第96話 家具とドレスの出来上がり
「おう、お前たちか。注文品はちゃんとできてるぞ」
ベルドラン工房へとさっそくやってきた俺たちは、珍しくクレイくんではなく工房主のベルドランさんに出迎えられた。
「最高の一品が仕上がってるわよー」
サリアナさんも自信満々だ。二人とも目の下に隈ができてる気がしないでもない。そこまでがんばってもらわなくてもよかったけど、今さら告げたところでもう遅い。
「すごいのできたよって、おーおじいちゃんがいってた」
母親の腕の中でクレイくんも自慢げに胸を張っている。
「ありがとうございます」
「うふふ、すごく楽しみ」
「ベッドなんかはここまで持ってこれないからな。ちょっと奥まで来てくれ」
ベルドランさんに案内されて工房の奥へと入っていく。廊下を通り抜けて裏へと出ると、木材を加工する工房らしき場所へと案内される。ここまでくると木材の香りがすごい。角材があちこちに散らばり、奥には未加工の木材が積まれている。まさに工場って感じだ。
「まずはこれがダイニングテーブルのセットだ」
シンプルながら木目の美しい一枚の天板のダイニングテーブルだ。テーブルの模様が年輪になっていて、輪切りにした木材が長方形にカットされているみたいだ。そこにセットで椅子が四脚ついている。
「すげぇなこれ」
椅子には柔らかそうな革が張られており、座り心地は良さそうだ。
「座ってみてもいいですか?」
「もちろんいいわよ。あなたたちの椅子なんだから」
では遠慮なく、と呟きながら莉緒が座る。
「おぉ」
思わず声が漏れた様子の莉緒が気になって自分も座ってみる。
「おお」
同じように声が出てしまった。座り心地最高。背もたれの木材も肌触りがいい。
「となりの作業場にソファとベッドが置いてある」
「うわー、すごい……!」
そこには大きめサイズのベッドが鎮座していた。一目見ただけで高級感がひしひしと感じられる。二人で寝転がってみると今すぐにでも寝てしまいそうだ。
「ゲルスライムってすごいのね。あたしもいろいろ試しながら作ってたけど、これ以上の素材には出会ったことないわ」
「うむ。ソファの出来も完璧じゃ」
ベルドランさんに言われるがまま、二人掛けのソファに並んで座る。うん、こっちでも気持ちよく寝れそうだ。人をダメにするソファってきっとこういうのを言うんだろうな。
「こっちもふかふかー」
気が付けばクレイくんがニルの背中にしがみついている。乗りたそうにしてたので乗せてあげたけど、やっぱりニルの毛皮が俺も一番だと思う。
「あはは」
「もう、クレイったら……。シュウさんすみません」
「いえいえ、ニルも楽しそうですし、かまいませんよ」
「あぁ、それと、余った素材は返却しておくぞ」
一通り注文した商品を確認した後、ベルドランさんが奥から素材を持ってきた。とはいえまだ異空間ボックスに在庫がある素材だから正直いらない……。
「いえ、余りは差し上げますよ。すごくいいモノを作ってもらったので、そのお礼です」
いろいろ提供した素材が立派な高級家具に変わって満足だ。単純にそのお礼と思って口にした言葉だったが、ベルドランさんの表情が一気に曇る。
「……そうか」
すごく何か言いたげにしていたが、大きく息を吐いたあとに言葉を続ける。
「……ならばありがたくもらっておこう」
こうして俺たちは代金を支払って工房を後にした。
思ったより家具が多くて野営用ハウスをさらに増築する羽目になったことを付け加えておく。
「えへへ……。柊はカッコいいね」
ところどころに金糸や銀糸の装飾のついた濃青の上着に、真っ白いパンツを穿いた俺を見て莉緒が頬を赤くしている。
家具を揃えた翌日は、服飾店へと完成した衣装を受け取りに来ていた。
俺は一度着替えてみたんだが、一方の莉緒の服装はというとドレス姿ではなかった。
「莉緒は着替えないの?」
「あ、うん。着替えてくるね」
はにかみながらも奥の試着室へと店員さんと向かっていく。
試着したときとは違うドレスになるけど、サイズ合わせの時は見れなかったからな。かなり楽しみだ。
しばらく待っていると、奥の試着室の扉がゆっくりと開いて半分くらいで止まる。隙間から莉緒が顔を出してきた。
「着替えてきたよ……」
なにやらもったいぶりながらも隙間から徐々に出てくる莉緒。オフショルダーの真っ白なワンピースドレスだ。ところどころにレース編みが施されており、ふんわりと足首まで広がるスカートがかわいらしい。
「すごく……、綺麗だよ」
語彙力のなさが恨めしい。本当に綺麗だ。この世界に召喚されて最初に会った頃はちょっとぽっちゃりしてたと思うけど、今じゃホントにスマートになったなぁと思う。
「スマホがあったら写真撮りまくってるのになぁ」
「あはは。ありがと」
莉緒へと近づいていくと、頬に片手を添えて軽く口づけを交わす。
「おほん。衣装にどこか気になる点はございますでしょうか?」
とそこに、店員さんから最後の確認が飛んできた。そういえばいるの忘れてた。改めてじっくりと自分の姿と莉緒を観察してみる。
「あ、問題ないと思います」
「はい、ありがとうございます。このまま着て帰られますか?」
「えーっと、いえ、着替えて持って帰ります」
「承知いたしました」
本番は明後日だ。その前に汚すのもなんだし、普段着に着替えて俺たちは店を出る。
「ご利用ありがとうございました」
店員さん一同に見送られて店を出ようとしたところで――
「おや? ……確かあなた方は。こんなところで会うとは、奇遇ですね」
どこかで会ったことがあるようなないような、細身で細目をした男が姿を現した。
うーん。どこで見たんだっけか?
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