第387話 忘れた頃に来た厄介ごと

 甲殻類や貝なども候補として挙げていたけど、マイルズさんが選んだのは無難に魚だった。雇った冒険者たちの必死な解体作業だったが、やはり勝手が違いすぎたのか終わったのは日が沈む頃だった。

 解体中に魚を使ったレシピもいくつか売れたのでエルもほくほく顔だ。


 解体された切り身は次々に倉庫に運ばれていったが、足の早い部位はその場でふるまわれていた。どうせ捨てることになる部位なので無料での放出だ。お金を取ることもできただろうけど、商会の宣伝も兼ねていたのかもしれない。

 孤児たちも満足そうにして帰っていったので悪くはなかったと思う。


「シュウ様、少しご報告が」


 拠点に戻った翌朝。メサリアさんから報告があると朝食の場で使用人から知らされると、ちょうど食べ終わった頃に当の本人が現れた。


「メサリアさん。わざわざ来てくれたんだ」


「急ぎの報告なの?」


「はい。以前シュウ様から依頼のあった、一緒に召喚されたというクラスメイトの情報です」


 そういえばそんなことを頼んだこともあったなぁ。ちょっと気になる程度だったから、急いで報告するようなことでもないんだけど。


「マナカ・ヒトシとオダ・クウヤ、ヒノ・キョウカの三名に、商業国家アレスグーテ商都コメッツ支部が襲撃を受けました」


「へ?」


「え?」


 え? なんで? あいつら何やってんの? バカなの?


「商都コメッツにはシミズ・マサヨシ、ナガイ・メイ、オオトリ・ホノカの他三名も滞在していることが確認されておりますが、どうやら支部の襲撃には参加していないようです。むしろ襲撃してきた三名を引き止めて取り押さえた模様」


「「はぁ?」」


 追加の情報に莉緒と言葉が重なる。


「なんでそんなことに……」


 何かに巻き込まれてこの世界にやってきた楓さんみたいな人が、日本っぽい名前の「ヒノマル」に興味を持って接触しないかと思って名付けたんだけど……。まさかコイツラが釣れるとは……ってそりゃ釣れるか。釣れないわけがないな。むしろ狙った通りでもあるし、ガチの該当者じゃねぇか!


「柊?」


 バカは自分だったことに気が付いて頭を抱えていると、莉緒に心配されてしまった。


「申し訳ありません。数日前に依頼のために六名で支部を訪れたらしいのですが、その際にあちらの世界にあるペットボトルの容器を見られたらしく……。その日はどこで手に入れたのかしつこく聞かれたと報告が入っています」


「あー、なるほど」


「ペットボトルかー。……それは確かに気になるわよね」


「あれ便利だよな」


 ポカンと話を聞いていたイヴァンも、ペットボトルと聞いて思わず言葉が出る。

 軽くて簡単に密閉できる容器としては、ペットボトルに勝るものはない。この世界の技術力だと、あそこまで精密に密閉できる容器を作ることは不可能とまでは言わないが相当難しい。知っている人間が見ればすぐにわかるだろう。

 外に広めないようにはしているけど厳格に禁止しているわけでもなく、むしろ日本で買えるものは便利なので組織内では広めているくらいだ。


「あんなものこっちで見つけたら、もしかしたら帰れるかもって思わないでもないか……?」


「でもあそこって、シュウたちがいた世界とは違うんだろ?」


「そうなんだけど、見分けつかないくらいめちゃくちゃ似てるから」


「ふーん」


「だから連れて行ったとしても居場所なんてないからなぁ」


 なので上げてから落とすわけじゃないけど、より落ち込む可能性もゼロではない。第一俺としてはあいつらと顔を合わせたいわけでもない。


「あれ? そういえばクラスメイトってもう一人いなかったっけ?」


「ああ、そういえば、いたような?」


 莉緒の言葉でうっすらと思い出す。俺たちを除いたクラスメイトは全部で七人いたはずだ。一番会いたくない奴なので記憶の彼方から消えてたようだ。


「もう一名についてはまだ行方は知れていません」


「あ、そうなんだ。じゃあいいや」


「そうね」


 メサリアさんからそう告げられると、俺と莉緒もきれいさっぱりと意識の外に追いやる。鉢合わせしたくないからこその居場所の把握でもある。わからないならどうしようもないのでどうでもいい。


「それで、いかがいたしましょう」


「どうしようかね……。正直関わりたくないんだけど」


「え?」


 思ってもみなかった答えにメサリアさんが目を丸くする。調査するように言われたから接触したいと思ってたんだろうか。

 逆に会いたくないから調べてもらっていたことを告げると、一応の納得を見せるメサリアさん。


「はぁ、そういうことでしたか……」


「でもこのまま放置しといてもちょっかいはかけてくるわよね」


 あいつらからすると、日本へ帰れるかもしれない手がかりなのだ。そう簡単に諦めてくれるとも思えない。


「うーん。だからと言ってあっちに連れて行きたくはない」


「それでしたらこちらのほうで始末しておきますが……」


 考えあぐねていると、メサリアさんから消極的な雰囲気で物騒な提案が出てきた。後始末という意味だと思っておこう。


「いやいや、さすがにそれは」


 一応のクラスメイトとはいえ、襲われたのであればその結果どんな処分を受けても文句を言えないのかもしれない。だけど罰を与えるにしても実行犯である三人だけだろうし、残りの三人がどう出るか不明だ。

 仮にも勇者とも呼ばれていた人間だ。そこそこの強さも持っているし、ヒノマルの人間たちでの力づくという手段も難しいかもしれない。


「むーん」


 すぐに結論は出ないまま、頭を悩ませるしかないのであった。

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