第70話 宿には泊まります
「いやー、これである程度凝った家作っても無駄にならずに済むな」
毎回作っては壊してたけど、これならむしろ少しずついい家にしていけるな。あんまり大きくはできないけど、機能性の追求はできそうだ。
「そういう問題じゃねぇから!」
空想に耽っていると、みんなを代表してフリストがわざわざ出てきてツッコミを入れてくれる。
「異空間ボックスって、入り口大きく広げるだけで結構魔力食うんじゃなかったかしらぁ?」
「リオもかなり魔法が使えるんだなぁ」
フリストと違って、ミルカとエミリーは素直に感心しているようだ。
「あはは」
本人は苦笑いしてるけど、俺としても莉緒が褒められて悪い気はしない。
「おっと、あと少ししたら出発しますので準備をお願いしますねー」
家を収納しつつも話をしていたら結構時間を食ったようだ。さっさと朝食を済ませると馬車に乗り込み、野営地を出発した。
ほどなく左側に天狼の森が現れ、道も少し狭くなってくる。馬車はひたすら南下を続ける。
「そういえば天狼茸が名物って聞きましたけど、他に何かあります?」
ギルドでは茸のことしか聞いていない。他になにか面白いものはないか、現地に詳しそうな人に聞いてみるのが一番だ。
「んー、そうだなぁ。まぁ伝説と言われてる話なら」
「そんなのあるんですか」
「村の名前になってるくらいだからねぇ」
「もしかして、フェンリルっていう魔物が出たり?」
俺が予想を口にすると、隣に座るフリストと前に座る女の子が驚いた顔になる。
「お兄ちゃんフェンリル知ってるの?」
まぁいろいろと有名な名前だからな。ゲームや漫画によっちゃ、神獣とか呼ばれたりもする存在だし。ましてや村の名前になってるのなら、何か由来がありそうだよな。
「いや、名前を聞いたことがあるくらいだな」
「えーっとね、フェンリルはね、悪いことした子の前に現れて、がぶって食べちゃうんだよ!」
両手を広げてフェンリルの大きさを表現する女の子がとても可愛い。
「へー、それは怖いわねぇ」
莉緒が話を合わせて怖がっている。
「じゃあそのフェンリルが天狼の森に出るんですか?」
改めて尋ねるが、フリストは首を左右に振るばかりだ。
「あくまで伝説だからな。実際に出たという話は二百年以上聞かないらしい」
「でも天狼の森の奥地にはシルバーウルフの魔物が出るからね。単体だとCランクだけど、群れるとBランクになるからね。あたいたちじゃ敵わないから逃げるしかないけど」
「えっ? そんなのが森にいて村は大丈夫なんですか?」
話を聞くとシルバーウルフは村に出てきたことはないらしい。相当豊かな森らしく、獲物も豊富なんだとか。森の奥地に生えている天然物の天狼茸を狙った冒険者がたまに遭遇するくらいだとか。なんでも奥地にあるものほど香りがよくて美味いらしい。
そんなことを聞いたら採りに行きたくなるね。
「さぁ着きましたよ」
その日の夕方、無事に天狼の村フェンリルに到着した。三メートルほどの高さの木造の塀に囲まれていて、村とは言えどそれなりにしっかりしたつくりをしている。
門で一通りのチェックを受けると馬車は村の中へと入っていく。木造の家屋が多く、いかにも村といった風情だ。
「すごく茸の香りがする……」
そして一番に気が付くのが、村中に漂う茸の香りだろうか。なんというか村の中にいるだけでお腹減ってくるんだけど。
「ははは、まぁ一般家庭でもよく食われる茸だからな」
「そうなんですね。高級品かと思ってましたけど」
「収穫した茸全部が売り物になるわけじゃないからな」
なるほど。形が悪かったり小さかったりするやつかな。
「では私たちはこれで」
「ばいばい、お姉ちゃんとお兄ちゃん」
「じゃあな」
乗合馬車の停留所へ到着すると同乗者とは解散だ。
「さて、俺たちも行くか」
「宿はあっちかな」
フリストに教わったおススメの宿へと向かう。日も沈んだこの時間帯ともなれば、開いているお店も少なくなっているので宿へと向かうしかない。特産品の茸で発展した村だからか、そこそこよさそうな宿が数件並んでいる。中でも一番大きな宿へと俺たちは足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
カウンターの向こう側にいたのは、落ち着いた雰囲気の女性だ。村の宿というには似つかわしくない、なんとなく高級ホテルといった空気感がある。
「二人ですけど、部屋空いてますか?」
「二人部屋でよろしいですか?」
「はい」
「少々お待ちください……」
調べてもらったところ、通常のツインの部屋とお高めの部屋があったので、お高めの部屋にしておいた。料金は2000フロンだったが問題ない。
「夕食はいかがいたしましょうか。天狼茸のフルコースもございますよ」
「じゃあそれで」
「かしこまりました」
「えぇっ!?」
思わず即答したら莉緒にツッコまれる。
「いやだって、あの天狼茸のフルコースだよ? 村に入ってからいい匂いするし、莉緒は我慢できる?」
「…………でも値段も聞かずに決めなくても」
微妙な間を開けて返ってきた言葉はそこまで否定的でもなさそうだ。きっと莉緒もこの匂いには勝てなかったに違いない。
「せっかく来たんだし、その土地の名産品は堪能しないと」
「……そうね。私も食べたくないわけじゃないし、結局頼んでたかも」
「ではお部屋までご案内しますね」
俺たちのやり取りを微笑ましそうに見ていたお姉さんに部屋へと案内される。ちなみにフルコースは一人前15000フロンだった。
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