第69話 お片付けはしっかりと
「…………いやいやいや、普通に家じゃねぇか」
長い沈黙の後、リーダーであるフリストがようやく言葉を絞り出す。
「結構快適ですよ?」
「そりゃそうだろうが、そういう問題じゃねぇ」
「……魔力は大丈夫なのー?」
フリストに続いて魔法使いのミルカが心配そうに尋ねてくる。
「大丈夫ですよ。慣れてますから」
いつものことなので問題はない。
「ふふ、でもいつもより時間かけて丁寧に作ってたわね」
小さい声で莉緒からツッコミが入るが、まさにその通り。ちょっと見栄を張っていつもよりがんばりました。
「……ちょっと中を見せてもらってもいいか?」
「あたいも見たい!」
好奇心を押さえきれずにフリストが告げると、斥候のエミリーも手を挙げる。
「かまいませんよ」
「やった!」
「皆さんもよければどうぞ」
扉を開けて中に入ると空中に光魔法で光源を浮かべる。寝るだけの部屋なのでそこまで広くない。四畳半ほどの広さに、ダブルベッドサイズの台が置いてあるだけの部屋は、六人も人間が入るといっぱいになった。
「……また魔法。ランプは持ってないのかしらぁ」
「ここは?」
エミリーが差した場所にはまた扉がある。別に見られて困ることはないので「どうぞ」と言って許可を出した。
「えっ……? もしかしてお風呂!?」
扉を開けてしばらく固まったあと、正解の言葉が出た。
「そうですよ。俺たち綺麗好きなもんで」
この世界、風呂はあるにはあるが、日本人ほど風呂に入る習慣はないみたいなんだよな。石鹸もそこそこの値段するからかもしれないが。
「もしかしてお湯も魔法でー?」
「ええ、そうよ」
風呂の説明は莉緒に任せて寝台でも整えておこうか。毛皮を取り出してベッド代わりの台へと敷いていく。早く高級ベッドが欲しいところだ。せっかく商業国家なんだし、いろいろ揃えていこう。
「かー、こりゃ贅沢な野営だな」
参ったとばかりに額に手をやるフリスト。
「そうですかね?」
「そりゃそうだ。今はいいが冬場や雨天時の野営を考えれば、こんなに快適な空間は存在しねぇよ」
横では寡黙な剣士ランベルトが壁をコンコンと叩いて強度を確認している。
「……頑丈だな」
ぼそりと呟くと感心したように頷いている。
確かに、この家は悪環境にも強い。そういう風に作ったんだし、簡単に壊れてもらっては困る。
「お前たち、ホントにEランクの冒険者なのか?」
今度は別の意味での疑いの眼差しを向けられてしまった。
「ホントにEランクですって。ギルド証も見せたでしょう」
「いや、まぁ確かにそうなんだが……。あー、まぁ冒険者ギルドに登録していない実力者もいないこたぁねぇし、そういうことなんだろうな」
「はは、まぁそういうことで」
「何にしろ、面白いもの見せてもらったよ。オレたちはオレたちで戻って休むとするか」
「ありがとね、シュウ」
「ええ、どういたしまして」
お礼を言って去っていく四人組のパーティーを見送ると、即席で作った家には莉緒と二人だけになった。
「あれが一般的な冒険者の反応なのかしらね?」
「たぶんそうじゃないかなぁ」
自分たちの野営の様子は、今まで誰にも見せたことはない。あの四人が初になるんだけど、結構目立つかもしれないな。でもまぁ、城をぶっ壊したことに比べたら大したことはないか。
「俺たちも風呂入って寝るか」
「うん」
こうして初めての乗合馬車での野営の夜が更けていく。
「おはようございます」
夜明けとともに起きて外に出ると、ぽかんと口を開けて家を眺める四人がいた。昨日家の中を案内した冒険者以外の四人だ。
「……昨日までありませんでしたよね?」
「この家、お兄ちゃんとお姉ちゃんが作ったの!?」
朝の挨拶もすっ飛ばして、さっそく親子からツッコミが入る。そりゃ一晩でできたら驚くよな。
「あぁ、魔法でちょちょいっとやって作ったんだ」
「お兄ちゃんすごーい!」
さすがにちびっこは素直だな。幼女とはいえ褒められて悪い気はしない。
「まぁあとで壊すけどな」
「ええー!? もったいない……」
壊す宣言をしたとたんにしょんぼりする。その姿もなんだか可愛くてほんわかする。
「えっ? 壊してしまうんですか?」
商人のウォーレンも残念そうな表情になるが、わざわざ残しておくものでもないのだ。
「ええ、そうですね。何もないところに家ができたと騒ぎになるのも面倒ですし」
「もったいない……。持ち運べれば便利そうですが、すぐに作れるのであればそれでもいいかもしれませんね」
持ち運びとな? ……そういえば家を持ち運ぶ発想はなかったけど、もしかしたら持ち上げられたら異空間ボックスにも入るのかも? この家よりでかい獲物も入ってることだし。
「ちょっと試してみますか」
「えっ?」
「莉緒」
「はーい」
真顔になるウォーレンをスルーして莉緒に声を掛けると、さっそく家に重力魔法を掛ける。頑丈に固めた家の基礎から上を軽くすると、ゆっくりと持ち上げる。
「えええええっ!?」
隣で莉緒が異空間ボックスの入り口を大きく広げて待ち構えているので、そこめがけて家をゆっくりと収納していった。
「入ったな」
「うん」
「「「「いやいやいやいや!」」」」
一仕事終えて満足した俺たちに、遠くから見ていたフリストたち含めた全員から総ツッコミが入るのだった。
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