第35話 殺人未遂
もしかしてこの間絡んできた冒険者のことを言ってんだろうか。莉緒が威嚇でアースニードルを撃って追っ払ったけど、『死ね』とかいいながら襲い掛かってきたのは向こうだし。
「証拠はあるんですか?」
揉めた現場を見ていた人なんていないだろう。それに窃盗ってなんだよ。そっちこそ心当たりまったくないんだけど。
「証拠はお前たちが持っているらしいじゃないか。あとで出してもらうぞ」
「はい? 俺たちが持ってる? 何を……? まさか殺人未遂の証拠?」
「殺人未遂はついでだ、ついで。盗んだもの持ってるんだろう?」
いやさっぱりわからんのだが。殺人未遂がついでって、あのとき絡んできた冒険者たちは関係ないのか?
「何か盗んだ覚えはないんですけど、何を盗んだのか教えてもらえますか?」
「ふん、大っぴらに話すもんじゃない。詰め所で教えてやる。大人しくついてくるんだ」
苦々しい顔つきでそう告げてくる衛兵。
「柊……、どうするの?」
「盗んだものも教えてくれないし……。わけわからないうちにホイホイと付いていくのも納得できない」
「抵抗するなら痛い目にあってもらうぞ」
金属製の棒をすらっと抜き放つ。刃物ではないが、鈍器としてはしっかり機能しそうだ。
「とりあえず逃げるか」
衛兵っていうのはどれくらいの強さなんだろうか。師匠ほどじゃないと思うけど。
「わかったわ」
大通りから一本外れた道ではあるが、そこそこに広く人通りもある。気が付けば野次馬に囲まれていて逃げる隙間はない。今更慌てても同じか。
「いいんだな。まぁどちらにしろ衛兵に目をつけられたからには、もうこの街にはいられないが」
「いいも何も、捕まってもロクなことにならないでしょ」
まったく……、衛兵っていうとまぁ、公務員だよな。召喚っていう方法で誘拐した挙句、黒装束のやつらには殺されそうになるし、今度は衛兵か。ほんとこの国って最悪だな。
だんだんイライラしてきたぞマジで。一週間分払った宿はちょっともったいないけどしょうがない。どうせ荷物は宿に置いてないし。
「野次馬が邪魔だから、散らそうか。……火球100発くらい浮かべたら逃げるだろ」
「おっけー」
莉緒にだけ聞こえる小さい声でそう告げると、一歩前へと出る。背後から莉緒の魔力が高まると、ファイアボールの魔法が発動し、火球が100発ほど周囲に浮かぶのがわかった。
構えを取った衛兵だったが、莉緒の魔法発動を受けて動揺している。周囲の野次馬もざわつき、何人か逃げ出した気配を感じつつ、俺も両足に魔力を込めて衛兵へ向かって飛び出した。
「はっ!」
気合一閃、軽く魔力を込めた両掌を二人の衛兵の腹部へと叩き込む。
「「ぐはっ!」」
真ん中二人が軽く吹き飛び、両端の二人はようやく反応できたのか棍棒を振り下ろしてきた。しかしその動きはすごく遅い。師匠なら俺が突っ込んだ時点で魔法でカウンターを入れてくるな。
余裕を持ってそれぞれの棍棒を両手で掴む。振りほどこうと引っ張るので、掴んだ棍棒を勢いよく押し込んで吹っ飛ばしてやった。
「たった四人でなんとかなると思うなよ」
衛兵の皆様が大したことなくてよかった。
掴んだままの棍棒を地面へと投げ捨てると、悠々と前方へ歩き出す。後ろから火球を浮かべた莉緒もそのまま付いてくると、さすがの野次馬も阿鼻叫喚の悲鳴を上げながら散っていった。
「ま、待て!」
棍棒で吹き飛ばした一人が上半身を起き上がらせて制止の言葉を発する。足を止める必要はなかったけど、ぶっ飛ばしたことで多少気分がスッキリしていた俺は。
「まだ何か?」
足を止めて振り返る。
「そ、それをどうするつもりだ」
莉緒の背後に浮かぶ火球を、震える腕で指さす衛兵。
「あぁ」
俺も莉緒を振り返って、「もういいんじゃない?」と問いかける。彼女も軽く頷くと、火球を維持していた魔力が周囲へ溶け込むように消えて行く。
「なっ!」
あとは発射するだけの魔法と違って、発射後も操れるように発動した魔法はこうやって消すこともできる。魔法で生成した水や土といった物質を消すのは難しいが、実体のない火や風といったものは比較的容易だ。
「じゃあな」
「バイバイ」
「……くそっ!」
それでも俺たちを追いかけるためになんとか立ち上がろうとする衛兵たち。何度も立ち塞がられると面倒だ。
「応援来る前にさっさと行こうか」
莉緒にそう告げると駆け足で街の西門へと向かう。ここから街の外に出るには西が一番近そうだ。
「これからどこ行くの……?」
彼女も不安そうに聞いてくるけど、それは俺にもわからない。
「はは、どうしようか。師匠は外の世界を見て回れって言ってたけど、引きこもりたくなるよね」
「でもまだ魔の森から出てきたばっかりよね」
「そうなんだよなー。ただ逃げ回るだけってのもなんか腹立つし……」
「うん、私も……。どうにか仕返しがしたい」
「そっか……。じゃあちょっと、まずは様子でも見に行こうか」
「えっ?」
大通りを走り抜けながら、莉緒は首をかしげるという器用なことをこなしている。
「王都とか大きい街に行けば何かわかるかもしれないし、ちょっと召喚された勇者っていうのが、世間でどう思われてるのか調べようか」
「うん」
「それに、大きい街じゃないと神殿がないだろ?」
「あ……! うん!」
付け足した俺の言葉の意味を察したのか、莉緒が嬉しそうに大きく頷いた。
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