第114話 自分たちの正体

 場所は打って変わって、ラシアーユ商会本部のとある一室へとやってきた。さすがに商都にある本部ということで、石造りの立派な建物だ。


「えーと、つまりお二人は……、アークライト王国に召喚された勇者……なのですか?」


「ええ、そうです」


「……」


 俺たちの説明を聞いたフルールさんがポカーンと口を開けている。

 魔術研究所とやらでも判明しなかったものの正体を知っているとか、そりゃ『なぜ?』って話になるよね……。話すつもりはなかったけど、『しっかり隠さないと』と思っていたわけでもない。

 アークライト王国のどこかのギルドじゃ、ギルドマスターに話してるしね。調べればすぐにわかるんじゃないだろうか。


「で、では、あの落札されたすまーとふぉんというのは……」


「そうですね。俺たちの世界にあった道具だと思います」


「見た目はそっくりだよね」


 莉緒の言葉にゆっくりと頷く。

 そういや鑑定したら何て出るんだろうか。


 =====

 種類 :道具

 名前 :スマートフォン

 説明 :6G対応ゾニー製エクスペディア3

     ステップドラゴン1082プロセッサ搭載

     8K液晶と32PBメモリ搭載のハイスペックモデル

 =====


「ぶほっ」


 まんまスマホじゃねぇか。つーかどこの宣伝文句だよ。


「どうしたの?」


「いや、鑑定したら6G対応ゾニー製エクスペディア3って……」


「えぇぇ……」


「な、何なんでしょうか、その鑑定結果は……。研究所からもそのような発表はありませんでしたが」


 そうなのか。モノをよく知る人間が鑑定したほうが詳細がわかる仕組みなんだろうか。それとも名前しかわからないレベルの鑑定とか? 鑑定スキルってのもまったくもって謎だ。

 ってか6Gってなんだよ。俺の知る限りだと、最近5Gが出始めたばっかりじゃなかったっけ。スマホに8K液晶も意味わからんし、あとメモリ容量のPBって単位はなんなんだ。ギガよりすごいのか? さっぱりわからん。

 時間軸が合ってないとか、並行世界の地球とかいろいろ可能性はある。今は深く考えないでおこう。


「それで、そのすまーとふぉんは何ができる道具なのでしょうか!?」


 謎の未来スペックなスマホに頭を抱えていると、フルールさんが興奮気味に声を上げる。


「うーん、いろいろできるんですけど、基本的には遠距離通信が可能な道具……でしょうかね」


「私も持ってましたし、一般人に普及していた道具ですね」


「遠距離通信……ですか。どれくらいの距離まで大丈夫だったんでしょうか」


「だいたいどこでも使えましたね。人のいない山奥とかでなければ繋がります」


「ええっ!? す、すごいですね……」


「まぁこの世界だと使えないですけどね」


 驚くフルールさんにスマホ以外にもいろいろ話をしたけど、リアクションが面白い。飛行機とか鉄の塊が空を飛んだりとかは信じられないだろう。


「にしてもどうにかして充電できないかな」


 一通り話し終えた後にポツリと呟く。確かUSBの充電って5ボルトだったっけ。いやでも未来のスマホっぽいし同じかどうかはわからないな。

 雷魔法は使えるけど、さすがに微弱電圧は難易度高そうだ。いきなりやればスマホが壊れる未来しか見えない。ってか電池切れなだけかどうかもわからんのだけどな。


「さすがに無理じゃないかなぁ」


 莉緒からそんな声が聞こえてくるが、練習するだけならタダだ。スマホには百二十万フロンっていうお金はかかったけど、電源が入るのかどうかは確認したい。


「まぁいろいろ練習してやってみるよ」


「そういえばフルールさん」


「はい、なんでしょう?」


「ちなみにこのスマートフォンですけど、研究所ではいつから研究していたんでしょうか?」


「確か五年前からと聞いていますね」


「「五年!?」」


 思わず俺たちの声が重なる。


「ってことは、そのスマートフォンそのものは五年以上前にこの世界に現れたってことですよね」


「ええ、そうなりますね。研究所に持ち込んだという冒険者が、どういった経緯で手に入れたかまではわかりませんが」


 あぁ、さすがにそうだよな。でもスマホだけ異世界に飛ばされるって可能性もゼロとは言えないよな。なんにしろ、地球産の何かがこの世界にやってくることは、俺たち召喚者以外にもあるということか。


「こういうことってよくあるんですか?」


「ええっと?」


「うーん、用途不明なものが現れたりとか……、そういう現象です」


「そういうことですか」


 どういう言い方をすればいいのかわからなかったけど、なんとなく通じたようだ。


「滅多なことではないですけど、ゼロというわけではありませんね」


「へぇ」


「よくあるのはダンジョンから発見されるパターンでしょうか。珍しい魔道具とかは見つかったりしますが、本当にまれに用途不明な道具が出たりします」


「ダンジョンですか」


 何度聞いても気になる言葉だよな。


「あと、異世界人という意味であれば、『迷い人』と呼ばれる人が現れたりしますよ」


「……迷い人?」


「はい。知らない世界からこちらに迷い込んだかのような人のことです。出身地も聞いたことのない地名ばかりで、中には言葉の通じない人もいたとか」


「そうなんですね」


 まじかー。言葉が通じないのは辛いな。ってか普通に考えると通じないのが当たり前だよなぁ。まぁ助かってるんだから、自分の境遇には文句を言うまい。

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