盗聴用マイクもあるようですよ」


 リビングで盗聴の方法についてあれこれと莉緒と話していると、ノートパソコンを片手にエルが会話に入ってきた。


「おお、すげーなこれ」


 画面に表示されていたのは小型の盗聴マイクがたくさんだった。複数のマイクを一つのグループに設定すれば、それぞれのマイクが拾った音声を一つにまとめて記録してくれるらしい。


「つまり家中に仕掛けても、マイクの数だけ音声確認しなくていいってわけね」


「はい。各地の情報収集でも使用したいので、ぜひお願いします」


「よし、許可する」


「ありがとうございます」


 エルのプレゼンを受けて最速でぽちっとした。お急ぎ特急便で今日のうちに日本のマンションに届くらしい。宅配ボックスに入れてくれると気づいてからは、直接受け取りも不要なので便利だ。


「んじゃ、届いたらさっそく明日にでも仕掛けに行くか」


「了解」


 こうして我がヒノマルの情報収集能力も合わせて上がっていくのであった。

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